第6話 桜薬草
「多実姫さまは、時折、お忍びでお城から都に遊びにこられる」
「あら〜ん。そうなの〜ん」
「今回は、この薬局の薬を取りに行きたいと聞かなかったのだ」
お薬は、朝日城の家臣たちのために必要らしい。
現在、朝日城では、流行り病が大流行している。
「家臣を治したいのだ。薬をもらいたい〜」
多実姫さまは、高らかと手を差し伸べる。
注文は、家臣用のお薬だ。
流行り病は、謎の病気だが、解熱剤がもっとも効果を発揮する。
今回は、朝日城のお抱え医師の処方箋があり、特別なお薬を処方してほしいらしい。
「この薬をたくさん注文したいのだが…」
「また、大量注文なの〜ん?」
「頼む」
「わかったわ〜ん。お役人さんって、真面目な顔も素敵ね〜ん」
大之進さんを見つめる桜子さん。
熱視線である。
ビクッ
真面目な大之進さんは、思わず後ずさる。
ゴツい系のオカマさんに見つめられるなんて、はじめてだからだ。
「あ、明日、取りに来る」
再び、お薬を大量注文した役人の大之進さんは、多実姫さまを引き連れて帰って行った。
「大量注文再びね〜ん。大変だわ~ん」
桜子さんは、小指を立てながら、考え込む。
朝日城のお抱え医師の処方箋には、解熱剤というよりも、食中毒予防のお薬が処方されていた。
「この処方箋では、食中毒予防のお薬なのよね〜ん。何でかしら〜ん」
桜子さんは、疑問を持つ。
流行り病のお薬なら、解熱剤のはずと思ったからだ。
「食中毒予防のお薬ですか?」
「そうなのよ〜ん。これは、万年桜の下の“桜薬草”が必要なのよね〜ん」
「桜薬草ですか…?」
聞き慣れない名前の薬草に、楠見は首をかしげた。
「そう。桜薬草を採りに行くけど〜ん。一緒に行く?」
「い、行きます」
薬師になる勉強のため、楠見は、同行する。
第6話 桜薬草
朝日の都。
自然万年桜庭園。
自然のままの万年桜が、一年中楽しめる、都の一大庭園。
平民に開かれた庭園として、憩いの場として、人々の姿が絶えない大人気の場所だ。
「桜が、綺麗です」
楠見は、自由にそびえる万年桜たちに感動する。
薄紅色の万年桜は、どれも美しく、綺麗。
万年桜は、決して枯れない不思議な桜。
悠久の朝日の都において、象徴たる植物。
見ていて、飽きることはない。
そんな万年桜だ。
「管理人さん。万年桜の下の桜薬草をもらっていっていいかしら〜ん」
桜子さんは、万年桜庭園の管理人に交渉していた。
「食中毒予防のお薬で必要なのかな?」
「そうなのよ〜ん」
「桜薬草は、すぐ育つからいいけれど?」
「そう。ありがとうね〜ん。管理人さん」
交渉は、上手く行った様子。
桜子さんは、片手に持っていた巾着ふくろを広げると、一本の万年桜の下に移動した。
「楠見ちゃん。楠見ちゃん」
楠見に、手招きする。
呼ばれた楠見は、万年桜の下にびっしりと敷きつめられた桜色の草に気がつく。
これが、桜薬草だろうか。
「これが、全部、桜薬草なの〜ん」
「そうなんですね」
「この桜色の葉っぱの部分だけ、採って、アタシの巾着ふくろに入れてちょうだ〜い」
「はい。わかりました」
律儀な楠見は、一個一個をゆっくりと採る。
巾着ふくろの中が、桜薬草でいっぱいになった。
「これで、いいわ〜ん…」
巾着ふくろのひもを締める桜子さん。
次の瞬間…。
ウワアアア…
自然万年桜庭園の外で、人の叫び声が聞こえた。
何事だろうか。
「何か、騒がしいぞ。火事でも起こったか…?」
大慌てで、庭園の管理人が言った。




