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着せ替えルナちゃん

「へ〜! こっちの世界ではハロウィンの時期なんだね」


 今日あったことを話すと、月菜が驚いていた。


 夕飯はグラタンだった。

 スプーンを入れると、表面のチーズがぶちりと裂けて、下から真っ白なクリームがとろりと持ち上がってくる。


 熱い。

 でも、止まらない。

 マカロニが出てくる。海老が出てくる。

 掘るたびに何かが出てくる。


 グラタン、楽しい。


「じゃあ、ルナたちも行くのね」


 ライラが聞いてきた。


「うん。ミロとマロもだよ」

「むむ」


 月菜がジト目でこっちを見てくる。


 なんだろう。


 でも、グラタンがおいしすぎてそれどころじゃない。


「じゃあ、明日は衣装を買いに行ってらっしゃいな」


 お母さんが、いいことを思いついたように言った。


「いいですね!」


 月菜がすぐに身を乗り出す。


「私、明日は用事があるから」

「あら。ライラにお願いしようと思ったのに」

「クロエを誘えばいい」


 クロエか。


 魔力をコントロールできるようになってから、まだ会っていない。

 特訓のお礼も、ちゃんと言いたいと思っていた。


「そうね。月菜ちゃん、連絡取れるかしら」

「はい! 聞いてみます」


 月菜がスマホを取り出して、メッセージを打ち始めた。

 この世界でもスマホってあるんだな。


「あ、返ってきた」

「はやっ」


 十秒くらいしか経っていない。


 月菜のスマホを覗き込む。


 ――何があっても行くわ。


 え?

 ただの買い物だよな?


 ※


 次の休日。


 俺たちはショッピングモールに来ていた。


 待ち合わせ場所にいたクロエは、いつものお団子ではなかった。

 金色の髪を三つ編みにして、眼鏡をかけている。

 学校で見るより少し大人っぽく見えた。


 その隣には月菜がいる。


 月菜は長い黒髪を下ろして、白い帽子をかぶっていた。

 つばの下から覗く大きな茶色の瞳が、いつもより少し大人っぽく見える。


 ……かわいい。


 いや、月菜がかわいいのはいつものことだけど。

 なんだか今日は、いつもより目で追ってしまう。


「ルナちゃん?」

「ふえ?」


 月菜の大きな茶色の瞳が、俺を覗き込んでいた。


「どうしたの?」

「な、なんでもないよ!」


 危ない。

 じっと見すぎた。


「クロエちゃん、眼鏡なんだね? 可愛い」

「……よく見たかったから」

「何を?」

「……ルナちゃん」


 最後だけ声が小さくて、俺には聞き取れなかった。

 でも、なぜか月菜は笑顔で頷いている。


 何だろう?


 ショッピングモールにはたくさんの人が行き交い、店から音楽が流れている。

 少し離れたフードコートからは、おいしそうな匂いまで漂ってきた。


 こうしていると、ここが月だということを忘れそうになる。


  ※


 ハロウィンが近いからだろう。

 衣服店の一角には、大きな仮装コーナーが作られていた。


 魔法使い。

 看護師。

 警察官。

 恐竜。

 お化け。

 天使。


 まだまだある。


「ふわぁ! いっぱいあるんだね。なにがいいかなぁ」


 正直、俺はどれでもいい。


 それよりも、さっきから視界の端にちらちら入ってくるものが気になって仕方がない。


 クレープ。

 たこ焼きみたいなもの。

 ソフトクリーム。


 おいしそう。


「ルナ、はやくたべものやさん――」


 行きたい。

 そう言いかけて、止まった。


 なんだろう。


 二人が、すごい顔で衣装を見ている。


「月菜」

「うん」

「私、全部いいと思うの」

「うん。私もそう思う」

「大丈夫。お金ならあるわ」

「私も。今日なくなってもいい」


 何が?

 何が大丈夫なの?


「あ、あの。おねえちゃんたち?」


 二人が同時にこっちを向いた。


 俺は一歩下がる。


「か、かおが、こわいよ?」

「大丈夫よ、ルナちゃん。怖くないわ」

「そうだよ。ね、あっち行こうね、ね?」


 二人とも笑顔だ。


 笑顔なのに。


 なんでだろう。

 ものすごく寒気がする。


 右手を月菜に。

 左手をクロエに。


 がしっと掴まれた。


「た、たすけてぇぇぇぇ!!」

「ルナちゃん、大丈夫よ。すぐ終わるわ」

「写真いっぱい撮らなきゃ……!」


 こうして俺は、二人の着せ替え人形になった。


「まずは王道の魔法使いね」

「とんがり帽子! ちょっと大きいのがいい!」

「わかってるわね、月菜」


 ぽすっ。


 頭に帽子を被せられる。


 大きすぎだ。

 ずるずる落ちてきて、目の下まで隠れる。


「かわいい!」

「写真、写真」

「みえないよお!」


 次。


「天使! 羽根があるやつ!」

「背中のここ、ちょっと直すわ」

「ルナちゃん、じっとしててね」

「じっとしてるぅ」


 ぱしゃぱしゃぱしゃ。


 次。


「恐竜も見たいわ」

「え、きょうりゅうさん? ハロウィンなのに?」

「可愛ければ何でも大丈夫だよ!」

「それもそうね」

「そうなの!?」


 結局、着せられた。


 緑色の恐竜だった。

 お尻には太い尻尾までついている。


 一歩歩く。

 尻尾が、ぶん。


 もう一歩。

 ぶん。


「かわいい」

「かわいいわ」

「うまくあるけないよお!」


 次。


 次。


 次。


「あと三着ね」

「ええぇ!? まだあるのぉ!?」


 結局、その後も一時間ほど着せ替え会は続いた。

 途中から店員さんまで参加してきた。


「この子、モデルさんみたいですね!」


 なんて言われて、気がつけば写真まで撮られている。

 どうやら俺の写真を、子ども用衣装コーナーのポップに使いたいらしい。


「ルナちゃん、モデルさんだって!」

「すごいわ、ルナちゃん」

「もでる……」


 なんだか、とんでもないことになってきた。


 まあ。

 月菜もクロエも、すごく楽しそうだし。


 ……いいか。

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