4 僕
「絶っ対に嫌だ。兄やが行けよ」
「お前がそう言うから、この前は俺が行っただろ!」
「いいじゃんか、兄やなら何回行ったって」
「良いわけあるか」
お遣いを押し付け合う僕達を尻目に、母さんはいかにも重そうに膨れた行李を麻縄で縛り終えて、これ見よがしに僕の足元に置いた。
どん。
「はい、リュウ。よろしくね」
「え…」
「伯父さんにちゃんと挨拶するんだよ」
「いや、でも母さん」
「リュウ」
「待って、僕より…」
「リュウ」
母さんはにっこり笑った。
「火祭りは楽しかった?」
「…………行ってきます」
僕の言葉に、兄もにっこり笑顔を寄越した。
諦めて行李を担ぐと、膝に妹が突進してきてよろめいた。
「サヨも行く!」
「あれー?サヨのお煎餅はもうできたのかな?」
「あっ!…やっぱりサヨは行かない!」
ちょろい妹が母の策にあっさり嵌った。
…まあ、僕自身も今まさに嵌められているので人のことは言えないが。
伯父は隣の村に住んでいる。山を越えるのには丸一日かかるので、妹のようなちびっこはお留守番だ。
重い荷物。長い道のり。暑い陽射し。それら全部を合わせても敵わないくらい、嫌なものがある。その嫌なものこそ、伯父本人だ。
伯父は僕を何だと思っているのだろうか。一度伯父の前に姿を現したが最後、しばらくは家に帰れない。何日も僕を連れ回して何をするのかというと、伯父の仕事の手伝いをさせられるのだ。薬を作る。家畜の出産を手伝う。怪我をした村人の傷を縫う。ここまでならまだ分かる。けれど伯父の無数の趣味に付き合わされるのは意味が分からない。
滝壺を登らされる。夜の山中に置き去りにされる。毒々しい虫を食べさせられる。馬に乗せられる。大量の草鞋を編まされる。書物を丸暗記するまで閉じ込められる。謎の言語を叩き込まれる……。
もちろん僕はこんな事やりたくない。反抗する度、伯父は豪快に笑って言う。
「良いぞ、リュウ。逃げられるものなら逃げてみろ。本当に逃げられたら許してやる」
今までに試みた逃避、放棄、脅し、すかし、罠、正面対決は全て失敗に終わり、最近は、とことん付き合うのが実は一番労力がかからないのではないかと思い始めている。
それなのに、兄がお使いに行けば必ず次の日に帰ってくるし、晩は伯父自ら美味い晩飯を振舞ったなどというのだから酷い話だ。
それを分かっていて僕にばかりお遣いを頼む母さんも母さんだ。強情で、自分の思惑を通させる所業は、さすが伯父さんの妹といったところだろう。
ため息をつき、行李を背負い直すと僕は家を後にした。




