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TS magics  作者: 藤原埼玉
21/41

お兄さんといっしょ その六

今回ブクマが結構伸びて嬉しかったです。

ありがとうございます。

「…分かってると思うが卑怯な事はしないように。あと、医療班が控えているからといって無茶はしないこと」


 二人は見つめ合ったままリザイアの言葉に頷いた。


 既に場には息苦しいほどの気合が充満している。気合に当てられ学生達の今かと待ち侘びる高揚も感じられた。


 リザイアは拡声器を当てると息を吸い込んだ。


『それではこれより試合を開始する!!…始め!!』


 リザイアの開始の声と共にカインの体がしなやかに伸びた。


 ギィン


 カインの剣とコルゴンのミスリル製の小手が弾け金属音が鳴り響く。


 カインは間髪いれずに幾重にも斬り込む。


 コルゴンはカインの攻撃を悉く受け切るが詠唱する隙は与えられなかった。


 術式の起点を潰す、対魔術師に対抗する戦士の常套手段と言える。


 玄人ほど魔術の詠唱は極限まで無駄が省かれ研ぎ澄まされているものだが、戦士同士の死線のシビアさはその数瞬すらあっさりと飛び越す。


「体力は互角か?」


「初めから飛ばしてるな、カインは」


「短期決戦なのはお互い承知の上ってことでしょう!」


 コルゴンが剣撃を体を入れて縦にいなすとカインの懐に入り込んだ。


「光よ!!」


 一瞬の目眩しのための簡易な呪文はカインの手にあえなく遮られた。


 だがその一瞬を利用してコルゴンは大きくバックステップで間合いを作る。


 時間が止まったかと錯覚するほど場に気が充満する。


(これが師団長クラスの殺気か…!)


「穿て『神槍グングニル』」


 コルゴンの掌から凝縮された光の槍が射出される正にその時、皆が目を疑った。


 カインは放たれる光の槍に向かって後脚で地面を迷いなく蹴り上げた。


 観客席が息を呑み、そしてどよめきが広がる。コルゴンですら驚愕を隠し切れなかった。


 カインは猫のように身を捻るとすんでのところで槍を躱しそのまま半身で斬り込んだ。


 相手が本命の攻撃を放つ時はその火力に恐れ、誰しもが身構える。


 だが、前進しながらそれを躱し尚且つ間を置かず攻勢に転じるなどというのは数多の死線を潜り抜けた軍人ですら躊躇するほど命知らずの行為もいいところだった。


 現に魔術の熱量に耐え切れずカインの背中の鎧は繊維ごと焼けきれていた。


 三度鍔迫る時、ゴルゴンの激した怒声が放たれた。


「馬鹿か貴様は!!」


 コルゴンの額に冷や汗が光る。


「数瞬ズレたら人体欠損!!運が悪ければ半身が消し飛ぶぞ!!」


 しかしコルゴンの声にカインの昏く沈んだ瞳は何ら反応を示さなかった。


 死角を縫って放たれたカインの横薙ぎの剣撃をコルゴンはこめかみの辺りで食い止めた。


(セルシアさんの医療魔術を当てにした…?…しかし…この男の目の中にあるのは…そんな投げやりな無謀さなどではない)


 そもこの目の色は…学生のものではない。コルゴンの背筋に急に怖気が走った。


 一握りの兵士だけが持ち得る…戦場を数多潜り抜け、それでも色褪せぬ冷たい鋼のような覚悟。


「たかだか学生の果たし合いで一体何がお前をそこまで駆り立てる!!」


「約束だ」


 それは、静かだが良く通る声だった。


「俺はハーシュと約束した。ハーシュとの約束は…絶対に守る」


 コルゴンは集中を乱される前に舌打ちをして再度間合いを取った。


「死にたがりに手加減はせん、宝剣よ!」


 コルゴンの手中に複数の光の刃が宿る。コルゴンはそれをそのままカインに向けて投げ放った。


 カインは剣の一薙ぎで払うが払いそこねた刃が足の太ももを掠め鮮血が飛んだ。


 カインの顔に一瞬の苦悶の表情が浮かぶが、意を決し大地を踏みしめると再度コルゴン向けて飛び込んだ。


 コルゴンは既に落ち着きを取り戻していた。


 駆け引きや技術すべてにおいてコルゴンが数枚上手だった。そしてそれは当然のことでもある。


 その差が徐々にカインの手傷として具現していく。


 やがて、カインの追撃が止んだ。


 学生達は息を呑んだ。カインですら敵わない『暁の世代』の圧倒的な武力に。


「…あの瞳…まるで手負いの獣だな…」


 そんなムードが漂う中、グラストンは独りごちる。相対するコルゴンも感じていた。


 この戦士の諦めていないどころか次で終わらせるという気迫を。


「宝剣よ!!」


 コルゴンは詠唱すると手の中に生まれた光の刃を間髪入れずカインに投げつけた。


 ここまでは何度も繰り返された場面だった。


炸裂(エルド)する(・ディ)大地(・エクスプロディア)


 カインは自らの剣を大地に叩きつけると爆音を発して地面が炸裂した。


 お互いの視界が奪われるほどの大技を放つのは隙も多く一種の賭けだ。


「うわ!」


「何も見えねえ!」


 コルゴンは見通しのつかないフィールドに舌打ちをすると大きくバックステップした。


 その瞬間コルゴンは自分の咄嗟の行動に激しく後悔を感じた。背中にぞくりと悪寒が走った。


「あの獣の牙は…師団長の喉にすら届き得るかもしれんな」


 グラストンは他人事のように独りごちた。


 コルゴンは小手を裏拳で叩きつける様に振り返った。


 コルゴンの小手に剣がぶつかったのは偶然だった。ぶわとコルゴンの額に汗が吹き出た。


 カインの渾身の剣撃を小手で受け切ったがそのまま数メートルほど吹き飛ばされた。


 まだ視界は良好になりきっていない。


(一旦、『神槍グングニル』で牽制を打つか…それとも…!)


 しかし、コルゴンは意を決した。命懸けの相手に対しての逃げの一手は、今度こそ命取りになる。その事が戦場での経験から思い起こされたからだ。


神槍グングニル


 詠唱と同時にコルゴンは土煙の中に飛び込んだ。


(奴は必ず避け切る!)


『宝剣よ』


 詠唱した瞬間土煙の中で身をよじり『神槍グングニル』を回避するカインの姿が見えた。


 突進するこちらの姿を見てその目に驚きが見えたのはコルゴンにとって痛快だったと言えた。


 コルゴンは手の中にある光の刃を強く握りこむとカインに振り下ろした。当然カインは剣で受ける。


 激しい金属音とともに熱量の放出が始まる。


 刃と実体化した光は瞬く間に消え去り、カインの身体は梃子を失して一瞬泳いだ。


『宝剣よ』


 コルゴンは再度詠唱し、光の刃をカイン向けて叩きつける。


 それはカインの胸当て目掛けてぶつかる筈だった。カインは素手で光の刃を掴み返した。


(馬鹿な!)


 カインの手が熱量で焼ける。と、同時にカインは剣を放したもう片方の手を振りかぶった。


「ッッ『宝剣よ』!!」


 カインがカウンターでコルゴンの顔を横殴りに殴りつけるのとカインの身体が吹っ飛んだのはほぼ同時だった。カインの身体は玩具の様にフィールドの壁に激突してそのまま動かなくなった。


 セルシアが駆け寄り容態を確かめる。セルシアはリザイアの方を見ると首を左右に振った。


 リザイアはすうと息を吸うと拡声器で声をあげた。


『勝負あり!!コルゴン・マギ・ベルナルドの勝ちだ!!』


 瞬間、学生達の歓声が上がった。


「カイン!!」


 カインにハーシュ、リデア達が駆け寄る。


 対してコルゴンは頰に一撃を喰らったものの落ち着いたものだった。


 コルゴンにグラストンが歩み寄る。


「ご苦労、コルゴン」


「…」


「コルゴン…??」


 コルゴンは無言でグラストンに腕をかざした。そのミスリル製の小手は割れていた。こんな事は初めてだった。


「恐ろしい奴だ…」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何かに突き動かされるようにガバと起き上がった。


「わぁ!!」


「ッッ…!」


 身体に痺れるような痛みが走った。


「カインくん!!」


「カイン!!安静にしてないと!!」


「…ここは…?」


 ぼんやりとした視界を見渡すとそこは医務室の様だった。状況が徐々に思い起こされるにつれ心の中に重たいものが生じた。


 目の前のハーシュは心配そうな顔をしていたが、カインとしては合わせる顔がなかった。


「すまないハーシュ…俺は」


「あ、あの…」


 はたと気が付いてハーシュの方をまじまじと眺めた。


「そう言えば…ハーシュがなぜここにいる??」


 話ではコルゴンが勝てばハーシュを学園から辞めさせるということだった筈だ。


「まあ、その…色々あって…」


「起きたか??」


 医務室の端にはコルゴンがいた。頰にテーピングが貼られている以外は戦闘前と何ら変わりはなかった。


「カインくん、俺は君の事を誤解していたようだ」


「兄さんは誤解するも何も早合点し過ぎですよ!」


「ま、まぁそう言うな」


「そう言うなって!?その早合点のせいでカインがこんな目にあったんですよ!」


「い、いやそれはだな…」


「カインに今すぐ謝ってください…」


『え…』


「カインに謝ってください!」


「お、おい。ハーシュ…それは流石に」


「い、いや…ハーシュの言う通りだ…済まなかったカインくん」


 そう言うとコルゴンはカインに深々と頭を下げた。


「そんな、とんでもないです。誤解される様な状況を生んだのは…」


 生んだのは…?


「…お前じゃないのか?ハーシュ…」


「え?そうなの?」


 ハーシュは寝耳に水とでも言うような顔で返事をした。


 こいつにはいつか分からせないとダメだ…。カインはそう決心した。


 ふと、コルゴンの方を見ると激しく同意する様に頷いており目が合った。


(ハーシュを頼む…)


(分かりました…)


 ここに無言の男同士の友情が芽生えた。それはハーシュの被害者同盟でもあった。


「何今の…?」


『なんでもない』


 ハーシュは相変わらず心外そうな表情で小首を傾げていた。


(続く)

お兄さん編はもうちょっとで終わりです。

もう少しだけお付き合い頂けたら幸いです。

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