第5話 多実姫さま
朝日の都。朝日城。
城内では、流行り病に倒れる者が、続出しているという。
城主・朝日御茶殿下は、緊急事態に追われている。
城主の一人娘・多実姫さま。
目に入れても痛くないほど可愛がっている娘。
御茶殿下は、多実姫さまには、流行り病にかけさせまいと努力している。
朝日 多実姫さま。14歳。
朝日城のお姫さまだ。
黒い長い髪。
それは美しいというウワサの女の娘。
一方の、朝日城の危機。
朝日城の流行り病の大流行。
そのウワサは、すぐに都中に広まった。
薫家。
一階建ての平屋。
楠見と乃保琉の二人暮らしの家。
「朝日城で流行り病か…」
乃保琉は、号外の新聞を読んでいた。
「兄さん。早く、朝ご飯を食べましょう」
ちゃぶ台で向かい合っている楠見は、みそ汁をすする。
今日は、兄妹そろって、精神診療所に通院だ。
その後、桜子さんの薬局に行く。
「…ああ、そうだな…桜子…」
乃保琉は、桜子さんのことで頭がいっぱいになる。
桜子さんのことが大好きだからだ。
第5話 多実姫さま
桜撫子薬局。
「兄と、二人分のお薬をお願いします」
店番の南治さんに、医師からの処方箋を渡す。
薬局に、お薬を注文したのだ。
調合室から、桜子さんが顔を出す。
「今日は、精神のお薬ね〜ん。楠見ちゃん。乃保琉さん」
「はい」
「ありがとう…桜子…」
楠見は、お辞儀。
乃保琉が、桜子さんを見つめる。
「今日は、見学だけでいいのよ〜ん」
「はい。わかりました」
楠見は、桜子さんの働く姿を見学していた。
乃保琉は、剣道場に行っている。
薬局のお客さんが減った頃。
「…お邪魔するのだ〜」
女の娘が、来店した。
幼い感じだ。
「いらっしゃいませ」
南治さんが声がけする。
「ここが、お薬屋だな〜」
女の娘は、じろじろと店内をうろつく。
お客さんは、他に、楠見しかいない。
ゆっくりとした足取りで、会計の南治さんの元に来て、質問があると言う。
「質問なのだが、薬をもらいたい〜」
歌うように、言ってのける。
「はい」
南治さんが、笑顔になる。
「薬だ。わたくしに薬を〜」
女の娘は、黒髪の長い三つ編みで、いい生地の着物を着ている。
「おつかい…ですか?」
「子供用かしら〜ん」
桜子さんが人差し指を左右に振る。
「それとも、家族の分かしら〜ん?」
「家族の分である!家臣だ〜」
女の娘は、瞳を輝かせる。
「家臣を治すために薬をもらいたい〜」
「姫さまーーッ…」
突然、大声で役人が入ってきた。
高い位に見える役人は、この前に大量注文をした人物と同じ人だった。
「大之進ではないか。どうした〜」
「姫さま。勝手にお一人で行動しては、なりませぬ」
「一刻も早く、薬がほしいのだ〜」
「…薬師よ。すまぬな。姫さまが、自ら薬局に薬を取りに行くと聞かんのだ」
「姫さまなの〜ん?」
「お姫さま?」
まず、役人は、自分の名前を名乗った。
物議大之進。30歳。
朝日城の役人の一人である。
そして、黒髪の三つ編みの女の娘。
朝日城の姫君。
朝日多実姫さま本人であるという。
「多実姫さま、本人なんですか?」
楠見は驚きを隠せない。
「そうだ」
役人・大之進は説明する。
朝日城。
その姫君。多実姫さま。
美しい女の娘なのだが、少し、おてんばなお姫さま。
遊び好き。
お手玉。竹馬。手まり遊び。
遊びと聞いたら、何でも楽しむ。
お城の外にも出たがっていて、家臣に引き止められる。
そんな女の娘。
「わたくしは、城の外に出たかったのだ〜」
女の娘・多実姫さまは、得意げに言う。




