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石に宿る想い〜花文字師で王子の婚約者候補ですが、この国を救います〜  作者: 原石 結花
オニキス――信念を貫く石――

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19/22

19 敵の再襲来

 王宮侍女のミリアの事情聴取から三日後――。


 日が沈んだ頃、王宮の結界に微かな揺らぎが生じた。


 結界を監視していたエリオットが、はっと顔を上げる。

「……来た!」


 同じ頃、セシルも花文字の護符が黒く変色していることに気づいた。

 そしてリリアーナも、管理している王族の石が淡く震えるのを感じ取った。


 三人の王宮直属花文字師は、それぞれが異なる方法で敵の侵入を察知していた。

 そして、三人は急いでレオンハルトのもとへ向かった。


 執務室に入ると、レオンハルトもすでに異変を察知していたのか、すぐさまルークに指示を出した。


「王宮内の警鐘をすべて鳴らせ!」

「はい!」

 ルークが駆け出した。


 ほどなくして重臣たちや近衛騎士団長も集まり、王宮内は一気に緊迫した空気に包まれた。


 今回の事件は、国王エドモンドの指示により、レオンハルトが指揮を執ることになっていた。前回の暗殺未遂事件との関連が疑われるため、レオンハルトが指揮を執るのが適任だと判断されたのだ。


 しばらくすると、レオンハルトのもとに、敵の情報が入ってきた。

 レオンハルトは、集まった者たちを見渡して話し始めた。

「敵を目撃した者の情報によると、侵入者は二名。おそらく前回と同じ組み合わせで、一人は花文字師、もう一人は剣を扱える戦闘員だろう」


 そして、すぐに指示を出す。

「俺とルーク、それから数名の騎士で剣士を迎え撃つ。王宮直属花文字師の三人は、もう一人の陰の花文字師を追ってくれ。ただし、無茶はするな。近衛騎士団長、三人の護衛を頼む」


「承知しました!」

 近衛騎士団長が頷く。


 こうして、リリアーナたちは近衛騎士団長とともに陰花文字師を追うことになった。

 一方、レオンハルトとルークは、二人の護衛騎士を伴い、剣士を追うために二手に分かれた。


◇◇◇


 先に敵を見つけたのは、陰花文字師を追うリリアーナたちだった。

 庭園付近を走る人影を発見する。

 敵は逃げながら、黒い石に陰花文字のエネルギーを転写していた。


(立ち止まって集中して詠唱しなくても、石にエネルギーを転写できるなんて……さすがだわ)


 リリアーナは、相手の花文字師としての能力が自分よりも高いことを感じ取った。

(でも、私にもできることはある。王宮直属花文字師としての役割を、今ここで立派に果たしたい!)


 リリアーナは、前回の暗殺未遂事件以降、瞬時に陽花文字を発動できるよう訓練を重ねてきた。エリオットとセシルも、日頃から指導してくれている。

 その成果を、今こそ発揮するときだった。


 リリアーナたちが敵を追っていると、相手は突然足を止め、こちらを振り返った。

 そして、口元をニタリと歪ませる。

「陰花文字――『消』」

 敵は瞬時に花文字を発動させた。


 こちらに向けるのかと思いきや、花文字の力は自分自身へと向けられた。

「もしかして、姿を隠そうとしているのでは!?」


 リリアーナが叫ぶと、エリオットが答えた。

「おそらくそうだろう。姿が見えなければ、捕まえられないと踏んでいるんだ」


 次の瞬間――

 敵の姿がすっと消えた。

(本当に見えなくなってしまったわ! これでは追うことも、捕まえることもできない……)


 リリアーナも、もちろんエリオットもセシルも、敵の姿を見つけられなかった。


 エリオットは周囲を見渡し、すぐに次の策を考える。

 そして、右手を動かし始めた。

「陽花文字――『封』!」

 エリオットが花文字を発動させる。


 次の瞬間、周囲に強いエネルギーが広がった。敵を閉じ込めるように、半径百メートルほどの範囲が巨大な結界で封鎖されたのだ。


 これで、敵は外へ逃げられない。

 しかし、逃げ道を塞いだだけでは不十分だ。姿の見えない敵を見つけなければ、捕獲することはできない。


 リリアーナも必死に考える。

(まずは、敵がどこにいるのか分かるようにしなければ……)


 前回の暗殺未遂事件での戦いを思い返し、何か応用できる方法はないかと探る。

(姿が見えないだけで、本当に消えたわけじゃない。石なら……)


 リリアーナはオニキスを握りしめた。

(石は光を受ければ、反射する。それなら、石を並べれば、石が光を反射して辺りを明るくすることができるのでは? ならば……光を利用すれば、敵の姿を影として浮かび上がらせることができるかもしれない!)


 リリアーナは、ひとつの考えがひらめいた。

 すぐにエリオットに確認する。


「エリオット様。この結界の範囲は、どれくらいですか?」

「おそらく半径百メートル以内だ。どんなに足が速くても、結界を発動してから外へ逃げきるのは難しいだろう。リリアーナ嬢、何か思いついたのか?」


「はい! 時間がないので、詳しい説明はあとにします。エリオット様、結界の端に沿って、石を等間隔に並べていただきたいのです。できれば十メートルから二十メートル間隔で。並べる石の種類は問いません! もし石が足りなければ、もう少し間隔を広げても構いません」


 エリオットはリリアーナの顔をちらりと見た。

 そして、少し微笑む。

「分かった。理由はあとで聞こう。今はリリアーナ嬢を信じる。近衛騎士団長、石の設置を手伝っていただけないか?」


「分かった。手伝おう」

 エリオットは近衛騎士団長を連れ、石を設置するために走り出した。


 その様子を見送りながら、セシルがリリアーナに告げる。

「もし石へのエネルギーが足りなくなったら、私が援護するよ。安心して、自分の考えた方法を試してみて」


 リリアーナは、セシルの言葉に安堵した。

「ありがとうございます。お願いします!」


 エリオットたちが準備をしている間も、リリアーナは敵の気配を探ろうとした。しかし、姿はおろか、位置さえもはっきりとは分からない。


 セシルは、いつでも援護できるようリリアーナのそばで待機していた。

 やがて、エリオットたちが戻ってくる。


「リリアーナ嬢、準備はできた。石は二十メートルごとに、おおむね等間隔に置いてある」

「ありがとうございます!」


 リリアーナは配置された石を確認し、二人に向き直った。

「では、今から石に花文字のエネルギーを転写します。オニキスに込めた光のエネルギーを周囲の石へと伝え、光を連鎖させて広げます。それぞれの石から放たれる光によって、敵の姿を影として浮かび上がらせることができれば、捕まえられるはずです」


 エリオットは力強く頷いた。

「少しでも姿を捉えられれば、捕まえられる可能性は高い。いや、必ず捕まえる」

 リリアーナは微笑んだ。


「では、始めます」

 彼女は空中に花文字を描き始めた。


 エリオットとセシルは、その動きをじっと見つめている。

 描き終えると、リリアーナは目を閉じ、意識を集中させた。


「陽花文字――『光』!」

「光よ、輝け!」


 リリアーナは、袋に入っていた黒い石を取り出した。

 それは、オニキスだった。


(宝物庫の奥深くに眠っていたオニキスを見つけて、レオンハルト殿下が貸し出してもいいとおっしゃってくれて、本当によかったわ。おかげで、貸して頂いたオニキスを今、役立てることができる!)


 オニキスは光を透過しない。そのため、表面で光を反射させることができる。

 リリアーナは花文字の力を使い、オニキスに光のエネルギーを込めた。

 オニキスが、静かに光を放ち始める。表面で反射した光が、周囲に配置されたサファイアやアメジストなどの石へと広がり、石たちは次々と輝きを帯びていった。


 やがて、三十個ほどの石が呼応するように光を放ち、あたり一帯が次第にぼんやりと白く明るくなっていった。

 昼間のような明るさには及ばないものの、数メートル先まで見通せるほどの光が広がった。


 突然、エリオットが叫んだ。

「影が見えるぞ! 敵の影か!?」

 エリオットが指さした方向へ、一同が視線を向ける。


 そこには、何者かが走り抜ける影が浮かび上がっていた。

「いたわ!」


 リリアーナたちは、すぐさまその影を追った。

 エリオットの結界によって敵は外へは逃げられない。少しずつ、敵との距離が縮まっていく。


 しかし、光のエネルギーが消耗したのか、あたりを照らす光は次第に弱くなり始めた。


 そのとき、セシルが花文字を発動させる。

「陽花文字――『循』!」

 セシルは、光が弱まり始めた石へ花文字のエネルギーを補強し、循環させた。

 すると、石たちが放った光は再び強くなり、あたりに明るさが戻った。


 さらに敵との距離が縮まっていく。


 そしてついに――

 敵は逃げ場を失った。


「さあ、観念してもらおうか」

 エリオットが敵に告げる。


 それでもなお逃げようとする敵に向けて、リリアーナは最後の花文字を発動させた。

 オニキスを左の手のひらに乗せ、敵へと向ける。


 そして、右手でさらさらと花文字を描き出した。

「陽花文字――『眩』。光よ、放て!」

 眩しいほどの光が、敵の目の前で弾けた。


 敵はその光に耐えきれず、目を覆ってしゃがみ込む。

 その隙を逃さず、エリオットと近衛騎士団長が駆け寄り、敵の身柄を確保した。


「捕縛成功!」

 騎士団長の大きな声が響く。


 リリアーナは、ほっと息を吐いた。

(怪我をする人もいなかったし、無事に捕まえられてよかったわ……)


 しかし、一息ついたのも束の間だった。

 一人の騎士が、慌ただしく駆け込んでくる。


「伝令です!」

 騎士は息を整える間もなく、告げた。


「レオンハルト殿下が、剣士と交戦中です!」

 リリアーナの表情が一瞬で変わった。


 そして、エリオットを見て、リリアーナは早口で告げる。

「私、レオンハルト殿下の援護に行きます!」


 その焦りようは、エリオットにも伝わったようだった。

「ああ、俺も行こう。セシルも一緒に来てくれ。近衛騎士団長、ここは任せてもいいか?」

「はい。捕らえた敵は地下牢へ連行します!」


 リリアーナたちは、息つく暇もなくレオンハルトのもとへと急いだ。



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