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石に宿る想い〜花文字師で王子の婚約者候補ですが、この国を救います〜  作者: 原石 結花
オニキス――信念を貫く石――

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18/22

18 敵の協力者の正体

 エリオットは、王宮直属花文字師三人の調査結果を、簡潔にレオンハルトへ伝えた。

 報告を聞き終えたレオンハルトは、すぐに状況を理解した。


「その調査結果なら、ほぼ間違いないだろう。エリオットが、結界は王宮の外から破られていなかったと言ったのは、王宮職員が侵入者を招き入れていたからだと考えられる」


 リリアーナは思わず質問した。


「では、今回は王宮職員がスパイだったということですか?」

「いや、まだそこまでは断言できない。今、疑わしい職員の身柄を確保しているところだ」


 レオンハルトは続けた。

「それよりも、侵入者は陰の花文字師と、剣を扱える戦闘員の二人組だったということだな」


 エリオットが答える。

「はい、殿下。現時点では、その可能性が高いと考えています。これは憶測ですが、二人は協力して動いていたのかもしれません」

「そうか」


 しばらくすると、慌ただしくルークが入ってきた。

「殿下、疑わしい職員の身柄を拘束しました。こちらへお連れしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 そして、連れてこられたのは、王宮管理部に所属する侍女だった。

 名前はミリアという。


 レオンハルトは、ミリアに視線を向けた。

「君が侵入者を手引きしたことは、すでに分かっている。侵入者はどのような人物だったのか、何人を手引きしたのか、そして何が目的だったのか。そのほか、知っていることがあれば話してほしい」


 怒るでもなく、淡々と話すレオンハルト。その落ち着き払った態度に、ミリアはかえって恐怖を感じた。

 まだ若いミリアは、今にも泣き出しそうな顔で答えた。


「私は何も知りません! ただ、普通に仕事をしていた記憶しかないんです! 手引きしたと言われても、何のことかさっぱり分かりません。私は本当に真面目に働いています。病気の弟のために、そんな危険を冒したりしません! それに……思い出そうとすると、頭が痛くなるんです。普通に働いていた記憶しかないのに……」


 顔色は真っ青で、唇からも血の気が失せていた。寒くもないのに、ミリアはぶるりと身を震わせる。

 事情も分からないまま、この場に連れてこられたことが、その様子から一目で伝わってきた。


 ミリアの表情は、本当に何も知らない人のものだとリリアーナは感じた。


 リリアーナは、ミリアが部屋に入ってきたときから、制服の胸ポケットに差してあるペンに埋め込まれた、小さな石が気になっていた。そこで、ミリアに声をかけた。


「ミリアさん、あなたのペンを貸してくださらない?」

「え? はい、どうぞ」


 こんな状況で突然ペンを貸してほしいと言われ、戸惑うミリア。それでも、言われたとおり制服に入っていたペンを差し出した。


 ペンには、小さな石が埋め込まれていた。

(これは……ブラックスピネル。暗殺未遂事件の実行犯が持っていた石と同じだわ)


 リリアーナはそっと目を閉じた。

 ――石は、人の想いを記憶する。

 その言葉を胸に、ペンに触れながら意識を集中させる。


 すると、黒いもやのような気配が、石の中からゆっくりと立ち上った。

 幾重にも絡みつく、黒い花文字。

 まるで誰かの記憶そのものを封じ込めるかのように、じっとりとまとわりつく気配が感じられた。


 リリアーナはゆっくりと目を開け、呟いた。

「……殿下。この石はブラックスピネルです。そして……陰の花文字の痕跡があります」


 そして、レオンハルトに向き直る。


「ミリアさんは、誰かに利用されたのだと思います。何らかの方法で操られていたため、本当に記憶がないのでしょう。石に残された記憶を封じたり、痕跡を消したりするのと同じように、人の記憶にも封印を施す技が使われているのだと思います」


「ならば、その前提で考える」

 レオンハルトはそう告げると、再びミリアに質問した。


「そのペンは誰にもらった? 覚えているか?」

 ミリアは記憶をたどりながら、ゆっくりと話し始めた。


「……ここ最近、弟の病気のことで、不安に押しつぶされそうになっていました。ある日、仕事が終わって家路を急いでいたときに、誰かとぶつかって……。その方は、とても親切そうな人でした。落として壊れてしまったペンの代わりにと、このペンをくださったんです」


 ミリアはペンを見つめた。

「きっと君の心を救ってくれるだろう、って……。今思えば、そこから私の記憶が、ときどき曖昧になることがあった気がします」


 そう言って、ミリアはハッと顔を上げた。

「――もしかして、私、とても大変なことをしてしまったのでしょうか?」

 怯えた表情でレオンハルトを見つめる。


 ミリアの心情を思うと、リリアーナは居たたまれなくなった。

「まだ、誰かが傷つけられたわけではないわ。それよりも、あなたがあなた自身を取り戻せてよかった」

 リリアーナはミリアに優しく微笑み、言葉を続けた。


「このペンは、私が預からせていただいてもいいかしら? それと……」

 そう言って、リリアーナは自分のポケットに入っていたパールの石をミリアに差し出した。


「パールには『健康』や『長寿』という意味があるの。弟さんの病気が回復するように、ささやかだけれど祈りを込めているわ。あなたも、不安に押しつぶされないで前を向いてね。あなたの笑顔が、きっと弟さんの心の支えになるわ」


 ミリアはリリアーナの言葉を聞くと、張り詰めていた糸が切れたように、大粒の涙をぼろぼろと流し始めた。


 レオンハルトは一人、思案していた。

(やはり、記憶がない。思い出そうとすると頭痛がする。そして、石が関係している……。前回の婚約者候補暗殺未遂事件とも、関わりがあると考えるべきだろう)


 レオンハルトは、その場にいる全員に聞こえるように告げた。

「彼女は利用されたようだ。だが、他に協力者がいる可能性もある。この件は、引き続き調査する」

「はい!」


 さらにレオンハルトは言葉を続けた。

「敵は一歩先を進んでいる。こちらも対応を急がねばならない」

 その声に、全員の気が引き締まった。


「警備を二倍に増やします」

 ルークはそう告げると、すぐに部屋を退出した。


 そして、リリアーナたちも、それぞれの持ち場へ戻り、再び動き始めるのだった。


◇◇◇


 王都の外れにある地下通路。

 黒いローブをまとった男が、小さく笑った。

「だから言っただろう。彼らは優秀だ。そして、やはり面白い。だからこそ、計画を急がねばならんのだ」






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