第28話 リリーの友人と、チキンライス
極彩色のゲートを背景に、混沌とした街の熱気を眺めていると、六時を少し過ぎた頃、人混みの向こうから見慣れたリリーの笑顔が近づいてくるのが見えた。彼女の隣には、穏やかな表情を浮かべた男女が二人、寄り添うように歩いている。
私は大きく手を振って、精一杯の笑顔で迎えた。
「Sumire, did I keep you waiting?
(すみれ、待たせちゃった?)」
「ううん。街ゆく人を眺めていたら、時間なんてあっという間に過ぎちゃったわ」
「Glad I didn’t keep you waiting. Let me introduce you first. This is my colleague and dear friend, Eva, and this is Mike. They’re married.
(良かった。まずは紹介するわね。私の同僚で、大切な友人のエバとマイクよ。二人は夫婦なの)」
「Nice to meet you, I’m Eva.
(初めまして、エバよ)」
「Nice to meet you, I’m Mike.
(初めまして、マイクです。よろしく)」
中華系だという二人は、私と同じ黒い髪と瞳を持っていて、どこか親近感を覚える外見をしていた。
「初めまして、すみれです。お会いできて本当に嬉しいです」
簡単な自己紹介を済ませると、リリーが「Alright! ( よし!)」と活気よく声を上げた。
「Now that we’ve finished introductions, let’s head to the restaurant. It’s just nearby. Make sure you keep your appetite!
(挨拶も終わったところで、早速レストランへ移動しましょう。すぐそこよ、お腹を空かせておいてね!)」
リリーを先頭に、私たちはチャイナタウンの熱狂の中を縫うように歩き、一軒の老舗の前で足を止めた。
『南香(Nam Heong)』。
店先には艶やかに蒸し上げられたチキンがずらりと吊るされ、本場の空気感が漂っている。一九三八年創業。ミシュランのビブグルマンにも掲載されているという、マレーシアを代表する『海南鶏飯 ハイナンジーファン』の専門店だ。
歴史の重みを感じさせる店構えに期待を膨らませながら、四人掛けのテーブルに案内される。
「We’ve got to try their signature chicken rice here. Can I go ahead and order the recommended dishes?
(ここはやっぱり、看板メニューのチキンライスを食べなきゃ。おすすめを頼んでいい?)」
リリーに促され、オーダーしたのは『双拼碟头饭(Twin Mix Roasted)』のセット。ローストとスチームの二種類を楽しめる贅沢な一皿だ。イポー産の名物もやしと、澄んだフィッシュボールスープもついてくるという。部位の指定もできるそうだが、初めての私はリリーにすべてを委ねた。
注文からわずか五分。テーブルの上は、あっという間に黄金色の輝きに包まれた。
ふっくらと炊き上げられたライスからは、鶏出汁の芳醇な香りが立ち上っている。リリーが選んでくれたのは、しっとりと柔らかな「むね肉」の部位だった。
テーブルに並んだ、艶やかなチキンライス。その傍らに、私はバッグから『マレーシア仕様』の《《くまのスミレ》》をそっと取り出した。
「みんな、この子と一緒に写真を撮ってもいいかしら? 私の旅の相棒なの」
尋ねると、リリーは身を乗り出して目を輝かせた。
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