ハーシュ、色々と大変なことになる
「か、カイン様!!ハーシュ様の看病は私が致しますわ!!」
ハルメリアは自分の屋敷に着くと使用人にハーシュのための部屋を用意させた。路銀の限られる三人にとっては願ったり叶ったりだ。そして部屋に着くなりハルメリアはハーシュの看病役を買って出たという訳だが、カインの反応はすげなかった。
「いや、ハルメリア殿は初めてのダンジョンで体力を消耗しているはずだ。今夜は俺に任せて明日以降のために温存しておいてほしい」
「わ、私は平気ですわ!!明日になればお医者様もいらっしゃいますし!?それに今のハーシュ様はドラゴンよりも危険を孕んでますのよ!!??」
「はいはい、邪魔者はさっさと退散しましょうね~」
「か、カイン様ああああああああああ!!??」
リデアに引きずられていくハルメリアの悲鳴を聞きながらカインは扉を閉めた。
部屋の中を見渡すと豪奢な調度品の数々が部屋の中を占めていた。
ハーシュはベッドの上で静かに寝息を立てている。ダンジョンを出た帰途で気を失ってからずっと浅く眠ったままだ。
(そういえば妙な様子だったな…ハーシュ)
ハーシュの頬は熱でピンク色に上気しており、胸は呼気で小さく上下していた。
少しずつハーシュの女らしさに慣れてきたような気はしていたが、ダンジョンの中ではハーシュの表情に動揺してしまった。
自分もまだまだ修行が足りない。
カインはハーシュの額の布を新しいものに代えようと腰を上げた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハーシュが薄く目を開くと見覚えのない天井だった。
(あれ…??)
「…ハーシュ、気が付いたか?」
ハーシュの意識はまだ朦朧としていたが、その声がカインのものであることは分かった。
「う…ん…」
ハーシュはベッドの中で少し身じろぎをしたが、体の奥の熱はまだ引いていないことがわかった。熱のせいか身体の感覚が大分敏感になっているようで、シーツと身体が擦れるだけで神経がじんじんと痺れるようだった。
「ここは……??…リデアとハルメリア様は…??」
「ここはハルメリア殿の屋敷だ。交代で看病することにしたから、二人には今は休んでもらっている」
枕元でポタポタと水の滴る音がした。カインが布を絞っているようだった。
布が額に乗せられると、ひんやりとした感触が心地よかった。
「水、飲むか??」
カインの顔がぼんやりとハーシュの視界に映ると、ハーシュは心が安堵で満たされるのを感じた。
「……うん……」
「…………ちょっと待ってろ、今持ってくる」
ハーシュは無意識に手を伸ばしてカインの服の裾を掴んでいた。
「……どうした?」
「あ…あれ…?」
気が付いて、ハーシュは掴んでいた裾を慌てて放した。
「ご、ごめん……」
「…大丈夫だ。すぐ戻るから少しだけ待ってろ」
頭の上からカインのやさしい声が掛けられた。
カインは静かに扉を閉めて出て行った。
静かな部屋の中に独りでいると、どうしても身体の感覚に意識が傾いてしまう。
意識が覚醒してくると共に、眠りに落ちる前のかきむしりたくなるようなもどかしさが再び込み上げてきて、その感覚に徐々に支配されていくようだった。
ズクンズクンと動悸を全身に感じる。身体全体が敏感な心臓になったようだった。
絶え間のない辛苦に耐えていると汗が自然と出てくる。
「……うぅ………」
刺激は一向に止む気配がなく、ハーシュは少しばかり心細くなってくる。
苦し紛れに部屋を見渡すと、椅子にはカインのジャケットが掛けられていた。なぜかはわからないが、カインの匂いに反応して体内の感覚が少しだけ安らぐことが分かっていたハーシュは、そのジャケットを弱弱しく手繰り寄せた。
「ハーシュ、水を持ってきたぞ」
「「あ」」
カインが扉を開けるとハーシュはカインのジャケットを胸元に押し付けているところだった。
「あ、汗……!!そう…!汗拭こうと思って……!」
「そ、そうか……タオルが必要なら後でもってこよう…」
若干気まずい雰囲気のまま、カインは枕元の小さな机に銀のコップと水差しを置いた。
「ほら」
ハーシュはカインから差し出されたコップを両手で受け取るとゆっくり飲み干した。
冷たい水に渇きは癒されるが、身体の火照りに関しては焼け石に水だった。
静かな部屋の中で横になったハーシュの苦し気な呼気の音だけが聞こえる。カインは無言のままハーシュを見守り、時折ハーシュの額の布を氷水に漬けて絞ってまた載せるということを繰り返す。
ハーシュは辛抱強く耐え忍んでいたが、体力が消耗されてきたからかカインに弱音を零した。
「…カイン…お腹が…熱い…」
「…どうする…?冷やすか…?」
カインが何気なくハーシュの下腹の辺りを軽くさする。
「ふぁっ!?」
ハーシュの身体がびくと跳ねて、カインは慌てて手を除けた。
「す、すまん!痛むか?」
「い、痛む……?…というか……」
ごにょごにょとハーシュは言葉を濁した。
「ハーシュ…どうして欲しい?」
カインは心配そうな顔でハーシュに尋ねた。
ハーシュが苦しんでいる前で自分は何もできず手をこまねていることが、精神的に堪えるのだろう。
カインの質問にハーシュは朦朧とした脳内で考えた。
カインにどうして欲しい……?
触って…欲しい……
なにを……
どこを……
………………??
いや………それは………流石に…
ハーシュはもう一度カインの表情を見る。心配そうに眉を寄せた顔が何かを懇願するようにも見えた。
………でも………体…………熱い……し………辛いし……
今だけ………少しくらいなら……いい…よね………
「あ、頭……」
「…頭……?」
カインは、聞き間違いかと思ったのか眉間を深くした。ハーシュは恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
「……撫でて…」
消え入りそうな声で言いながらハーシュは頬が赤くなるのを感じた。
「…………ああ、わかった…」
頭の上にカインの大きな手のひらが置かれた。熱を持った手のひらだったがそれでも心地よかった。
手のひらが前後にやさしく動かされるとすこしだけ髪が擦れる音がする。
体の奥の引きむしるような痛痒は変わらないが、気持ちは落ち着く。ハーシュは胸の奥まで深く呼吸を吸った。
「他には…何かあるか?」
「……ちょっとこっち……椅子………近づけて……」
カインは、言われるがままに椅子をベッドに近づけた。
すると、ハーシュはカインの膝の辺りにぽすと頭を載せた。
「…ハーシュ??」
「…す、すこしだけ…このまま…」
すーすーとハーシュの寝息に似た静かな呼気の音が部屋にこだまする。
カインの膝の辺りに顔を埋める。ざらざらとした繊維の粗い生地が頬に当たるが気持ちは落ち着いた。
(カインの匂い…落ち着く……っていうか…なんか……体が……ふわふわして……ぎゅっとしてくる…)
身体の内奥が強烈に何かを欲しがっている。その何かが分からないまま、ハーシュは小刻みに身じろぎを繰り返す。
内股を擦り合わせるとパズルのピースがはまったように一瞬だけ痛痒が落ち着くが、代わりに焦燥にも似た渇望が湧き上がってくる。
「はっ…はぁ…はあ…」
(もっと…欲しい…カインの……この匂い…)
ハーシュは頭がぼうっとしてきた。呼吸が少し激しくなり、顔色も紅潮してくる。
「は、ハーシュ…大丈夫か?」
「……あっ………」
身体の芯から震えが起こり出した。初めは微かな震えだったがそれは止まずにどんどんと大きくなっていく。
「っか、カイン…!?……な、なんか……くる…?……………かもっ……?!」
「来る…??何がだ…??ハーシュ??」
「わ、わかんなっ……………!!…っ…!?……と、とまらなっ……!」
身体の芯から震えが伝わるように、助けを求めて差し出した手先がカタカタと震えた。
「あっ………やだ………だめ……な…のにぃっ………」
ハーシュは震えを抑えようと必死に抵抗したが、水を注いだコップから否応なく水が溢れ出ていくように、体の震えはどうやっても留めようがなかった。
「~~~~~~~~~~~~ッッ!!??」
ハーシュの身体がガクガクと震えた後、打ち上げる波の様に何度かビクッと身体を跳ねさせた。口から声が漏れ出てしまいそうだったので、ハーシュは両手で必死に口元を抑えていた。
「んっ……ん゛っっっっ……!?」
数度の収縮と緊張を繰り返した後、山を越したように体は沈静化したようで、ハーシュは深い呼吸を繰り返した。身体の奥の痛痒が薄らぐと共に、頭に少しずつ冷静さが立ち戻ってくる。
「ハーシュ??一体どうしたんだ!?大丈夫か?」
見上げるとカインが心配そうにこちらの顔を覗きこんできた。それと同時に、ハーシュは自分に何が起こったかもわからず正体不明の羞恥とパニックで涙が零れてきた。
しばらく会話もできないまますすり上げていると、カインの戸惑いが気配で伝わってきた。
「ご、ごめん………ごめんね……カイン……大丈夫だから………り、リデア……呼んできて…」
「……わかった」
カインは静かに席を立つと扉を静かに閉めて出て行った。
ハーシュは抑えていたものが、溢れるように嗚咽交じりに涙を流した。
自分がなんで泣いているかもわからなかった。
ただ、何かを受け入れるために、今の自分にとっては必要なのだと思った。
コンコンとリデアにしては少し遠慮がちなノックの音と共にリデアが入ってきた。
「…ハーシュ?カインが来るように言ってたけど…大丈夫?」
リデアが来る前に涙を出し切ろうと思ったが、結局それは叶わなかった。
「リ…デアぁ…!」
ハーシュはぐしゃぐしゃになった顔をシーツで隠したままリデアを呼んだ。
「ど、どうした!?カインがなんかやったの!?」
「ち、ちが……!なんか…からだ……へんに……なっちゃって……」
言いながらもぼろぼろと涙が止まらなかった。
「へん…って…?」
「わ、わかんな……な、なんか…し……………………下着も……………………よごしちゃって………」
カインには言えなかったことを言うと、ハーシュは羞恥とパニックがまた込み上げてきて泣きながらシーツを強く握りしめた。
「あーーー……………大丈夫よ、大丈夫。ただの生理現象だから…」
驚いたハーシュがシーツから顔を上げるとリデアはばつの悪そうな表情で頭を搔いていた。
「せ、せいりげんしょう…??」
リデアが何を言っているのはわからなかったが、自分は正常なのかも知れないという希望を感じハーシュの気持ちは少し軽くなった。
「…ようは……………カインの前でいっちゃった訳ね?」
「…………………どこへ?」
ハーシュは首を傾げた。
「………つまり、絶頂した訳ね」
「……ぜっ…?」
しばらくしてから、時間差でボンとハーシュの顔が赤くなった。
「え………え………え………?」
事態を察したハーシュの顔色が赤くなり、そのあと青ざめていく。
「ど、どうしよう…!!か、カインに…カインに謝らなくちゃ…!!!……ボク…こんな…こんな体……ご、ごめ…」
ハーシュはベッドの上でおろおろと右往左往した。
リデアはそんなハーシュを抱きしめた。
「リデア…??」
「…かわいい…」
「り、リデア…??」
「かわいい…かわいい…ハーシュかわいい…」
「????…」
(つづく)




