六人分の招待券
秋祭りも終わり、そろそろ冬の寒さを感じるようになった頃。
最近、月菜との距離が近くなってきた気がする。あれから、俺はもう月菜を西尾さんとは呼ばなくなった。はじめてクラスで名前を呼んだ時、ざわついたのを覚えている。しかし、当の本人が嬉しそうにしているものだから、みんな納得したらしい。……翔と潤には散々からかわれたが。とにかく名前で呼ぶようになってから、俺は自然と月菜を目で追うようになった。
その日の放課後、商店街のアーケードを俺、翔、潤の三人で歩いていた。
「あ、くじ引きやってる」
翔が電器屋の店先で足を止めた。
「なんかもらえるの?」
「樹、ポケットティッシュだそうだ」
潤が答える。
「末等がティッシュか。夢がねえな」
「上を見てみろ」
「特賞、テーマパークのペア宿泊招待券。三組六名様。二泊三日」
「ええ!太っ腹すぎない!?」
心底驚いた。どれだけ儲かっているんだ、この電器屋。
翔はもう財布を出していた。
「俺引くわ。こういうの当てる男だから」
「一回も当ててるとこ見たことないけどな」
潤がため息まじりにつぶやく。
翔は店内に入り、何か買うものがないか探し始めた。電器屋で買い物をさせられている時点で、きっとお店の思うつぼなんだろうな。
結局、モバイルバッテリーを買った。
くじを引き、翔が紙を開いた。
「……ティッシュ」
「うん。知ってた」
「もう一回!」
二回目。今度はワイヤレスイヤホン。本当にいいお客さんなんだと思う。
くじを引き、開いた瞬間。
翔の動きが止まった。
「え、待って。え?」
特賞、と書いてあった。
店のおばさんが「あらまあ」と鐘を鳴らす。カランカラン、と間の抜けた音がアーケードに響いた。
「うそだろ、当たった! おい、樹、潤、当てたぞ!」
「こ、声大きいよ」
「翔の人生のピークが今なんだろう樹。察してやれ」
「ピークでも何でもいい!やったぞーーー!!」
※
その後の帰り道、翔はやたら静かだった。
「なあ、樹、潤」
橋の手前で、翔がぴたりと立ち止まった。
「どうしたの」
「二人とも、旅行に一緒に来てくれ」
「え、いいの?家族とかじゃなくて」
「ああ。来て欲しい。」
「俺たちは喜んで行くが、他は誰か誘うのか?」
「女子を誘おうと思う」
ゴクリ、と俺たち3人は急に真剣になった。
「男三人だけじゃ、寂しいってこと?」
「まあ、それもあるけどさ」
翔は、少し目を逸らして言った。
「琴美ちゃん、誘えないかなって」
俺と潤は、光速で首を動かして翔を見た。
「……琴美さん?」
「ああ。琴美ちゃんを誘いたい」
「なんで琴美さんなんだ、翔」
潤が聞く。
「な、なんでって、そういうのは、なんとなくじゃん」
「なんとなくで名指しはしないだろ」
「す、するかもしれないだろ」
「いや、しないだろ」
翔は、しばらく言い訳を探して、それから諦めたように肩を落とした。
「……好きなんだよ」
「よし、誘おう」
「言わされた感が半端じゃないんが……覚えてろよ、潤……」
潤はニヤリと笑った。
そうか、翔は琴美さんが好きなんだな。琴美さんって、確か月菜と仲が良い子だったよな。席も近いし、よく話しているのを見る。
「で、樹に頼みがる」
「え、なに?」
「琴美ちゃんは俺が誘おうと思う。で、樹は月菜ちゃんを誘ってほしい」
「ああ、樹は月菜さんと仲が良いもんな」
「月菜ちゃんと琴美ちゃん、仲いいだろ? だから一緒に誘えば、琴美ちゃんも来やすいと思うんだよな」
「……まあ、聞いてはみるよ」
「頼む! 恩に着る!」
翔が両手を合わせた。
「あとさ、月菜ちゃんと琴美ちゃんの他に、仲いい女子っている? 人数的に、あともう一人いたほうがいいと思う」
俺は、少し考えた。
月菜と親しい女子。琴美以外で思いつく顔は一人しか出てこない。
――ライラ。
無表情な魔法使い。旅行ということはつまり泊まりということだ。俺はルナになってしまう。夜は体調不良を装ってなんとかするとして、昼に急になってしまうこともあるかもしれない。援軍はいた方がいいだろう。
「……ライラ、かな」
「あー、ライラさん」
翔が頷いた。
「あの人、来てくれるかな?俺、あんまり話したことないな」
「樹と仲良いよな」
潤が言う。
「翔と潤も、ライラと仲良くなれると思うよ。美味しいものをあげればなんとかなる」
「え、そういうキャラなの!?イメージ違ったわ」
翔が驚く。
潤は静かに笑っていた。ツボだったらしい。
「月菜ちゃん、琴美ちゃん、ライラさん、と男三人」
「六人ぴったりだ」
「よし! 樹、頼んだ!」
翔が、俺の肩を叩いた。
月菜に旅行を誘う。しかも泊まり。ちょっと気が重い。
……いや、気が重いのとは少し違うかもしれない。
そわそわする、別の感情だ。
※
その夜。
俺は自分の部屋で、スマホを手に持ったまま考え込んでいた。
メッセージで送るか。電話をかけるか。
メッセージのほうが楽なのは間違いない。ただ、旅行なんて話をラインで一方的に投げるのは、なんとなく嫌だった。しっかり話したほうがいいよな。
……電話にするか。
そう考えて、通話ボタンを押した。
三コールで繋がった。
『樹くん!?』
驚いた声。そりゃ驚くだろう。電話をかけるのは初めてだ。
『な、なに!? なんかあった!?』
「ちょ、ちょっとだけ話があって」
『あ、ごめん。ちょっと心の準備をさせて……!』
「そんな大したことじゃないから、落ち着いて」
『し、深呼吸する』
電話の向こうで、月菜が本当に深呼吸しているのが聞こえた。すぅー、はぁー、と真面目に。
「……落ち着いた?」
『うん』
「あのさ。今度の連休、翔がテーマパークのチケット当てたんだけど」
『テーマパーク!?翔くん、すごいね!』
「二泊三日で、六人分。もし月菜がよかったら、一緒に行かないかって話」
電話の向こうが、しばらく静かになった。
……聞こえてない?
「月菜?」
『私も行って、いいの?』
「うん、よかったら」
『じゃあ、行きたいです』
「よかった」
『あの、他は、誰が行くの?』
「翔、潤、俺。あと、女子ももう二人いたほうがいいって話で。翔が琴美さんを誘いたいみたいで。それとライラも誘おうと思ってる」
『あ、琴美ちゃんとライラちゃん! 楽しそう! でも、翔くん、なんで琴美ちゃんを……』
しまった。言わないほうが良かったよな。ごめん翔。
『……あ! そっか、うん。なるほど』
月菜は察したようだった。
「琴美さんは翔が誘うって言ってた」
『うん。わかった』
嬉しそうな声が漏れていた。それから、少し声のトーンが変わる。
『……あの、樹くん』
「ん」
『……もし当たったのが樹くんだったら、誰を誘ってた?』
俺は、少し息を吸った。
「……月菜、かも」
言ってから、耳が熱くなった。
『……えへへ』
「なんで笑うの」
『笑ってないもん』
「……じゃあ、また何かわかったら連絡する」
『うん、ありがとう!おやすみなさい』
「おやすみ」
電話を切ってからも、俺はしばらくスマホを手のひらに乗せたまま、動けなかった。
俺、とんでもないことを言った気がする。




