1 火祭り
あの小さな事件の犯人が、あの子だとを知っているのは僕だけだ。
僕はあの日見たことを誰にも言っていない。
ついこの前の、夏の火祭りのことだ。僕はイチ達と共に火を掲げて村を走りまわり、そこかしこの祓い代を燃やしていた。
祭りの日に親兄弟から離れて過ごすのは、今年が初めてだった。家の女たちのために嫌々焚き染めをしてやっている兄、火に近づき過ぎだと袖を捕まえられてふくれっ面をする妹二人を尻目に、母さんから用事を言いつけられる前にと、僕は急いで家を飛び出した。
イチの家まで止まらずに走った。途中出くわす女たちはみんな焚き染めの晴れ着で着飾っていて、祭り独特のウズウズするような気持ちに拍車がかかった。
日が暮れてくると、僕たちは馬鹿みたいに沢山作った予備の松明を腰に差し、火の点いた松明を高らかに掲げ、村中の祓い代に火を放った。燃やしては走り、走っては燃やし、また走ってお腹が空けば、今日のために絞められた鶏のご馳走をたらふく食べた。
夜もふけたころ、大祓い代の広場で宴が始まった。
初めて宴に参加する僕らは、眠い目をなんとか見開いて耐えた。それでもお酒が振舞われたのを境として、ひとり、またひとりと眠気に負けて突っ伏してしまう。
僕らの中で、なんとかまだ起きていたのはイチと僕だけだった。
限界が近い僕の眼に、彼女の姿がちらりと映った。たった一人で宴を眺めている。彼女は全然眠そうに見えなくて、なんだか腹がたった。
彼女は流れ者だ。ひと月ほど前に、母親と共にこの村にやって来た。愛想のない奴だった。
手習いに来た試しがなく、話をしたことは一度もない。
歳は僕と同じくらいだろうが、他の女たちのように、群れたり騒いだりするところは想像もできない。
だからこそ、彼女がこの場にいることに違和感を覚えた。
彼女は余所者だ。それなのに、僕たちの宴を見に来ていて、それに……、なんだか、僕たちよりも堂々として大人ぶっているのが、どうしても気に食わなかった。
ふと、彼女が着ているのが、ただの普段着であることに気づく。
からかってやったら、さぞ気分が良いだろう。
僕がイチを肘でつつくと、悪友はそのままゴロンと横になって、鼾をかき始めた。眠る仲間達を見て、そういえば眠気が消えたことに気がついた。
彼女が広場に背を向け歩き出した。一瞬の逡巡の後、僕は一人そのあとを追った。




