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ルナと月菜とベランダと

<数分前>

「あとひとつだけ、注意」

「あなたが『樹』だってバレたら、駄目」

「……バレたら?」

「世界が、今のあなたを樹だと完全に認識してしまう。そうなったら、もう戻れない。一生、その体のまま」

俺は息を呑んだ。

「もどれない、って……ずっと、このちっちゃい、おんなのこのままなの?」

「そう」

「だから、名前も、住んでいる場所も、学校も、家族のことも、絶対に言わないこと。誰にも。もちろん、その『素質のある子』にもね」

「……うん。わかったよ」


俺の強張った返事に、ライラはほっと息を吐いた。


「ほんとに、ごめん。元に戻るまで絶対に力になるから」


  ※


感じ取った光の気配を頼りに歩き出して数分。光が一番強い場所。

着いた。ここだ。

そう思ったと同時に、体がふわりと浮いた。


「え……っ?」

見えない糸で吊るされたみたいに、ふわふわと地面から引き離されていく。

どんどん二階の高さへ。


なんとなく気配を感じて視線を上げると、二階のベランダに人影があった。


「まさか、つきな、おねえちゃん?」


クラスメイトの、あの月菜だった。

パジャマ姿で、髪をひとつに束ね、ベランダの手すりに両手をかけている。

彼女は目を丸くして、こちらを――宙に浮く俺を、固まって見ていた。


浮いてるし光っている。俺自身が。

なるほど、そりゃ、月菜も驚くわ。


ベランダの手すりのすぐ手前で、俺の体はふわりと静止した。月菜と目線がほぼ同じ高さになる。


「……こ、こんばんは」


耐えきれず、俺のほうからなんとか声を絞り出した。夜十時過ぎに、二階のベランダの前に浮いている謎の幼女が「こんばんは」と挨拶する異常さについては、この際考えないことにした。


「だ、だれですか……?」


月菜も、声を震わせながら小さく返してきた。怖がっているというよりは、目の前の圧倒的な非日常に頭が追いついていない、という顔だ。


「あの、その」


俺は必死に言葉を探した。名前、家、学校、家族。全部、言ってはいけない。


「いま……浮かんで、る?」

「う、うん」


俺はこくりと頷いて。

月菜は恐る恐るというふうに口を開いた。


「あなた……魔法が、使えるの?」

「……ちょ、ちょっとだけ」


口が勝手にそう答えていた。使えないくせに、と自分で自分に突っ込みたくなる。だが、この発光する体で「違います」と否定するのは無理があった。


答えた瞬間、月菜の顔が、ぱあっと明るくなった。


「すごーーい……!!」


両手を胸の前でぎゅっと握り、瞳をキラキラと輝かせている。


「すごい!すごい!本当にいたんだ、魔法使いさん……! やだ、どうしよう、夢みたい……!」

「あの、あの、お名前はなんて言うの?」


弾んだ声で尋ねられ、俺は咄嗟に言葉を探した。


「……いつ」


いつき、と言いかけて、慌てて呑み込む。

どうする。そう思った時、空に浮かぶ月が目に入る。


「る、ルナ」

「ルナちゃん……!」


月菜は口の中で何度か「ルナちゃん、ルナちゃん」と繰り返した。ただそれだけで、心底嬉しそうにしている。


「わたし、月菜。よ、よろしくね」


ぺこりと頭を下げる月菜に、俺もつられて、宙に浮いたまま同じくらいの角度で頭を下げた。夢の中にいるみたいに現実感がない。

でも、話を進めないと。俺は小さく息を吸い、口を開いた。


「あのね、つきな、おねえちゃん」


勝手にそんな呼び方になって口から飛び出した。喉の奥がむず痒くて死にそうだ。それでも月菜は真剣な顔で、こくりと頷いた。


「わたしがここにきたのには、りゆうがあって。まほうつかいになれるこを、さがしてて」

「うん、うん」


月菜は素直に頷きながら、俺の次の言葉を待っている。


「つきなおねえちゃんは、まほうつかいの、そしつがあるの」

「わたしが……?」

「うん。わからないかもしれないけど、かんじるの」


月菜は自分の手のひらをまじまじと見つめた。信じられないという顔と、信じたいという顔が半分ずつ混ざっている。


「魔法使いになるとね、街に落ちてる『初恋のかけら』っていうのを集められるようになるの。それを、集めて

ほしくて」


「集める……?」

「うん。それでね、その、わたしを……」


俺は言葉に詰まった。事情のすべてを話すわけにはいかない。「元に戻して」なんて言えば、じゃあ元は何だったの、と当然聞かれる。

少し迷って、俺は慎重に言葉を選んだ。


「わたしを、たすけてほしいの。りゆうは、ちゃんといえなくて、ごめんなさい。でも、つきなおねえちゃんに、あつめてほしくて」


月菜はしばらく黙って、俺の顔を見つめていた。それから、そっとベランダの手すりの内側にかがみ込み、宙に浮く俺と同じくらいの目線まで顔を近づけてくれた。


「ルナちゃんは、悪い子じゃない?」

「……わるいこじゃ、ないよ」

「悪いことに使うんじゃない?」

「うん。だれもきずつけない。やくそくする」

「じゃあ、いいよ」


え、と俺は間の抜けた声を出した。


「そんな、かんたんに……?」

「だって、ルナちゃん、困ってるんでしょう」


月菜は少し照れたように、はにかんで笑った。


「わたしね、実は、魔法少女ってずっと憧れてたの。だからびっくりしたけど、すごく嬉しい。ルナちゃんのお願いなら、聞いてあげたい」


俺は言葉に詰まった。

その真っ直ぐな純粋さが、後ろめたい隠し事をしている俺の胸をチクリと刺した。

俺はそっと宙で姿勢を整え、月菜のほうへ近づいた。


「じゃあ、おでこ、くっつけて?」

「え、お、おでこ?」

「うん。それで『まほうつかいになりたい』ってこころのなかでおねがいするだけ。それで、なれるって」


月菜は少し慌てたように戸惑いながらも、ゆっくりと顔を近づけてきた。手すり越しに、二人の距離がじわじわと縮まっていく。

月菜の大きな瞳が、すぐ目の前にあった。

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新作はじめました

TS娘が幼馴染の男の子に「好き」と言われるために、あの手この手を使うお話です。
『TS娘になった僕は、幼馴染に「かわいい」と言われたい』
TSで、あったらいいなを詰め込みました。 ※癖全開です。

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