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焚き染め  作者: とみ
出会い
5/15

5 私

母は調子を崩して臥せっていた。元気だけが取り柄の私たちだから、寝床から起きてこられない母を見て私は途方に暮れた。


この村に来てから日が浅く、頼れる知人もない。村長の家に挨拶をした他には、ここ数日は人とまともに言葉を交わしたことすらない。…いつものことだ。ちっぽけで閉鎖的な田舎に行けば、いつだって私たちは除け者にされる。無視されるのは良い方で、嫌がらせをされたり、襲われそうになったりすることさえある。そうした事を身をもって学んでからは、小さな村に居着く時は出来る限り目立たず、人と関わらないように気をつけている。


とにかく、母が元気を出してくれるよう食べ物を調達しなければならない。悪いことに手持ちの保存食は底をついているし、こんな田舎では通貨が使えず、食べ物と交換出来そうな価値あるものも持ち合わせていない。

床で私を心配する母を寝かしつけて、私は山に分け入った。


その日は何の動物も仕留められなかった。山菜は飽くほど採れたけれど、病人に出す膳としては心細い。仕方なく、夏に煩い飛虫と地竜を採って夕餉にした。



母が臥せってから3日経ち、5日経ち、7日が過ぎた。母は良くなるどころか、どんどん力なく痩せていく。

そのまま、10日が過ぎた。

……もう、ダメかもしれない。

その思いが私を駆り立てた。


日が暮れると、私は村に降りた。畑から食べられそうな物を盗んだ。夜が更けてから、目を付けておいた家に忍び込んだ。素早く、米や干し肉を分からない程少量盗む。

それから一目散に逃げ帰った。恐ろしかった。眠る母の呼吸音を聞いても、少しも鼓動が治らなかった。疲れていたのに、そのまま一睡もできなかった。


朝。私が盗んだ食材で作った温かい料理を見て、母は泣いた。決して嬉し泣きではない。


母は朝餉に口を付けなかった。私だって母の言うことは分かる。良いことと悪いことの区別もつく。だけど、母の体調の悪化以上に悪いことなんてあるだろうか。母が死んでしまったら、私はたった一人で、どうやって生きていけば良いのだろうか。どうやって孤独に堪えれば良いのだろうか。


そもそも、何故、こんな生活をしなければならないのだろう。何故、ひと所にずっと住んでいられないのだろう。何故、他の村人のように畑を耕し、他の商人のように商いをして生きていけないのだろう。何故、母はこんな人生を選んだんだろう。

私は好きでこんな生活を選んだ訳じゃない。今誰にも頼れず死んでしまうとしたら、それは母自身のせいだ。

他の人生が欲しい。まともな生活をしたい。母の元に生まれなければ良かった。

もう疲れた。


私は母に背を向けると、目的地もなく走った。

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