↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/70

ミロの容量、オーバー

 魔法学校の教室。

 俺はライラのお母さんの言葉を思い出していた。


「次の試験は、魔力を他の人に分けることです」


 それ以上は教えてくれなかった。

 コントロールに関わることなのはわかる。


 だけど、人に分けるって。


 自分の中にあるものを、どうやって外に出すんだ?


 自分の魔力を感じることはできる。

 でも、それを外に押し出す方法なんて想像できない。

 やっと魔力を受け入れたのに、外に出すなんて。


 そんなことを考えている時だった。


「はい。じゃあ、ここ。ルナさん、わかりますか?」


「ふぇっ」


 先生に当てられた。


 やばい。全然聞いていなかった。

 黒板を見る。数字が並んでいる。

 どの問題だ。というか今は何の授業だ。


「えーっと、えーっと」


「三十」


 隣から小さい声がした。

 ミロが口だけ動かして、こっちを見ないまま言っている。


「あ、さんじゅう、です」


「正解! よく勉強していますね」


 先生が満足そうに頷いて、黒板に戻った。


 助かった。


「ミロ、ありがと!」


「別に。これくらい、わかれよな」


 そう言いながら、ミロは前を向いたままだった。


 ちょっと嬉しそうなのは、気のせいかもしれない。


   ※


 昼休み。


 俺はミロとマロと三人で、お弁当を広げていた。


「ミロって、わかりやすいよね」


 マロがぽつりと言った。


「何がだよ?」


「だって、あんなあからさまにさ」


 何のことだろう?


 マロの言いたいことが、いまいちわからない。


「だから、何が」


「言っていいの?」


「……ダメだけど」


 ミロにはわかるのか。さすが双子だ。


「え? なあに?」


「ごめん、ルナさん。僕からは言えないんだ」


「えええ。ミロ、おしえて?」


「何でもねーよ!」


 なぜか顔が赤い。


 うーん。


 考えてもわからないので、俺は弁当に戻ることにした。


 月菜が作ってくれたお弁当だ。


 卵焼き、ブロッコリー、それから唐揚げ。


 この唐揚げが絶品なんだ。


 衣がざくっといって、噛むと肉汁が出てくる。生姜が効いている。


「おいひぃぃ」


 ふと視線を感じて顔を上げると、ミロが箸を止めて俺を見ていた。


「なあに?」


「! 何でもねーよ!」


 わけがわからない。


 うーん。こいつ、さっきから「何でもない」しか言っていない。


   ※


 弁当を食べ終えて、三人でダラダラしている。

 俺は思い切って、課題のことを聞いてみることにした。


「ふたりは、まりょくを、わけっこできる?」


「え、どうしたの? 急に」


 詳しくは言えない。


 封印のことも、自分が樹だということも、二人には話していないからな。


「えっと、クロエおねえちゃんから、やってもらったことあって」


「うん」


「みんな、できるのかなあって、おもって」


「あ、そうなんだ」


「俺とマロはできるぞ」


 ミロが空になった弁当箱の蓋を閉めながら言った。


 できるのか。


 あれ。


 もしかして、割と簡単なことなんだろうか。


「みたいみたい!」


「えー、疲れるからやだ」


「むー。ミロのけちんぼ」


「けちじゃねーし」


「まあまあ、ルナさん」


 マロが間に入ってくれた。


「よかったら教えるよ。そんなに難しくないから」


 やっぱり、持つべきものは友達だ。いや、持つべきものはマロだ。


 俺たちは早速、教室の隅で試してみることにした。


「じゃあ、ミロの手を取ってね」


「え、なんで俺なんだよ」


「僕が説明する係だから」


「わかったよ! ミロ、いーい?」


「……ま、まあ、いいけどさ」


 手を繋ぐ。


 小さくて、柔らかい手だった。


 まあ、俺の手も今は同じようなものだけど。


 繋いだ瞬間、ミロの顔がじわじわ赤くなっていくのがわかった。


 しかも、思いきり違う方向を向いている。


「ミロ、だいじょうぶ?」


「……」


 返事がない。


 息が浅い気がする。


「じゃあ始めるよ。まず、自分の中のあったかいのを探して」


「うん」


 目を閉じる。


 胸のあたり。ちゃんといる。


「そのあったかいのを、腕に流すんだ。肩から、肘へ。肘から、手のひらへ」


「うん」


「そのまま、相手の手に通すイメージだよ」


「わかった!」


 言われた通りにする。


 胸の中にいた小さな春が、腕を通って指先までやってくる。


 ここまではできた。


 でも、そこから先へ行ってくれない。


 手のひらに透明な壁でもあるみたいに、ぴたりと止まってしまう。


 「むむむ」


 押しても出ていかない。


 握り方を変えてみる。


 にぎにぎ。


「……お、お前!」


「うーん。うーん」


 ぎゅっ。ぎゅっ。


「……」


「ミロ、どう?」


 マロが聞いた。


 ミロは何も答えない。


「……ミロ?」


 俺は心配になって、ミロの顔を覗き込んだ。


 目が合う。


 真っ赤だった。


 鼻の頭まで真っ赤で、口が半分開いている。


「やっぱり、ルナじゃ、ダメ?」


 言った瞬間だった。


 ミロの体が、びくんと跳ねた。


「……あ」


 そのまま、後ろに倒れた。


「ミロ!?」


「あちゃ〜」


 マロが慌てず、ミロの頭を支える。


「こうなっちゃったか」


「ど、どうしたの!?」


「うーん。まあ、ミロは大丈夫だよ」


 マロが苦笑した。


「ちょっと、容量オーバーになっただけだから」


「ようりょう?」


「うん。そのうち起きるよ」


 床に伸びたミロは、赤い顔のまま何か小さく呟いていた。


 聞き取れなかった。


 俺は自分の手のひらを見た。


 結局、魔力は一ミリも出ていかなかった。


 道のりは、まだ遠そうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。