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焚き染め  作者: とみ
出会い
3/15

3 火祭り

あっと思う間も無く、彼女はびくりと肩を震わせ、さっと僕の方を振り向いた。


僕の時は止まったような気がした。


僕の耳元で、自分の心臓が一度、大きく打つ音を聞いた。


彼女の驚いた瞳が、僕をとらえている。

その瞳は、驚きにも掻き消されることなく、切なさをたたえていた。

驚きと哀しみが共存する表情は涙で彩られ、月の明かりを受けて光っていた。


僕が見惚れている内に、彼女のうすく開いた唇が引き結ばれた。


彼女はさっと立ち上がり、僕の脇をすり抜けた。

艶やかな晴れ着がつかの間宙を舞って、地面に着地するのがスローで見えた。

彼女は参道を駆け下りてゆく。


足音が遠ざかってからしばらくしても、僕は茫然と立ちつくしていた。




その夜、とある若い女性の晴れ着が盗まれた。

夜のうちに庭で風に当てていた晴れ着が、朝には消えていたのだ。

大騒ぎを開始した女性であったが、女性の家の直ぐ近くの社にて、件の晴れ着は呆気なく見つかった。丁寧に畳まれ、社に供えられていたと聞いて、晴れ着の持ち主は首を傾げたという。



犯人が誰なのか知っているのは僕だけだ。けれど僕は、誰にも犯人を明かさなかった。



僕はまだ彼女と言葉を交わしたことがない。

どんな名前で、どんな声で笑うのだろう。

何処に住んでいて、どうしたら会えるんだろう。

あの夜からずっと、そんなことばかり考えている。

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