【第6章】過去を決めるのは未来
【第6章】過去を決めるのは未来
「すみませんでした……この男は、俺のせいで」
俺は、自分のせいでパトリックさん達を命の危険に晒してしまったことを猛烈に後悔していた。
もし、あの時俺がしくじっていたら。
今頃、パトリックさん達は——。
そう考えると、申し訳なさで胸が締め付けられた。
しかし、パトリックさんはいつものように俺の肩をポンポンと叩き、優しく微笑んだ。
「いや、一心さんは良いことをしたんだから、何も気にすることはない」
「悪いのは、全てあの男だ」
「それに……」
そう言うと、パトリックさんは魔筆箱へ視線を向けた。
「ようやく、あの道具の真の使い道も見られた」
「何百年か……それより、もっとか。ずっと、あそこで眠っていたからなぁ」
パトリックさんは魔筆箱を見つめたまま、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと俺へ振り返る。
「一心さんや……もし良ければ、この箱を貰ってくれんか」
座っていたパトリックさんはゆっくりと立ち上がり、両手で包むように魔筆箱を持った。
「たぶん、この道具達は、お前さんみたいなお方が使うべきだと思う」
そう言ったパトリックさんの顔には、何の曇りもなかった。
しかし、これはパトリックさんの家に代々受け継がれてきた家宝だ。
つい最近知り合った、どこの誰とも分からない俺が、簡単に貰っていいはずの物ではない。
「でも……」
俺が何を言おうとしているのか分かっているかのように、パトリックさんは半ば強引に箱を俺へ手渡した。
「一心さんなら、きっとこれを世のため、人のために使うことが出来る」
そんなこと、あるはずがない。
俺は、何者でもないんだ。
「いや……誤解です」
口から、言葉が次々と溢れてきた。
「俺は何の才能もなくて……絵も下手くそで……社会不適合者で……怠け者で……クズで……ただのおじさんで……それで……」
もう、何を言っているのか自分でも分からなかった。
自分自身の情けなさが、心の底から溢れてくる。
頬を、涙が伝った。
「……うっ」
声が詰まる。
俺は泣いていた。
ポンポン……と、パトリックさんは俺の肩を優しく叩いた。
「大丈夫だ、一心さんは大丈夫」
「過去に何があったかは知らん。そりゃあ、生きていれば後悔の一つや二つ、私にだってある」
パトリックさんは、静かに俺を見つめた。
「……だがな、一心さん」
「その後悔が、この先ずっと後悔のままであるかどうかは、まだ決まっとらんよ」
「これを使って助けた人達の笑顔が、きっとそう思える未来を作ってくれる」
「私は、そう信じている」
「もう既に、一心さんは私達を救ってくれたじゃないか」
俺は泣いた。
声を上げて、子供のように泣いた。
生まれて初めてだった。
誰かに、自分を認めてもらえた気がした。
胸の奥が、燃えるように熱かった。
嬉しかった。
心が、燃えるほどに嬉しかった。




