9 まつりの後
早足で夜の道を帰った。涙はもう止まっている。自分が惨めで悔しい。私は大馬鹿者だ。置き去りにしてしまった晴れ着と少年の事が気になった。今すぐ戻ったら、彼はまだ居るだろうか。晴れ着を返してもらって、持ち主に返すことはできるだろうか。……きっと無理だ。私の身なりでは一目で余所者と分ってしまう。彼もあの晴れ着が盗品だと分かるだろう。
なんで逃げてしまったんだろう。あの場で話せば、事を荒げずに済んだかも知れないのに。いや、やっぱり駄目だ。彼に捕まって引きずり出される可能性だってある。まつりと酒に酔った村人の前に、盗みを働く余所者の小娘が引き出されたとなれば…最悪の場合、嬲り殺されたとしても文句は言えない。
そんな場合ではないのに、妙に胸が熱くてそわそわする。彼の目を思い出した。
彼は私のことをどう思っただろう。考えようとして、やっぱりやめた。
寝ぐらに帰ると、母が起きて待っていた。夜になっても帰ってこない私を心配していたのだと思う。私は何年も前に殺された妹の事を思った。あの時の絶望を思い出し、母に申し訳なくなった。
「お母さん」
母は無言で私を招き寄せた。そんなことはすごく久しぶりで恥ずかしかったけれど、そのまま抱きしめられることにした。
「お母さん、……ごめんなさい。私、泥棒したの見つかった」
母は黙って聞いている。私に回した腕に力がこもった。離してもらって、水を飲んでから、私はまつりのこと、晴れ着のことをぽつぽつ話し始めた。母は口を挟まずに聞いてくれた。
「ここを去らなければならないね」
全部聞き終えて、母は静かに言った。分かっていても悲しかった。ここの村にはそう長くいたわけでもないけれど、普段の村は穏やかそうだったし、まつりは素敵だった。彼もこの村に住んでいるのだろう…。
彼の目を思い出した。もう会えないのか、と思うと苦しいような気がして、そんな自分の気持ちの意味が分からなくて困った。
病み上がりの母には酷かもしれないが、明日には隣の村へ発つことになった。いつもの通り、荷物の少ない私たちの旅支度はするまでもなかった。




