お兄さんといっしょ その五
すべりこみで日曜日中投稿でけた。
ニッチなジャンルにもかかわらずブクマ評価してくださる方々いつもありがとうございます!
アレフガルド学園内には大小競技用の闘技場がいくつか設けられている。
使用には学園長の許可が必要だが今日はその中でも最も大きな闘技場が当然の如く貸し切りで解放され、色めき立つ生徒達が我先にと集まり出していた。
『暁の世代』でも有数の実力者であり政府軍の一個師団長コルゴン・マギ・ベルナルド
対するは、学園内でもトップクラスの実力を持つカイン・アークフィールド
更には賞品はハーシュ・マギ・ベルナルドと銘打たれていたので、色々と生徒達の下衆な勘繰りを加速させた。
土曜日の正午前。本来であれば余暇を過ごす時間だが生徒達は続々と闘技場に集まる。
件のコルゴンは既に闘技場のフィールドの中で悠然と相手を待っていた。
「セルシアさん…」
「なんですか?コルゴンくん」
コルゴンの横には副審兼医療班としてセルシアが立っていた。
「…ハーシュのあの格好は一体なんですか??」
それは質問の形をとってはいるが、明らかな苛立ちが込められていた。
その理由は一つだ。主審を務めるリザイアの横には死んだ目をしたミニスカメイドの格好をさせられているハーシュがいた。口からは魂が漏れ出している。
「ハーシュ!!似合ってるぞ!!」
「似合ってたまるか!!」
「ハーシュくんかわいいー!!!」
「パンツ見せろーハーシュ!!」
「………」
ハーシュは生徒達のガヤに言い返すことも諦め大きくため息をついた。
セルシアはグッと拳を握ると親指を天に突き立てた。
「可愛いのです」
「そう言うことではなくですね…」
会話が一向に噛み合わないことにコルゴンは頭を抱えた。
「ハーシュをあんな見せ物にして…セルシアさん達は一体どういうつもりですか!」
「舞台には華がないといけないのです!ドャァ」
「…」
自信満々で言い放つセルシアにコルゴンは会話を諦めた。
「ハーシュちゃんめっちゃ可愛いー!!」
「ハーシュちゃん俺と付き合ってくれーーー!!!」
「ふ、太ももブッヒィィィィイ!!」
それでも観客席からハーシュへのガヤは増すばかりだった。コルゴンの中で何かがぷつんと切れる音がした。
「………宝剣よ…」
「え、コルゴンくん??」
コルゴンは投擲の姿勢を取るとサイドスローの要領で観客席向かってそれを投げ付けた。
ゴシャ
「ブヒイイイィ!!??」
放たれたそれは生徒達が反応する暇すら与えず壁に突き刺さった。
コルゴンの手から矢のように放たれたそれは観客席の壁にめり込み、光の形に綺麗に消失していた。
「ハーシュに軽々しく不埒な目を向ける者は殺すぞ…」
男子生徒達の顔は青ざめた。
コルゴンの魔法は光魔法だが、 光魔法には珍しく頗る殺傷力に特化したものだ。
アレフガルド学園在学中にプラネタリウムにアイデアを得て光を圧縮して刃とするイメージから作り上げられた魔法は当初余りの着想の奇抜さに先生からも生徒からも『実用性に疑問あり』との視線を向けられた。
しかしコルゴンは自身の不退転の意思により今や大陸でも有数の使い手になったのだ。
…しん、と先ほどの喧騒が嘘の様に止む中、愉快そうな顔をしてコルゴンに歩み寄る者がいた。グラストンだ。
グラストンは笑いを抑えきれないと言った様子で肩を震わせながら馴れ馴れしく肩に手を置いた。
「…コルゴン、お前いつからそんなシスコンになったんだ?」
「貴様にだけは言われたくない!!!!!」
「それにしても見てみろかのハーシュを。アフロディテの様に愛くるしい。あの格好もよく似合ってる。兄としても鼻が高い」
「…ちょっとカインの様子見てくるね」
グラストンの無遠慮な視線に食傷気味になったのかハーシュはそそくさと退散しようとした。
「なんだ、ハーシュ。カインくんにもその格好を見せに行くのか。カインくんもきっとさぞや発奮する事だろうな!!」
「カインを兄さんと一緒にするな馬鹿兄貴!」
ハーシュはグラストンにべっと舌を出すとさっさと立ち去っていった。
「…もう少し自重を知れグラストン」
「仕方がないだろう、私はああやって嫌がるハーシュを見るのが愛らしくて何より好きなんだ…」
「…小学生か貴様は…」
「それにしても…この勝負に勝ったらハーシュを学園を辞めさせるというのは本気か?」
「まだ決まったことではない…ただ、先程の生徒達の低俗な振る舞い…無論それだけではないが…ハーシュをあの様な態度がまかり通る様な場所に…」
「コルゴン、リザイアの前だぞ」
「…」
コルゴンは無言で俯いた。
「…それにしてもコルゴンくんは時間まで控え室で休んでいればいいのになぜそうしないのです?」
「…俺は軍人ですから」
コルゴンの言葉はピリッとした緊張感の中に漂う底知れない余裕と自信を感じさせた。
(カインくんの戦闘力は学生離れしてる。しなやかで洗練された動きはさしずめアスリート…といったところですかね)
それに対してコルゴンはプロの軍人だ。戦闘に関しては経験の重みが違う。
(今回ばかりは分が悪いかも知れないのですよ…カインくん…)
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「カイン…大丈夫…??」
控え室で一通りアップを終えたカインは、精神統一か両手を組んで静かに目を瞑っていた。
その身体に闘いの高揚が滾るからだろうか、カインの腕は小刻みに震えていた。武者震いだ。
カインはハーシュの呼び掛けにゆったりと目を開けるとその顔に穏やかな笑みを浮かべてハーシュの頭をぽんと叩いた。
「わっ」
「大丈夫だ」
ハーシュは申し訳なさそうにカインを見上げた。
「…ごめんね、カインまで巻き込んじゃって」
「気にするな。…それよりもコルゴンさんは本気でお前をアレフガルド学園から辞めさせるつもりなのか?」
「……」
暗い顔で俯いたハーシュの額をカインは指で軽く突いた。ハーシュは驚いた目でカインを見上げた。
「そんな顔をするな、信じて待っていろ」
そのままカインは旅行に出向くような気軽さで闘技場の入口に出向いた。
ふと、カインはその入口で立ち止まるとハーシュの方を振り向いた。カインの顔を窓から差す陽が照らしていた。
「ハーシュ、お前が言っていたあの約束覚えているか?」
「えっ」
余りに唐突な質問に一瞬驚いてしまった。
しかし、ハーシュには何のことか直ぐに思い当たる。
リデア、カイン、そして自分。それぞれが未来に目を輝かせたあの日のこと。みんな幼かったが決して忘れることなどあるはずがなかった。
三人で…いつか共に冒険をしようと語り合った時の事だ。
「…当たり前だよ」
「あの約束は今も有効だな?」
「うん」
カインは満足そうに笑った様に見えた。
「なら、お前の兄と言えど俺が負けてやる理由はないな」
そう言ってカインは控え室を出て行く。
ハーシュも観客席にと急ごうとしたその時、カインが出て行った正にその入口から見知った影が現れた。
「あ、リデア」
「…あんたの将来がかかった大事な闘いだからね、檄くらい飛ばしてやろうかと思ってさたんだけど…必要なかったみたい」
「…そうなの?」
リデアは戦士らしい好戦的な笑みを浮かべて言った。
「うん…あいつ笑ってた」
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『お前は何のために剣を振るう』
(強くなりたいから)
自分は確かそう答えた。
『そうか。では、なぜ強くなりたい』
(独りでも生きていく為)
そう答えると師は笑った。
『強さはただ強さのためにあるのではない』
頭に置かれた手はゴツゴツとして重かったが温かかった。
『カイン、誰かを護るために剣を振るえ。ただ強さの為にある強さは…不幸だ』
そう言う師の顔には悲しみと厳かな温かさが宿っていた。
「師、喜べ。俺は」
闘技場の廊下の先に明かりが見えた時、カインは手に馴染んだ剣の柄をすらりと引き抜いた。
「漸く大事なものの為に剣が振るえる」
(続く)




