↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
68/70

マロ、かっこよかったよ

 午後の授業は、魔法の迷路だった。


 先生が杖を振る。

 すると、何もなかったグラウンドに木々が生え始めた。


「わぁ……」


 あっという間に、辺りは夜の森に変わった。


 暗い空。生い茂る木々。


 空気まで変わっている。

 土と葉っぱの匂いがした。


 不思議だ。


「今日は、ハロウィンのカボチャ探しを行います」


「かぼちゃさがし?」


「森のどこかに、魔法で隠されたカボチャがあります。二人一組で探してください。もちろん、魔法を使っても構いません」


 先生の説明を聞きながら首をかしげていると、マロが教えてくれた。


「ハロウィンでもやるやつだよ。街の外れの森だったかな」


「ああ。見つけたチームは、なんか貰えるんだよな」


 ミロが思い出したように言う。


「うん。すごいお菓子だったと思うよ」


「すごい、おかし……」


 それはぜひ食べたい。


 やる気が出てきた。


「じゃあ、ペアを発表します」


 先生が順番に名前を呼んでいく。


 俺はマロとペアになった。


「マロ、いこう!」


「あ、ルナさん、待って!」


 森の中へ、どんどん入っていく。


 こういうの、なんだかワクワクする。


 樹だった頃なら、学校の授業で宝探しか、くらいにしか思わなかったかもしれない。


 でも、今は違う。


 心までルナに引っ張られているせいか、冒険に出るみたいで楽しかった。


 ――だけど。


 楽しかったのは、最初だけだった。


   ※


「みつからないよー!」


 森は思っていたよりずっと深い。


 そして、暗い。


 レイを使えば、周りを明るくすることはできる。


「レイ!」


 ぽうっと光が浮かぶ。


 それでも照らせるのは、せいぜい近くの木々までだ。


 入り組んだ森の中では、どこにカボチャがあるのかなんて全然わからない。


「ほんとだね。僕も全然見つからないや」


「かぼちゃー! どこー!」


「あはは。呼んでも出てこないと思うよ」


「むぅ……」


 どこかで動物の鳴き声がした。


「ひっ」


 思わずマロの近くに寄る。


 暗いし、変な音はするし。


 これ、本当に授業なんだよな?


『皆さんにお知らせします』


 突然、先生の声が森に響いた。


『ミロさんとミミさんのペアが、カボチャを見つけました。皆さんも頑張りましょう』


「えええ! ミロ、すごい!」


「うん。さすがだよね」


「ミロ、こういうの、とくいなの?」


「ううん。そんなことないと思うよ」


 マロが少し笑った。


 それから、何か思い出したように続ける。


「たぶん、すごく頑張ったんだと思う」


「なんで?」


「ジンクスがあってね」


「じんくす?」


「うん。カボチャを見つけたペアは、願い事が叶うって言われてるんだ」


「おねがいごと……」


 ありがちな話だと思った。


「ミロ、なにか、おねがいごとあるの?」


「……うん」


 マロは少しだけ黙った。


 足元の葉っぱを踏む音だけが続く。


「お父さんさんとお母さんに、認めてほしいんだと思う」


「え?」


 マロが前を向いたまま話す。


「……まだ、ミロが男の子だって、なかなか受け入れられなくてさ」


「そっか……」


「うん」


 マロはそれ以上、何も言わなかった。


 俺も聞かなかった。


 更衣室でのことを思い出す。


 家族のことは、簡単じゃない。


 それくらいは、俺にもわかる。


 ミロが願い事をしなくてもいい日が来ればいいのにな。


 そんなことを考えた、その時だった。


 ガサッ。


「……え?」


 すぐ横の草むらが、大きく揺れた。


 足が止まる。


 樹の体だったら、なんてことはなかったと思う。


 たぶん、何がいるんだろうと覗き込んでいた。


 でも、今の俺はルナだ。


 頭より先に心なのだ。


 簡単にいうと、怖い。


 すごく、怖い。


 ガサガサッ。


「ま、マロ……」


 声が震える。


 足が動かない。


 その様子を見て、マロが何かを察したらしい。


 すっと俺の前に出た。


「……マロ?」


 長めの黒髪が、動きに合わせて揺れる。


 普段から中性的で、おとなしい印象のマロ。


 そんなマロが、今は両手を広げて俺を背中に隠していた。


「こわいよぉ……」


 俺はマロの背中にしがみついた。


 背丈はそんなに変わらない。


 なのに、その背中が少しだけ大きく見えた。


「大丈夫だよ。ルナさん」


 そう言うマロの声も、震えていた。


 怖いんだ。


 マロだって怖い。


 それなのに、一歩も下がらない。


 ガサガサッ!


 草むらが、さっきより大きく揺れた。


「ひっ……!」


 俺は身を小さくすることしかできない。


 マロのシャツを握る手に、ぎゅっと力が入った。


「……こっち来ないで」


 マロが言った。


 小さな声だった。


 だけど、草むらはまだ揺れている。


 マロの膝が震えた。


 それでも。


「こっち、来ないでっ!」


 二回目の声は、大きかった。


 俺は顔を上げた。


 いつも穏やかで、ミロとの間に入ってばかりいるマロが、俺の前で足を踏ん張っている。


 膝はまだ震えている。


 怖いはずなのに。


 それでも、俺を庇って立っている。


 ガサッ。


 草むらが揺れた。


 そして――音が遠ざかっていく。


 ガサ、ガサ……。


 だんだん小さくなって。


 やがて、聞こえなくなった。


「…………」


「…………」


 森が静かになる。


 しばらく、二人とも動けなかった。


「……いった?」


「うん……いったと思う」


「ほんと?」


「たぶん」


 マロが大きく息を吐いた。


 そのまま、ぺたんと地面に座り込む。


「はぁぁぁ……怖かったぁ……」


 俺も隣にしゃがんだ。


「マロ、ありがとぉ」


「あ、う、うん。何もなくてよかった」


 マロが手をぱたぱたさせて、顔を仰いでいる。


 額には汗が浮かんでいた。


「マロ」


「なに?」


「かっこよかった」


「え?」


 手が止まった。


「まもって、くれた」


「……っ!」


 マロの顔が一気に赤くなる。


「そ、そんなことないよ!」


「あるよ」


「ないよ! だって僕、めちゃくちゃ怖かったもん!」


「でも」


 俺はマロを見る。


「こわいのに、まえに、でてくれた、よ?」


「…………」


「だから、かっこよかったよ?」


 マロは長い前髪を落とすように俯いて、両手で顔を覆った。


 黒髪の隙間から見える耳まで、真っ赤になっている。


『そろそろ時間です。皆さん、戻ってきてください』


 先生の声が森に響いた。


「あ、おわっちゃった」


「い、行こう、ルナさん」


「うん!」


 マロが勢いよく立ち上がる。


 俺もその隣に並んで、来た道を戻り始めた。


 少し歩いたところで。


「あの……」


「うん?」


 マロが前を向いたまま言った。


「手、繋いだほうが……いいかもしれない」


「なんで?」


「ほ、ほら。暗いし」


「そっか!」


 マロがそっと手を差し出す。


 俺は何も考えず、その手を握った。


「えへへ! いこ!」


「……うん」


 マロの手は、まだ少し震えていた。


 でも。


 さっきより、ほんの少しだけ温かかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。