↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石に宿る想い〜花文字師で王子の婚約者候補ですが、この国を救います〜  作者: 原石 結花
サファイア――真実を見抜く石――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/14

10 真実を見抜く光

 リリアーナが張った光の結界に、少しずつ亀裂が走り始めた。


 剣を抜いたまま、レオンハルトは冷静に戦況を見極める。


 このままでは結界は破られ、リリアーナだけでなく、この場にいる全員が傷を負う。

 それは誰の目にも明らかだった。


 ルークは思わず剣の柄を握り締める。

「殿下!」

「……まだだ」


 レオンハルトの視線は、リリアーナだけを見つめていた。

「まだ終わっていない。……もう少し待つ」


 リリアーナは、亀裂が入り始めた結界の中で、自分が握っているサファイアにふと目を落とした。

(……違う。私は守るだけじゃない。サファイアは真実を見抜く石だ。サファイアが犯人に刻まれた陰の花文字を見抜いたように、私もこの石を使って、相手の重いエネルギーの正体を見抜けばいい!)


 リリアーナは目を閉じ、サファイアに集中させた。

 花文字をじっくり描いている時間はない。


 頭の中に花文字を鮮明に思い描き、そのイメージを空中に貼り付けるように描き出す。

「陽花文字――『真』。光よ、真実を見抜いて!」


 その瞬間、敵の過去と、隠されていた情報が一気にリリアーナの頭の中へ流れ込んできた。

 まるで、他人の半生を覗き見ているようだった。決して気持ちのいいものではない。

 あまりの情報量に、リリアーナは軽い眩暈を覚えた。


 体感では一時間ほどに思えたが、実際にはほんの数秒の出来事だったのだろう。

 ようやく、リリアーナは敵の弱点にたどり着いた。


 光が弾ける。サファイアが淡く震える。

 

 そして、映像がどんどん流れ込む。

 血の匂い、燃える鉱山、倒れていく人々――

 泣き叫ぶ少年。そして、黒い石を差し出す手が見える。

『苦しいなら、これを持て』

『もう何も考えなくていい』


「……っ!」

 リリアーナは息を呑んだ。

(違う。この目の前にいる敵は、最初から悪人じゃない)


「あなたの悲しい負のエネルギーの正体は、過去の出来事だったのね」

「!!」

 黒い影が明らかに動揺しているのが分かった。


 リリアーナは、その瞬間を見逃さなかった。

「陽花文字――『癒』。光よ、この人を癒して!」


 結界をさらに広げ、敵対していた相手ごと、光で優しく包み込んだ。


 光に包み込まれた男が、目を閉じて呟いた。

「……これは私の記憶だ!」


 男は、ノクティス帝国の人間だった。

 ノクティス帝国の希少鉱山の利権争いで、尊敬する兄や家族を失った。

 その喪失感で心が壊れ、毎日眠れず、自分を責め続けていたのだ。

 そんな彼に、ある人物が声をかけた。そして、渡されたのが陰の花文字が刻まれたブラックスピネルだった。


『これを持っていれば苦しみは薄れる。何も考えなくていい』

『私が命じるまま動けばいい』

 それから後のことは、男には全く記憶にない。一種の洗脳状態だったのだろう。

 命令を受けるまま、陰の花文字まで使うようになっていた。


 陽の花文字の柔らかく温かな光が全身を包み込み、男を浄化していく。その瞬間、男が持っていたブラックスピネルが、パリンッと音を立てて二つに割れた。

 同時に、男の中で封じられていた記憶がよみがえり、彼は我に返った。


 その場に座り込む男。

 先ほどとは打って変わり、弱々しく、まるで別人のようだった。

 ローブが外れ、その顔があらわになる。見たところ、二十代前半の若い青年だった。


「私は一体、何を……」

 自分の手を見る。黒く滲んだ手。完全に割れた石。

 記憶が一気に戻ってくる。


「違う……」

「私はこんなことを望んではいなかった!」

「違う……!!」

 黒い影の正体だった男は、そう叫び、泣き崩れた。


 その様子を見ていたリリアーナは、ゆっくりと男に近づいた。

 何も言わなくても、レオンハルトはリリアーナのすぐそばに立つ。男を警戒するレオンハルトの目は、依然として鋭いままだった。


 リリアーナは男の過去を見てしまっている。

 だから責めることなどできなかった。

 家族を一度に失ってどんなに辛かったのだろう、リリアーナも胸が締め付けられる思いだった。


 言葉を選んで、リリアーナは男に静かに声をかけた。

「あなたはずっと、苦しかったのですね…」


 男の頬を涙が伝った。

「誰も……そう言ってくれなかった」


 レオンハルトは冷たい声で男に尋ねた。

「お前はどうして陰の花文字を使った? 婚約者候補を狙ったのは誰の指示だ?」


 男は弱々しくも、しっかりと答える。

「それが私にも分からない……。苦しんでいた時に、石を渡してきた人物が確かにいる。でも、それが誰なのか、顔も性別も年齢も全く思い出せないんだ。どうしてだろう? きっと、つい最近も会って話をしているはずなのに。私自身も花文字師だったけれど、陰の花文字は長い間使っていなかった。どうして、自分がこんなにも陰の花文字を使えるのか、それも分からない。思い出そうとすると頭痛がするんだ。本当なんだ! 信じてくれ……」


 レオンハルトは男の顔を見つめる。

 そして、嘘はついていない様だと判断した。

「ルーク。この者は誰かに利用された可能性が高い。記憶も封じられて洗脳状態だったようだ。まずは監視下で保護し、心身の治療を優先する。事情聴取はその後だ」


「殿下!? このような大事件です。そのような甘い措置でいいのですか?」

「まずは心身の治療が先だ。尋問はその後でも遅くないだろう。もっとも記憶を封じられているこの男から得られる情報は少ないだろうが」


 衛兵に連れて行かれる時、不意に男がリリアーナの方を振り返った。

「あなたの花文字は、私のように争いで人を倒すためにあるのとは違う。戦いながらも救いの手を差し伸べるような……まるで人を救う花文字だと思ったよ」


 リリアーナは優しく微笑んで言う。

「花文字は、人の幸せを願うものです。きっとあなたもまた、素敵な花文字師になれます。私は真実を見抜く力がありますから」


「私は……あの時からずっと止まったままだった。花文字の良さを、久しぶりに思い出したよ。ありがとう」

 今度こそ、男は衛兵に連れられてその場を後にした。


 リリアーナは、最後まで男を見送った。

 そして男にも幸せがある様にと、心の中でそっと祈りを捧げた。


 男を見送った後――

 リリアーナは急に体の力が抜ける感覚がした。


 初めての花文字での戦闘に加え、連日の寝不足も重なったのだろう。

 暗殺未遂事件が起きてから今日まで、熟睡できない日々が続いていたのだ。


(もう終わったのだから、少しは安心してもいいのかしら。あ〜、ここはまだ外なのに、眠くて立っていられないわ……)

 リリアーナの記憶は、ここでぷつりと途切れた。


 意識を失う寸前、誰かに名前を呼ばれた気がした。

 そして、しっかりと抱き止められた優しい温もりも感じた。


 けれど、それが誰の温もりだったのか、リリアーナには知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。