邂逅
“いずれ必ず、人が神を必要としないときがやってくる。”
“そのとき彼らは、ようやく人類史が空想上の存在に翻弄されていたことを理解する。”
“人類は、自ら創った存在に翻弄されてきた馬鹿な生き物なのだ。”
“何が宗派だ、バカヤロウ。元はひとつの物語だったのだ。全て。全て。全て。バカヤロウ。バカヤロウ!”
“神など存在しないのだ!”
“人がそれに気がついたとき、いたって簡単な考えを見つけるだろう。”
“いわばーーー無神論者、と言ったところだろうか。”
目が覚めると、外はすっかり明るくなっていた。昨日はずいぶんと話し込んでしまった。捏には、どこまで話をしたんだったか。スマートフォンの画面を開くと、時刻はすでに11時をまわっていた。いつもは朝7時には目が覚めるから、この時間まで寝ていたのは久しぶりだった。あたりを見渡すと、部屋の電気は消されたままで、カーテンも閉められたままだった。捏もまだ寝ているのだろうか。そう思い、捏が寝ているであろう寝室へと向かった。しかし、ノックをしても、名前を呼んでも反応はない。
「捏?入るよ?」
そう言い、ドアを開けてみる。しかしその部屋には捏はいなかった。ひとまずリビングへ戻ってみる。すると、机の上にメモが置かれてあった。“少しだけ出かける。鍵は玄関に置いてある。また会うときに返してくれ。他に何かあれば電話してくれ”
「はあ…適当だなあ」
そういえば、前世でも屋敷の門前に番をつけていなかったような。それでしょっちゅう町の民が訪ねていた。
とりあえずお昼前なので、朝ごはん兼お昼ごはんを食べに捏の家をあとにした。
外に出てみると見事な快晴で、多くの観光客で賑わっていた。京都ほどではないが、とにかく外国人観光客が多い。おそらく奈良公園の方向に向かうのだろう。菅原初は、近鉄奈良駅のすぐそばにある商店街へと向かった。捏曰く、ここの通りを歩いていれば何かしら美味しそうなものがたくさんあるらしい。お昼ということもあってか、やはり人は多い。すると、すれ違いざまに大きな声をあげる人と遭遇した。
「…あーーーっ!!!!!!!!!」
あまりに突然のことだったので、後ろを振り返ってみる。するとそこには、見覚えのある容姿をした二人組がいた。1人は派手な紫髪の、奇抜なアクセサリーをつけた男性。そしてもう1人は、控えめな服装をした、白髪で髪の毛の触覚を三つ編みにしている男性。どちらも中東系の顔立ちをしていた。
「す、す、菅原…初…!?!?!?!」
「エンリルくん…!?モイラくんまで…!」
目の前にいた二人組は、偶然にもエンリルとモイラだった。
「ぜ、前世での俺たちの名前だ…!ということは、初さん…あなたは記憶があるんですね…!?」
今にも涙が溢れ出そうな表情をして、そう言ったのはモイラくんだった。そりゃあこんなにも“運命的な”再会を果たすとは、想像できないものだ。昨日といい今日といい、なにかが動いているような感じがして、胸騒ぎが止まなかった。
「お前っ!お前お前!俺たちがどれだけお前を探したと思ってンだよおおお!!!」
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いて!!」
エンリルくんもモイラくんも、混乱と感動が混ざり合っているからなのかものすごい剣幕で私に近づいてきた。周囲の人々の視線が一気にこちらに集中している。一旦落ち着いてほしかったので、どこかお店に入って話をしないか、と提案してみた。
「立ち話もなんだし、どこかお店に入って話をしよう。」「
あ、ああ、そうだな!俺このあと予約してる店があってさ。初もついてこないか?」
「いいのかい?」
「おう!金はこっちが持つからさ。それに、メシは大人数で食った方が美味いから」
「も、申し訳ないね……ありがとう。」
そうエンリルが提案してくれたので、お言葉に甘えて2人について行くことにした。
「そういえば、2人は観光で奈良に?」
「はい!でも観光で日本に来たわけじゃないので、そんなに時間がなくて…エンリルがどうしても今日だけ観光したいって話いうから…」
「だって!日本に来れる機会あんまねえんだもん。」
今世でも2人は仲が良く、会話からは長い付き合いであることが伺える。前世から全く変わっておらず、どこか懐かしい気持ちになった。
「へえ、海外から来たんだね?どこの国に住んでるの?」
「俺がイスタンブールで、モイラがニューヨークに住んでる。生まれたところは両方とも全く違うんだけどな!」
確か前世では2人とも中東の生まれだったはずだから、モイラくんがニューヨークに住んでいることは中々に意外だった。
商店街を抜けて、春日大社の鳥居付近までやってきた。ここまでやってくると、すぐ側に奈良公園があるから鹿が平然と街中を歩いている。その様子にエンリルくんとモイラくんは興奮した様子で写真を撮っていた。どうこうしているうちに、2人は“明治創業”と書かれた暖簾を掲げている、文化財に指定されているような大きめの建物の前で足を止めた。どうやらエンリルくんとモイラくんは、ここを予約しているらしい。
「着いたぞ!」
「これはまた…立派なお店だね」
こんなことを言ってしまうのは申し訳ないが、またもや政治家が密談していそうな料亭にやってきてしまったようだ。駐車場に停まっている車は外車ばかりであり、恐らくここも、大学生のバイト代で行けるようなお店でないこともお店の雰囲気から伝わってくる。
「さあさあ、遠慮せずエンリルについて行きましょう、初さん。こう見えてエンリルはお金持ちなんですよ?」
たしかに、エンリルくんが身につけていたものはどれもブランドものだったような。見ている景色が違うんだろうなあ。
「うっ…あ、ありがとう。お言葉に甘えることにするよ…」
私はそう言って、2人の後ろを歩いた。お店の中に入ると、温泉旅館にも似た控えめな内観をしており、それが目の前にある生けてある蓮を目立たせていた。私たちの来店を知った女将が慌ただしい様子で玄関まで駆けつけてくれて、部屋まで案内してくれた。ここも個室で予約していたのかと、この先展開されるであろう話題になんとなく察しがついた。部屋までの道中、ガラス障子から立派な日本庭園が見えた。この庭園は江戸時代まで興福寺の敷地内であり、またこの建物も興福寺の跡地に建てられたものだと女将が説明してくれた。
途端、奥からドタドタと足音がした。誰かが慌てて廊下を走っている。その足音はだんだんこちらに向かってきており、皆不思議そうな様子で音のする方を見ていた。すると現れたのは、50代半ばくらいの、スーツを着た男性ふたり。前世でも見覚えのある容姿をしており、一目見た瞬間誰かわかってしまった。それは相手も同じようで、幽霊でも見たかのような反応をされた。
「うわあああああああ!!!!!」
「うおっ!おい急に止まるな利友!!…っえええ!?!?」
またか。このくだりを今日だけで何回するのだろうかと思わず突っ込みたくなるほどには、昨日だけで偶然とは思えないほど前世で繋がりのあった人たちと出会っている。
偶然にも、私たち3人の前に現れたのは、政治家である宇野利友と藤野律郎であった。




