2 火祭り
すぐに追いかけたはずだが、僕は彼女を見失ってしまった。
探すのも馬鹿らしい、どうせ寝ぐらに帰ったんだろうと自分に言い聞かせ、広場に戻ろうと踵を返したその時。
視界の端に、何か長い布がひらめくのを見た。
山の中へ続く、社の参道だ。
耳をすますと、参道を駆け上る足跡が聞こえる。僕は急いで後を追った。
参道に入り、弾んだ息を整えた。
なるべく音を立てないよう注意しながら社を目指す。参道の祓い代は既に燃え尽きているが、月明かりが優しく降り注いでいて、怖くはない。
参道を登りきると視界が開けて、慎ましい社が現れる。よく見馴れた風景だ。もっとも、夜中に見たのは初めてだけれど。
探すまでもなく、社の前に座り込む彼女の後ろ姿があった。
どういうわけか、一際立派な焚き染めの晴れ着をまとっている。僕が見たひらめく布の正体は、この晴れ着だったのだと直感した。
余所者の彼女には、どうやって着るのか分からなかったのだろう。まるで雷を恐れる子供が布団をかぶるように、晴れ着の布地を羽織って、その端をぎゅっと抱きしめていた。
なんだか幼く見えるその背中がふるえ、小さな嗚咽が聞こえてきた時、僕自身が何を思ったのかは正直分からない。
非常に驚いたのは確かだ。
最初は、晴れ着も持たない余所者をいびるつもりだった。そのためには、大人びた様子の気に食わない女がいないとおかしい。
祭りという非日常にも、人の後をつけて夜の社に居るという非日常にも浮かれていた気持ちが、急速にしぼんでいった。
彼女は僕がすぐ後ろにいることに気づかず、声を殺して泣きながらうずくまっている。
僕は無意識に一歩後ずさった。
ざっ…
僕の足が地面を擦る音が、とんでもなく大きく聞こえた。




