表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/60

恋のライバルは小学生

 午後三時。

 学校初日が終わり、俺はミロとマロに挟まれながら校門をくぐろうとしていた。


 初日からこんなに疲れるとは思わなかった。

 授業の内容が難しかったわけじゃない。ただ、この体では椅子に座っても足が床に届かない。一日中ぶらぶらさせていたら、妙に疲れてしまったのだ。


「なあルナ、明日の算数って宿題出てたっけ」

「でてたよ。ノートまとめるの」

「げ。まじか」

「ミロ、朝ちゃんと聞いてなかったでしょ」

「聞いてたっての」


 右でミロが舌打ちして、左でマロがくすくす笑っている。

 同じ顔なのに、性格はぜんぜん違う。


「あ、ルナちゃんだ。おーい!」


 声のほうを振り返ると、月菜が大きく手を振りながら近づいてくるところだった。

 制服のケープが、走るたびにふわふわ揺れている。


 似合いすぎだろ。


 その後ろから、ライラがいつもの速度でついてくる。


 それから、もう一人。

 知らない女の子がいた。


 月菜、もう友達ができたのか。さすがだな。


「誰、この人」


 ミロがすっと俺の前に出た。

 顎を引き、上目に月菜を睨んでいる。

 うわ。いきなりのツンツンモード。

 月菜は驚いたように目を瞬かせ、ライラは相変わらず何を考えているのかわからない顔をしている。


「こ、こんにちは」


 一方のマロは、律儀に立ち止まって頭を下げた。

 ミロと同じ顔なのに、やることが正反対だ。


「わあ!双子さんなんだね!

「はい、僕がマロ。こっちがミロです」

「あ、私、月菜。ルナちゃんの、えーと」


 月菜が言葉に詰まった。

 視線を泳がせたあと、助けを求めるように俺を見る。


 まあ、そうなるよな。


 俺の彼女とは言えない。今の俺はルナだし、そもそもこいつらには、俺が男だと話していない。

 かといって、他人でもない。同じ家に住んでいるわけで。


 姉?


 いや、それも違う気がする。


 うーんと。


「かぞくだよ」


 ふと思ったことが、そのまま口から出た。

 家族って、恋人より意味的に上だよな?

 誰か、この口にチャックをつけてほしい。切実に。


「!?」


 月菜がその場で固まった。

 目を真ん丸にしたあと、顔がじわじわと赤くなっていく。

 両手でスカートの裾を意味もなく握りしめていた。


「う、うん。家族、です」


 消え入りそうな声だった。

 声は小さいのに、顔は真っ赤なままである。


「私も家族」


 ライラが月菜の横から、にょきっと顔を出した。


「ルナさんのお姉さん、ってことですか?」


 マロが小首をかしげる。


「その割には、あんまり似てないような」


 この子、けっこう鋭い。


「にてるよ!」

「そうかなあ」

「ここ。ここがにてるの」


 俺は自分の鼻を指さした。

 根拠は一ミリもない。


「……そうかも」


 ライラが真顔で頷き、自分の鼻を触った。

 やめてくれ。話が長くなる。


 マロはまだ首をかしげていたが、それ以上は追及しなかった。


「僕たちはルナさんのお友達です」

「ルナのおともだちなんだよ。ね、ミロ!」

「……まあ。そーだけど」


 ミロが目を逸らしながら答えた。

 口ではぶっきらぼうなのに、耳の先がほんのり赤い。友達と紹介されたのが嬉しかったらしい。

 今朝、あれだけ突っかかってきたやつと同じ口である。


「月菜、私もいいかしら」


 三人目の女の子が、すっと前に出てきた。


「私はクロエ。月菜と、そこのライラのクラスメイトよ」


 金髪を頭の両側でお団子にまとめている。

 腕を組み、顎を少し上げた立ち方。

 なんというか、ツンツンしている人だと思った。

 ミロとは違う意味で。


 ツインテールじゃないのが惜しい。何が惜しいのかは、自分でもよくわからない。


「クロエ、偉そう」

「別に、そんなんじゃないわ」

「ツンツンしてる」

「失礼ね。私はハリネズミじゃないわよ」


 クロエの眉がぴくりと動いた。

 どうやらこの二人、仲がいいのか悪いのか、よくわからない関係らしい。


「あなた、ルナちゃんっていうのね」


 クロエが腰をかがめ、俺の顔を覗き込んできた。

 まあ、挨拶は大事だろう。


「うん! よろしくね。クロエおねえちゃん」


 クロエの動きが、ぴたりと止まった。

 口を半分開けたまま、数秒見つめ合う。


「……ええ、よろしく」


 そう言うなり、勢いよく立ち上がってそっぽを向いた。

 髪のお団子が揺れる。

 耳がほんのり赤くなっていた。


 何か気に障っただろうか。


  ※


「ルナ、行こうぜ」


 挨拶が一段落すると、ミロが俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「遊べるとこ連れてってやるよ。すげーいいとこ知ってんだ」

「あそべるところ!」

「おう! 公園があるんだけどさ。すげー遊具あるから行こうぜ」


 遊具!

 その言葉を聞いただけで、わくわくしてしまう。早く行きたい。


 それにしても、小さい子同士の距離感ってけっこう近いんだな。

 ぐいぐい引っ張られながら、そんなことを考えていると。


「むむ」


 背後から低い声がした。


「ライラちゃん。私、何か危険な感じがしてるよ」

「そう? どこが?」

「するの。すごくするの。ここ」


 月菜が自分の胸のあたりを押さえている。


「子供同士、仲がいいのはいいこと」

「そうなんだけど。そうなんだけど!」


 振り返ると、月菜が両手を握りしめて立っていた。

 視線が完全にミロへ固定されている。


 いや、なんで警戒してるんだ。相手は小学生だぞ。


 当のミロも、俺と腕を組んだまま月菜をちらりと見て言った。


「なんか、あの月菜って人、倒さなきゃいけない人な気がする」

「たおす!?」

「わかんねーけど」


 どういう意味なんだ。

 この二人には、いったい何が見えているんだ。


「べつに。なんとなくだよ」


 ミロがふん、と鼻を鳴らす。

 なんとなくで人を倒すな。


 ミロを止めたほうがいい。

 頭ではそうわかっている。

 わかっているのに。


 ――早く遊びたい。


 困ったことに、その気持ちがどんどん溢れてくる。


 鬼ごっこ。滑り台。ぐるぐる回るやつ。

 遊びたい。今すぐ遊びたい。

 悲しいかな、今の俺はルナだ。


「マロもいっしょに、あそぼ!」


 俺はマロの手も取った。

 マロは驚いたように目を見開き、たちまち顔を赤くする。


「ちょっ、ルナさん!」

「はやくはやく!」


 慌てている様子が楽しくなり、さらに強く引っ張る。

 マロの体が俺のほうへ傾く。けれど、マロは顔を真っ赤にして、全力で踏ん張った。


「わ、わかったって! 行くから引っ張らないで!」

「マロも、ルナとあそびたいでしょ?」

「だから、行くって言ってるよー!」


 背後から、月菜の声が聞こえてきた。


「ライラちゃん。私、やっぱり危険な感じがしてきたよ」

「……ルナって、たらしだったみたいね。もう二人つかまえてる」

「ちょっと、それ本人に聞こえてるわよ」


 ひどい言われようである。


 その日は結局、六人全員で公園へ行くことになった。

 月菜は、なぜかほっとした顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作はじめました

TS娘が幼馴染の男の子に「好き」と言われるために、あの手この手を使うお話です。
『TS娘になった僕は、幼馴染に「かわいい」と言われたい』
TSで、あったらいいなを詰め込みました。 ※癖全開です。

▶ TS娘のお話を読む
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ