第4話 好きな理由
お薬の学習堂。
朝日の都で、薬学を学べる塾である。
ここで、お薬の勉強をしているのが、楠見である。
午前の授業。
今日は、お薬の種類について学んだ。
お薬には、たくさんの種類がある。
それを、記憶する勉強だ。
読書好きな眼鏡少女の楠見は、日頃から、たくさんのお薬の図鑑を見ている。
記憶は、すでにしているし。
授業も、すんなり頭に入った。
「授業終わったね。楠見さん」
楠見の友達の一人が話しかけてきた。
高納良枝。16歳。
良枝ちゃんだ。
同じ、薬師を志す友達として、学習堂で仲良くなった。
「…授業が終わった後は、また桜撫子薬局に行くの?」
「はい。行きますよ」
楠見は、笑顔で答える。
「あの桜子さんって、ゴツいオカマの人、怖くないの?」
「怖くなんかないです。とても優しい人です」
「どんな人なの?」
良枝ちゃんは、桜子さんについて、あまり知らない。
「優しくて、頼りがいがあって、素敵な人です」
「そうなんだ〜」
「私、桜子さんにお手伝いの約束をしているから、行きますね」
早々と、持ち物をまとめて、楠見は桜撫子薬局に向かった。
第4話 好きな理由
桜撫子薬局。
楠見は、お薬の数を、正確に数えるお手伝いをしていた。
「一つ、二つ…」
間違えたら、いけないという緊張感があった。
現在の薬局は、お薬待ちのお客さんでにぎわっている。
夕方。
お客さんも少なくなり、閉店の時刻だ。
「お疲れ様ね〜ん。楠見ちゃん」
元気なオカマの桜子さんは、お茶を差し出してくれる。
店番の南治さんの淹れたお茶だ。
「あ、ありがとうございます」
「今日は、お客様が多かったわね〜ん」
「そうですね」
お茶を飲んで、ひと息つく。
美味しい。
優しい。
桜子さんは、はじめて会った時も、優しかった。
楠見は、兄の乃保琉と二人暮らし。
10年前。
楠見。6歳。
乃保琉。10歳。
両親は、蒸発した。逃げ出した。
理由は、精神の病気だった。
幼い楠見と乃保琉は、共に精神病で、高額な医療費がかかっていた。
幻覚が見えて、おびえるだけの乃保琉。
一方、幻聴が聞こえる楠見は、常に“壁”と会話していた。
「壁さん。壁さん」
頭の中にいる壁さんに話しかける。
医師の他に、霊媒師も来たが、高額な料金を請求するだけで、何も治らなかった。
苦しい。
誰か、助けて。
願っていた、ある日。
桜子さんと出会った。
はじめて、オカマという人種を見た。
いい匂いがした。
香水だろうか。
楠見と乃保琉は、一目惚れしていた。
頭が、ボーッとする。
「あら〜ん。大丈夫〜ん?」
精神病のお薬を処方してもらい、飲む。
すぐは、治らないらしい。
時間がかかるらしい。
「すぐ、治るお薬をください」
すぐ、治したい楠見は、お願いした。
「そうね〜ん。治るのに、時間がかかる病気もあるのよ〜ん。あなたの場合、時間がかかるかもしれないわね〜ん」
「すぐ、治してください」
「じゃあ、医師と相談よ〜ん」
桜子さんの仲介で、精神診療所への通院をはじめた。
これは、壁さんと話すのは、病気?
精神の病気って、何?
わからないことだらけ。
10年経った今も、楠見と乃保琉の兄妹は、通院を続けている。
桜子さんの桜撫子薬局にも、通っている。
「私、桜子さんのこと、大好きです」
「あら〜ん。ありがと〜ん」
桜子さんは、小指を立てながら、お茶を飲む。
はじめて会ったのは、10年前。
その時から、桜子さんの姿は変わらない。
桜子さんは、何歳なのだろう。
「…ところで、楠見ちゃんの精神病って、ラクになってきたのかしら〜ん?」
「はい。幻聴は、たまに聞こえますが、学習堂に通えます」
「そう。すごく頑張ってるわね〜ん」
「いえいえ」
桜子さんに褒められるとうれしくなる。
やっぱり。
桜子さんのことが大好きだ。




