↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石に宿る想い〜花文字師で王子の婚約者候補ですが、この国を救います〜  作者: 原石 結花
サファイア――真実を見抜く石――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/19

9 初めての花文字師対決

 王宮内にある、静かな庭園。


 リリアーナは一人で歩いていた。

 もちろん、これは囮だ。


 レオンハルトたちには、敵に見えない場所で、待機してもらっている。

 リリアーナは少し緊張した面持ちで、歩く姿もどこかぎこちなかった。


 リリアーナは心の中で、自分を鼓舞する。

(大丈夫、レオンハルト殿下が近くにいる。だから、怖くない!)


 庭園の中央あたりまで歩いた時――

 ――ヒュッ!!

 風を素早く切り裂く音が聞こえた。


 リリアーナはその音に気づいたが、矢を完全に避けるには間に合わなかった。

 

 その時――

 ――カンッ!!


 鋭い金属音がリリアーナの前方で響く。

 毒矢はリリアーナに届くことなく、真っ二つに斬られて、地面へゆっくりと落ちていった。


 リリアーナはハッと顔を上げ、エメラルドの瞳を見開いた。目の前には、白銀の剣を構えたレオンハルトがいた。


 剣の装飾には、レオンハルトの瞳と同じ色のサファイアがあしらわれている。

 そして、レオンハルトの青い瞳は、茂みに潜む獲物だけを見据えていた。


「……やはり来たか」

 レオンハルトは短くそう呟いた。

「殿下!」

 ルークが声をかける。


 レオンハルトは茂みに潜む獲物から視線を外さず、リリアーナに声をかけた。

「リリアーナ。怪我はないか?」

「ありません」

「なら、予定通り作戦を続行する」

「はい!」


 ここまでは計画通りだ。だから、リリアーナとレオンハルトは焦る様子はない。

 ルークだけは、レオンハルトの身を案じ、緊張した面持ちでいる。


 そう、こちら側だって今夜はしっかりと準備をしてきたのだ。

 二人の密会という体裁を取りながら、ルークも交えて作戦会議を開き、犯人と対峙するのに最適な場所など、さまざまな策を練ってきた。


 リリアーナは、昨夜の会議が始まる前の出来事を、一瞬思い出した。

 レオンハルトに声をかけられ、二人きりになった時のことだ。

 突然、胸元のサファイアのブローチを外して、レオンハルトはリリアーナへ渡したのだ。


「これを使え」

 リリアーナは驚く。

「えっ? これは殿下の大切なブローチなのでは?」


 レオンハルトは淡々と言う。

「今は君の方がこのサファイアが必要だ。そうだろう?」

 レオンハルトの表情からは何も読み取れなかったが、きっと心配してくれているのだろう。


「殿下の大切なサファイアのブローチ、しばらくお借りいたします」

 そう微笑みながら、リリアーナは素直にサファイアを受け取った。


 リリアーナは、昨夜のことを思い出し、今隠し持っているサファイアのブローチを手の感触で確認する。


(きっと大丈夫。私はできる!)


 ブローチのありかを確認したその直後――

 茂みの奥から笑い声が聞こえてきた。


「ハハハッ!……なるほど」

「最初から、私を待っていたのか」

 口元を歪めた黒いローブの人物が姿を現した。

 顔はまだよく見えない。


 レオンハルトは剣を構えたまま一歩下がり、リリアーナに言う。

「ここから先は、君の仕事だ」


 反対に、リリアーナは一歩前へ出る。

「はい!」


 レオンハルトは剣を納めず、敵へ向けたまま構えていた。

 リリアーナに何かあれば、すぐ助けることのできる位置にいてくれている。


 リリアーナにとって、それがどれだけ心強いことか……

(レオンハルト殿下には、あとできちんとお礼を伝えなきゃ)


 リリアーナは、犯人をゆっくり見据える。

「あなたが、先日のパーティーで、ご令嬢を毒矢で狙った花文字師ですね」

 犯人が口元に薄ら笑みを浮かべる。

「ほう。そこまで分かるとは」


 そして、黒い影は――右手で陰の花文字を発動させる。


 暗闇の中、敵が書いている花文字は見えにくい。

 敵は、戦い慣れた花文字師だ。 きっと、これまで何度も空中に花文字を書いてきたのだろう。右手を滑らかに動かし、迷いなく文字を描いていく。


 敵は目を閉じて、花文字をイメージしながら描いている。


 リリアーナは目を凝らして、その一文字を読む。


 一文字を確認しながら、同時に相手が使用する石は何かを確認する。


 リリアーナは花文字を読み取り、ハッとした。

(この花文字は『傷』……! いったい、どんな攻撃を仕掛けてくるの?)


 敵は、漆黒の闇に紛れて、隠し持っていたブラックスピネルを取り出し、石を両手で包み込み、瞬時に花文字のエネルギーを転写した。


(ブラックスピネルは、ブラックダイヤに匹敵する耐久性を持つ石。本来は、負のエネルギーや邪気を払う強力な守護石として使われる。でも、今は陰のエネルギーを転写している……! 負のエネルギーを増幅させ、石が持つ『目標達成』の力を攻撃に利用するんだわ!)


 どうやら、敵の目標達成とはリリアーナを傷つけることだ。


 周囲の空気が徐々に冷えていく。

 その不穏な気配が、リリアーナの肌にもひりひりと伝わってきた。

 敵が空中に花文字を書き終えると、黒い文字が不気味に浮かび上がった。

 そして、短く唱える。


「陰花文字――『傷』」

 すると、石から黒いエネルギーが放出された。

 元々漆黒の輝きを持つブラックスピネルだが、そのエネルギーは殺気を放ち、矢にまとわりついている。


 その瞬間――

 本物の矢は毒だけでなく、傷を広げ、蝕んでいく呪いまで帯びた。


 リリアーナも、陰の攻撃に対抗するために、

 レオンハルトから借りたサファイアを握る。

 目を閉じ小さく息を吸う。

 そして静かに言う。


「花文字は……人を傷つけるための道具ではありません」

 一呼吸して、神経を集中させる。


 リリアーナは、まるで踊るように、優雅な手つきで空中に文字を描いた。

 一瞬で花文字をイメージして、モチーフを思い描く。


 亀や鳳凰のモチーフは守護。花のモチーフは浄化……

 様々なモチーフを組み合わせていく。


「陽花文字――『守』」

 すると、サファイアが青く真っ直ぐな光を放ち輝き出す。

 強い光はやがて淡い光へと変わり、じわじわと広がっていく。


 温かさを感じるくらいまばゆい光が辺り一面を照らし出す。

 そして、その拡大した光は、光の結界となってリリアーナたち皆を包み込んだ。


「ははっ、そんな光など、負のエネルギーを強化したこの矢なら貫通するぞ」


「さあ矢よ、貫け!」

 黒い影が花文字のエネルギーを矢に乗せて放つと、本物の矢に続き、黒い花文字も無数の矢となって光の結界へ一斉に飛んできた。


(――来たわ!結界を強化しなければ……)


「光よ、守って!」

 黒い矢が光の結界に触れるたび、まばゆい光に包まれ、浄化されて還っていく。


「……馬鹿な」

「俺の『傷』のエネルギーが消えていく?」

「違います」


 リリアーナは、敵をまっすぐ見据えて答える。

「消したのではありません」

「あなたの憎しみや悲しさから生まれた傷を浄化しただけです」


 少し驚いたように影が呟く。

「ほう、これが陽の花文字の力か。聞いていた以上に素晴らしい! だが……守りの花文字だけで防げるのか?」

 リリアーナに、不気味な笑みを向けてくる。


 敵は知っているのだ。

 リリアーナが王立花文字師の資格を持ちながら、これまで一度も花文字を戦闘に使ったことがないと。


 リリアーナはこれまで、紙に花文字を描くこと、そして花文字を石へ転写することで、人々の幸せを願ってきたのだ。


 けれど――

 今は、戦いの最中だ。

 相手と同じ速度で、花文字を書かなければ、相手に圧倒されてしまう。


 この囮作戦を計画してから、リリアーナは直接空中に花文字を描く練習を重ねてきた。

 だが、実戦では、花文字を瞬時に描くだけでなく、石へのエネルギー転写も素早く行わなければならない。

 リリアーナには実戦経験が圧倒的に足りなかった。


(このままでは……敵の花文字師に押されてしまう)

 浄化しても、敵の攻撃は途切れることなく押し寄せてきた。

(やはり、相手の経験値が全く違うわ。負のエネルギーも強い)


 ビキッ――!!

 リリアーナが張った結界に、少しずつひびが入っていく。


 サファイアの光も次第に弱まり、手の中で石が震え始める。

(まずいわ、このままだと私の結界でみんなを守りきれない!)


 リリアーナは、額から流れ落ちる汗を拭う暇もなく、戦いに身を投じていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
花文字師同士の戦いを見事に! 陽を上手に使ってるリリアーナ素敵です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。