表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
50/59

ルナちゃんとの秘密を思い出すたび、わたしだけ恥ずかしい

<月菜視点>

「わたし、ルナちゃんにもう一度会いたいわ」


 放課後の教室。琴美ちゃんが唐突にそう切り出した。

 窓の外はもう夕方で、机の上がオレンジ色に染まっている。同じく帰り支度をしていたライラちゃんと樹くんの手が止まった。


「そ、そうなんだ」


 わたしの返事は、われながら不自然だったと思う。


「ルナちゃん? 誰だっけ?」


 樹くんが聞く。


「あら、樹くんはそういえば遊園地で会わなかったものね」


 琴美ちゃんは机に頬杖をついて、うっとりした顔になった。


「わたしが出会った中での美少女ランキング第一位よ。あの子は本物」

「そんなになの?」

「そんなに。ふわふわの金髪でね、目がこう、くりっとしてて、幼くて」

「へえ。小さい子なんだ」

「声もかわいいの。ちょっと舌足らずで」

「琴美ちゃん、覚えすぎじゃない?」

「一度見たら忘れないわ。ああ、もう一度会いたい……あ、月菜も同率で一位だから安心して」

「へ、へえ。うれしいな〜」

「ルナには、もう会えないと思う」


 ライラちゃんが、いつもの抑揚のない声で言う。


「そ、そうそう! 引っ越しちゃったから!」


 わたしは慌てて乗っかった。


「引っ越し? どこへ?」

「え、えっと、遠いとこ」

「そう。残念ね」


 琴美ちゃんは本気でしょんぼりしている。それからふと顔を上げて、こっちを見た。


「月菜はルナちゃんと一緒にいたんでしょ? ならせめて、ルナちゃんのお話を聞きたいわ。補給したいの」

「ほ、補給って」

「わたしの中のルナちゃん成分が切れかけてるの」

「そんな成分ある?」

「あるわ」


 琴美ちゃんの目が真剣だった。断れる雰囲気じゃない。


「ん〜、そうだなあ」


 ルナちゃんとの思い出。

 たくさんある。夜のこと、公園のこと、いっしょに笑ったこと。手を繋いで歩いたこと。


 そういえば、ルナちゃんって樹くんだったんだよね。

 樹くんは覚えてないと思うけど、本人の前でその話をするのって、なんだか不思議な感じ。


 私もルナちゃんのこと、話したいな。軽い気持ちで話し始める。


 ――このときのわたしは、まだ、事の重大さをまったくわかっていなかった。


「あのね。一緒に乗り物に乗ったことあるよ」

「乗り物?」

「え、えっと、ほら、遊具みたいな」


 杖に乗って空を飛びました、とは言えない。


「へえ。二人乗りのやつ?」

「そう、そんな感じ」

「羨ましいわ」


 琴美ちゃんが身を乗り出してくる。


「どんな感じだった?」

「へへへ、二人でぎゅっとくっついてね」

「くっついて」

「うん。落ちちゃうといけない、から……あれ……?」


 言いながら、あのときの感覚がよみがえってきた。

 わたしの後ろにちいさな体。ふわふわの金髪が風に流れて。ルナちゃんは落ちないように、私のお腹の辺りを必死に――


「いけないから?」


 樹くんが聞いてくる。

 わたしの声が、だんだん小さくなった。


「私のお、お腹に手を回して、こう、ぎゅっと……」


 自分で言って、耳が熱くなる。

 あれって、樹くんだったんだよ、ね。


「かわいいわね」


 琴美ちゃんが満足そうにうなずいた。

 その隣で、ライラちゃんがものすごい顔で樹くんを見ていた。


「樹。そんなことしてたの」

「え? ライラ、何か言った?」

「何でもないわ」


「月菜、まだあるわよね」


 琴美ちゃんはまだ聞きたいようだ。


「う、うん。えっと」


 わたしは記憶をたどる。


「あの、二人で川に落ちちゃったことがあって」

「川!?」

「うん。びしょ濡れになっちゃって、うちに連れて帰って、その、おふ、ろ……」


「「一緒に入ったの!?」」


 琴美ちゃんはもちろんだけど、なぜかライラちゃんまで、すごい顔とすごい声で聞いてきた。

 二人分の圧が、正面から飛んでくる。


「え、ライラ。女の子同士なんだから、別に普通だろ?」


 樹くんが不思議そうに言う。

 ライラちゃんが、信じられないものを見る目で樹くんを見た。


「樹は黙ってて。変態」

「なんで!?」

「月菜になんてことしたの」

「俺、関係なくない!?」


「う、ううん! 入ってないから!」


 わたしは慌てて訂正した。


「ルナちゃん、一緒に入るの嫌がったから。別々で」

「なんだ」

「でもね、髪はドライヤーしてあげたかな」

「ドライヤー」

「うん。私の、あ、脚の間に入れて、ちょっとずつ」


 脚の間。私、樹くんにそんなことしてたってこと!?


「恥ずかしがり屋さんなのね。それもポイント高いわ」


 琴美ちゃんが、真顔でメモを取るような仕草をする。


「次に見つけたら、無理やり一緒に入ることにするわ」

「琴美、やめた方がいい」

「え?」

「何でもない」


「そ、そういえ、ば」


 わたしの声が震えた。


「どうしたの? 顔がびっくりするくらい赤いけど」


 樹くんが心配そうにこっちを見る。

 樹くんの顔が見れない。


「あの、ね」

「うん」

「わたし、ルナちゃんの前で、何回か」

「うん」


「……着替えたこと、ある」


「へえ」


 樹くんは、平然としていた。


「まあ、それも普通なんじゃないの? 男の前だったらだめだけど、女の子でしょ?」


 ライラちゃんが頭を抱えた。


「今までの話も、別に普通だと思うよ。お風呂も、着替えも、抱きつくのも」

 

 それを聞いて、私の感情がはじけた。


「い、い、」

「い?」


 樹くんがきょとんとしている。


「――樹くんの、ばかあああああーーーーー!!!!!!」


 わたしは鞄をひっつかんで、教室を飛び出した。

 廊下を走る。顔が熱い。涙目になっているのが自分でもわかる。恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしようもなくて、走るしかなかった。


 後ろから「え、なんで!?」という樹くんの声と、「自業自得」というライラちゃんの声と、「あらあら」という琴美ちゃんののんびりした声が、まとめて追いかけてきた。

次回から更新頻度が不定期になると思います。

気長にお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作はじめました

TS娘が幼馴染の男の子に「好き」と言われるために、あの手この手を使うお話です。
『TS娘になった僕は、幼馴染に「かわいい」と言われたい』
TSで、あったらいいなを詰め込みました。 ※癖全開です。

▶ TS娘のお話を読む
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ