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また明日も一緒

「んー! おねえちゃん、おいしすぎるよぉ!」


 今日の夕飯は月菜が作ってくれたハンバーグだ。

 しかもデミグラスソースがかかっている。

 フォークを入れると、表面のこんがりした焼き目が音を立てて割れて、中から肉汁がじわりと出てきた。

 それがソースと混ざって、皿の上で茶色い池になる。


 一口。


 噛んだ瞬間に肉がほろりとほどけて、玉ねぎの甘さが後から追いかけてくる。


 止まらない。

 どんどん、もぐもぐしてしまう。


「ルナちゃん、口。ソースついてる」

「ふぁい」


 月菜がナプキンで俺の口元を拭いてくれる。

 拭かれている間も俺の手はフォークを離さなかった。


「それで今日一日、どうだったかしら?」


 ライラのお母さんが、グラスを置きながら聞いてきた。


「魔法学校って、面白いです!」


 月菜が身を乗り出す。


「私も初めて通ったけど、こっちの方が好きかも」


 ライラも頷きながら答える。


「うん。明日、杖に乗って競走するって! 楽しみ」


 杖のレースか。

 そういえば月菜って、杖に乗ったのは見たことあるけど魔法はどれぐらい使えるのだろう。

 さすがに魔法学校に通っている生徒には敵わないと思うが、いい思い出になるんだろうな。


「ライラ、あなたも出るの?」

「出ない」

「なんで」

「疲れるし、酔うから」

「あなたねえ」


 お母さんが額を押さえた。


「ルナちゃんはどう?」

「おともだちできたし、たのしいよ!」

「あら。もう?」

「ミロとマロ! ふたごなんだよ」


 お母さんが驚いた顔をする。


「あら、あの子達と? すごいじゃない」

「うん。公園で遊んできたよ」

「それはよかったわぁ」


 目を細めて微笑む。

 ミロのこと、知っていそうだな。さすが校長先生。


「月菜ちゃん、これ本当に美味しいわね」

「ありがとうございます! 実は得意料理で」

「うちの子にも教えてあげて」


 チラリとライラを見るが、ライラは目を合わせない。

 口を尖らせている。


「私、料理しないから」

「あなたもいつかはするのよ」

「なんで」

「なんでじゃないの! 本当にこの子は……」


 ため息をつく。


「好きな子でもできれば変わるのかしらね」


「っ……」

「え?」


 ライラが赤くなっている。

 ライラって好きな人いたんだな。あんまりそういうのは興味ないと思っていたから意外だった。

 それを見てお母さんも固まる。


「あなたまさか……?」

「うるさい。ハンバーグ食べる」


 それきり、この話をライラが答えることはなかった。


   ※


「それで、樹くんにお話があるんだけど」

「なあに?」


 俺はフォークを持ったまま顔を上げた。もぐもぐは止めない。


「近いうちに、かけらの封印を一つ解こうと思うの」

「え」


 月菜が口を開けたまま固まる。


「お母さん、早くない?」


 ライラが口を挟む。

 珍しく、非難する声。


「大丈夫よ。一つ目の封印は、もうほとんど外れかけているからね」

「そうなんだ」

「ええ。このままにしておくほうが、かえって危ないくらいよ」


 お母さんは軽い調子で言う。

 俺はちょっと戸惑った。

 本当に大丈夫なのか?

 覚えていないが、聞いたところ俺の魔力はすごいらしい。はっきり言ってそんなもの制御する自信なんてない。


「でも、その前に一つ試験ね」

「しけん?」

「封印を取ってもいいか、テストをするの」


 お母さんが指を一本立てた。


「私の魔力を送るから、それを抑える感覚を身につけるの。それができたら、クリアよ」

「魔力を抑えるって?」


 月菜が首をかしげる。


「杖を出していない状態のこと」


 ライラがパンを食べながら答えた。


「ああ、そっか。それなら、できるよ。ルナちゃん!」

「そうなのかなあ」


 簡単、なのか?

 やっぱり全然わからない。

 杖を出さないって、カバンとかにしまうってことか?


「おいひぃぃ」


 わかるのはハンバーグの味だけだ。

 俺は黙って、残っていた最後の一切れを口に入れた。

 やっぱりうまい。


「ルナ、ハンバーグとけっこんする」

「ルナちゃん、戻ってきてー!」


   ※


 風呂上がり。


 服は用意してくれてあったが、これが全然馴染まない。

 女の子用のパジャマで、しかもブカブカしている。

 袖から手が出ないし裾を踏んでしまう。

 早くも男物の服が懐かしい。


 俺はリビングのソファに上がって、あぐらをかいた。

 これが一番落ち着く。


 ……と思ったら。


 無言で近づいてきた月菜が、俺の膝を左右から掴んだ。

 そのままきゅっと閉じさせて、横に流させる。


「ルナちゃん、はしたないです」

「えー。ふつうだよ」

「ダメなの!」

「なんでー」

「なんでもです! ミロくんたちの前でもしちゃダメだからね?」

「はーい」


 そうは言っても、忘れてするんだろうなあ。ミロとマロなら、何にも言わないんじゃないかな?まだ恋も知らないお年頃だろうし。

 しばらくして、月菜も隣に座った。


 テレビをつける。

 この町のテレビは、企画がとんでもなくて面白い。

 今やっているのは、魔法使いのかくれんぼ番組だった。

 かくれている人が石になって道端に転がっている。


「あ! いま動いた!」

「うごいてないよ」


 月菜は隣にある石ころを指さしている。


「動いたって! ほら!」

「あれ、ただのいしだよ」

「じゃあ石が動いたんだよ!」

「もっとこわいよお」


 月菜がケラケラ笑う。

 声が近い。

 ふと、視線を感じて横を見る。

 月菜がこっちを見ていた。


 目が合う。


「……あ」

「なあに?」

「なんでもない!」


 月菜が慌ててテレビのほうへ顔を戻す。

 でも三秒でまたこっちを向いた。


「……ルナちゃん」

「うん」


 手が、ソファの上でこっちに向かって少しだけ伸びて、途中で止まった。

 止まってから、引っ込んだ。


 ――何がしたいのかは、わかる。


 ぎゅっとしたいんだろう。俺が樹なのを気にしてるんだろうな。

 こっちも、正直に言えば同じだ。月菜に甘えたくなってしまっている。

 幼児化すると理性もどこかに行くらしい。

 風呂上がりで、髪がまだ少し湿っていて、パジャマ姿の月菜が隣にいるんだ。


 腕を伸ばせば届く距離にいるのに、俺も伸ばせない。

 この体で抱きついたら、なんだか反則な気がする。


 だから。


 コテン。

 月菜の方に頭を預ける。


「……おねえちゃん」

「うん」

「またあしたも、いっしょだね」

「そうだね。ふふふ」


 月菜が笑った。

 笑って、それから、少しだけ向こうも肩を寄せてきた。

 それ以上は来ない。

 俺も、それ以上は動かなかった。


 テレビを見ているふりをしながら、月菜の温もりを感じている。笑い声がスピーカーから流れているが、何も耳に入ってこなかった。

 月菜と暮らしたら、こんな生活が待っているんだろうな。

 それはきっと、幸せってやつだと思う。そうなるために、俺は魔力をコントロールできるようにならなきゃいけないんだ。

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新作はじめました

TS娘が幼馴染の男の子に「好き」と言われるために、あの手この手を使うお話です。
『TS娘になった僕は、幼馴染に「かわいい」と言われたい』
TSで、あったらいいなを詰め込みました。 ※癖全開です。

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