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Sランク冒険者が闇バイト無双  作者: ヒナツキスバル
第二章 この国の冒険者ギルド
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9/28

従者が2000人を超えているだと?

 ソウシの部屋を出たレンは、一人、東池袋の街を歩き始めた。


行き先は決めていない。

ただ、目的だけははっきりしていた。


――この地で身を立てる。

いつまでもソウシの世話になっているわけにはいかない。


食事を与えられ、寝床を借り

金貨を換金する手助けを受け

衣服を揃え、この国で生きるために必要な道具まで譲ってもらった。

そして、その使い方まで教わった。


『生きる術を教えてもらった』


そう告げた言葉に、偽りはない。

ならば、次にすべきことは、自分の力で生きることだ。

そして、いつか。

必ずソウシへ恩を返す。



レンは歩きながら、改めて周囲を見回した。

「それにしても……巨大な街だ」


どの建物も高い。大きい。

故郷の城壁など比較にならないほど空へ伸びた建造物。壁一面を透明な板で覆った塔。

文字や絵そのものが光を放つ看板。

夕方を迎え、空は少しずつ暗くなり始めているというのに、街は反対に次々と光を増していく。


昨日はソウシの後を追い、この異常な光景を理解するだけで精一杯だった。


今日は違う。一人だ。

自分で見て、自分で考え、進まなければならない。


幸い、身体の状態は昨日とは比べものにならないほど回復していた。

昨夜は安全な場所で眠ることができた。

食事も取った。

体力だけでなく、枯渇しかけていた魔力もかなり戻っている。


だが。

レンは歩きながら、周囲へ意識を伸ばした。

「……やはり、駄目か」

何も返ってこない。

魔法式を構築する際、本来なら周囲から応答するはずの環境要素。

それが、この世界では極端に乏しかった。


まったく存在しないわけではない。

だが、故郷とは比較にならないほど反応が薄い。

魔法を使うならば、その大部分を自分自身の魔力で補わなければならない。

昨日から変わらぬ異常だった。



『人前で魔法使うのもやめた方がいいからね』

ふと、昼ソウシから受けた注意を思い出す。

 

剣についても同じだ。

『一番危ないのはアンタなんだよ!』


「…………」


何故、自衛のために抜剣しただけで、あそこまで怒られたのか。完全に納得したわけではない。

しかし、この国について自分よりソウシの方が詳しいことだけは間違いない。


ならば、恩人の忠告には従うべきだ。

レンは警戒を解かぬまま、さらに歩いた。



          ◇



 やがて、目の前にひときわ巨大な建造物が現れた。


「……これは」

レンは足を止めた。


広い入口、大きなガラス扉。

その向こうには明るい空間が続き、人間が次々と吸い込まれていく。

見上げても、建物の全容が掴めない。


複数の階層に、無数の出入口。

内部には多くの人間が行き交っているらしい。


「この世界のダンジョンか……?」


少なくともわ故郷でこれほど巨大な閉鎖空間へ足を踏み入れるなら、何の準備もなく入る者はいない。


しかし周囲の人間は平然としている。

子供までいる。

敵地というわけではなさそうだ。


「ひとまず入ってみよう」


そう決めた瞬間、レンの意識は収納魔法の中に収めてある剣へ向いた。


未知の場所へ入る。

本来なら最低限、得物を手にしておきたい。

だが……


『一番危ないのはアンタなんだよ!』

またソウシの顔が浮かんだ。


「……」


レンはしばらく黙ったあと、小さく息を吐いた。

「仕方ない」


収納魔法を開く。

取り出したのは、剣ではなかった。


ヨレた透明のビニール傘。

昨日、ソウシから渡されたものだ。


レンはそれを手に取り、真剣に眺めた。

細い、軽い。どう考えても戦闘用ではない。

少し力を込めれば壊れそうですらある。


「……なんとも心許ないが」

それでも、ベルトへ差す。

「長物には変わりない。無いよりはいいだろう」


手を添え、重心を確かめる。

「随分やわな代物だが……仕方ない」


 魔王と戦ったSランク冒険者は、ヨレたビニール傘を腰へ差したまま、サンシャインシティへ足を踏み入れた。



           ◇



 内部もまた、異様だった。

どこまでも続く通路。無数の店。眩しい照明。

行き交う人々。案内表示。

ガラス越しに並べられた、用途の分からない品々。


レンは周囲を観察しながら歩く。


先ほどのドン・キホーテほどではないが、翻訳魔法を通して大量の言葉が入ってくる。

必要以上に意識を向けないことで、どうにか負担を抑える。


すると、不意に香ばしい匂いが鼻へ届いた。


「……」


足が止まる。

油、肉、焼けたパンの匂い。

赤と黄色を基調とした看板。


店の奥では、客たちがカウンターで何かを受け取り、それぞれ席へ運んでいる。


パンに肉や野菜を挟んだらしい食べ物。

細く切られ、油で揚げられた何か。


その光景を見て、レンはようやく自分が空腹であることに気づいた。


「……腹が減ったな」


そういえば、昼はソウシからスマートフォンの使い方を教わり続けていた。

食事らしい食事を取った記憶がない。


レンは店内を観察した。

どうやら、先に食事を買う。

そのあと、席で食べる。

昨日までの経験で、そこまでは推測できる。


そして、スマートフォンを取り出す。

ソウシから聞いた話を思い出した。

店によってはら自由に使える通信環境が用意されている。

画面を確認すると、確かに利用できそうな通信先が表示されていた。


「ここにするか」


レンは店へ入った。



           ◇



注文は、多少難航した。

商品名が多い。組み合わせも多い。

店員から何を尋ねられているのか分からず、何度か説明を受け直した。


それでも、昨日までとは違う。

財布はある。紙幣もある。

会計のやり方も教わった。

分からなければ、店員へ聞けばよい。

そう教えられている。


結果、レンはどうにか、ハンバーガー、ポテト、飲み物。それらを自分の金で購入することに成功した。


トレーを持って席へ着く。

包みを開く。


一口含むと、張り詰めていた神経が緩むのがわかった。


「……うまい」


柔らかなパン、肉。

味の濃いソース。

少なくとも保存食ではない。

すぐ食べるためだけに作られた、温かい食事。

この世界は、食べ物に関してはかなり恵まれているらしい。


レンは何口か食べてから、スマートフォンを取り出した。


「さて」


今日から、自分で生きなければならない。


「仕事探しがこれでできるとは、本当なのか……?」


ソウシから教えられたSNSを開く。

特技を示す。多くの人間に知ってもらう。

名声を得る。そこから仕事につながる場合がある。


レンの中では、すでにその仕組みはある程度理解できていた。

冒険者と似ている。


「ここに『投稿』すればよいのか……?」


少し考える。

冒険者ギルドへ登録した時のことを思い出した。


ランク、得意な任務、過去に経験した仕事。


護衛。討伐。捜索。

それらを書いておけば、依頼者側も仕事を任せられるか判断しやすい。


「同じ要領でよいだろう」


ただし、注意もある。


『何とか王国とか、魔王がどうとか、そういう話はあんまり外でしない方がいいよ』

ソウシとの約束だ。


なら、魔王、魔獣、アルディア王国。

そうした言葉は避ける。

レンは慎重に文字を打った。



『レン:Sランク冒険者

 任務を募集する。

 護衛、捜索、奪還、危険物の排除、

 集団戦闘等の経験あり。


 秘密は厳守する。

 まずはDMにて相談を。』


「……こんなものか」


内容を確認する。

虚偽はない。誇張もない。

秘密厳守についても、冒険者として当然のことだ。


投稿する。


これで、誰かが仕事を頼んでくる可能性がある。

レンは満足し、再びハンバーガーへ手を伸ばした。


その前に、何気なく画面を動かす。


「……」


スマホの画面に、自分がいた。

黒い鎧姿、雨の池袋、人混みの中を歩いている。


もう一度画面を動かす。

また自分。


さらに

別の動画にも自分。


「…………」


昨日撮影されたものだ。

それが、今も大量に公開されている。


「これも今後の冒険者稼業の妨げになる可能性がある」


依頼を受けるにしても、自分の姿が好き勝手に出回っているのは好ましくない。まして、自分は撮影も公開も許可した覚えがない。


「なんとかせねばならんな……」


レンは少し考えた。

方法は、一つしか思いつかない。


「仕方ない」


画面を見る。


「一件ずつ、しらみつぶしに交渉するよりないだろう」


投稿へ返信する。


『これは俺だ。

 許可した覚えはない。

 削除願いたい。』


送信。


次。


『このような投稿をされては困る。

 画像を削除してもらいたい。』


さらに次。


『本人である。

 削除をお願いしたい。』


一件、一件、律儀に。

真面目に。

レンは、自分が写っている投稿を見つけるたび、削除を依頼していった。

交渉すれば、相手も理解してくれるだろう。

少なくとも、レンはそう考えていた。


しばらくして。

ようやく区切りをつけ、スマートフォンをテーブルへ置く。

「……冷めてしまったな」


ポテトへ手を伸ばす。


その時。


ブブブ……。


「……?」


スマートフォンが震えた。

レンは一度見る。

通知が来ているようだ。

だが、その程度なら先ほどもあった。


再びポテトを取ろうとした。


ブブブブブ……。


「……なんだ?」

今度は止まらない。


ブブブ。

ブブブブ。

ブッ。


「…………」


レンは恐る恐るスマートフォンを持ち上げた。


通知。

通知。

通知。

返信。

新規フォロー。

返信。

新規フォロー。


画面に次々と数字が増えていく。


『ちょ、勇者本人降臨w』

『本人来たwww』

『削除依頼一件ずつしてんの草』

『これガチ本人?』

『アカウント本物っぽいぞ』

『勇者がSNS始めてるwww』


「……?」


レンには、何故これほど騒がれているのか分からない。

自分の画像を削除してほしいと所有者へ伝えただけだ。

だがどういうわけか、削除されるどころか

また別の場所へ転載され、自分の返信まで引用され、さらに人が集まっている。


「どういうことだ……?」


そのまま画面を見ていると、一つの数字が目に入った。

フォロワー数が二〇〇〇を超えている。


「何……?」


レンは目を見開いた。

「従者が二千人を超えているだと?」


思わず、姿勢を正した。

昨日、ソウシは確かに言っていた。

フォロワー、自分の活動を見てくれる者。

それか増えれば、名声や仕事につながると。


そしてレンの頭の中では、その単語はいまだに

自分を支持し、活動へついてくる者。

すなわち、従者に近い存在として理解されている。


「二千……」


尋常ではない。

自分には、そのような人数を抱えるだけの財力などない。

とはいえ、すでについてしまったものは仕方がない。


「こんな何もできない主人だが……」


レンは考え込む。

自分を支持してくれているのだ。

ならば、何の挨拶もしないというのは、あまりにも無礼ではないか。


「顔を見せて挨拶くらいはしないといけないかもしれんな」


そこで、レンはソウシに教えられた機能を思い出す。


「確か……こうだったな」

画面を操作する。

カメラを起動。


さらに、向きを切り替える。


「おお」


画面の中に、自分の顔が現れた。

レンは興味深くそれを眺めた。


しかし、ここからが問題だった。

レンには、鏡へ向かって表情を作る習慣などない。

自分の顔をどう見せればよいか、どの距離から撮るのか、どの角度がいいのか。

そんな知識は微塵も無かった。


「……この辺りか?」


端末を構える。


近い。

かなり近い。

真正面。

そして、無表情。


カシャ。


「これでよいか」


撮れた写真を確認する。

画面いっぱいに、至近距離からこちらを見下ろすレンの顔が写っている。


本人にとっては、顔がきちんと写っている。

それだけで十分だった。

レンは、その写真を添えて投稿した。


『冒険者としての活動に賛同してくれた諸君に感謝   する。

 まだこの国では諸君の期待に応えられる実績はないが、

 これからもより精進し、

 多くの人の役に立つと誓おう。』



「……よし」

投稿。


数秒。

ブブブブブ……。


「またか」


画面を見る。


『インカメ至近自撮りなのに顔が良すぎる』

『これは推せる』

『顔面つよ』

『無加工でこれは反則』

『なんの期待に応えるつもりなんだよwww』

『勇者SNS初心者すぎて好き』

『顔良すぎん??』



「…………」



レンは、じっと画面を見つめた。



「どうして顔についての評価ばかりなんだ……?」


眉間に皺が寄る。

「剣士としての力量を伝えるには、どうすれば……」


護衛経験、集団戦闘、危険物の排除。

きちんと記載したはずだ。


それなのに、誰も剣術について聞いてこない。


「……」


しばらく真面目に悩んだが、答えは出なかった。


 

「……そうだ」

本来の目的を思い出す。

「仕事だ」



フォロワーの件は、後で考えればいい。

レンはDMを開いた。


「……」


大量に来ている。


「これが個人依頼書か……」


どうやら、自分へ直接仕事を頼みたい人間が、これだけいるらしい。

一件ずつ確認する。


「ホスト……?」

「女性を酒席で接待する仕事?」

眉を寄せる。

「そのような職業があるのか、この国には……」

自分の求める仕事とは違う。



「メンズコンカフェキャスト……」

「これも女性を接待する類のものか」



「この二つが随分多いな……」


 何故なのかは分からない。



「写真を撮るだけの仕事……?」

撮影。モデル。コスプレ。

「剣士の仕事ではないな」


「投資……?」

読み進める。

簡単に金が増える、誰でも稼げる。

詳しい説明はリンク先。


「………」


具体的に何をするのか、よく分からない。

「内容が不明瞭なものは、やめておけとソウシが言っていたな」


覚えている。

知らない相手を簡単に信用しない。

意味の分からないものを不用意に開かない。

そして、内容のよく分からない高額な仕事へ応募するな。

レンは、その忠告を破るつもりなどなかった。


次のDMを開く。

「……」

指が止まる。


『ホワイト案件!

荷物を受け取って運搬。身分証明不要。

即日現金払い。』


「身分証明……不要」

もう一度読む。


昨日から、何度この言葉に困らされただろう。

金貨を換金しようとして断られた。

通信手段を整える際にも制限があった。


この国では、自分が誰であるのかを公の証によって示すことを何より重視するらしい。

だが、自分にはそれがない。

そして、この仕事はそれが必要ないという。


「……これは」

仕事内容も書いてある。

荷物を受け取る。指定された場所へ運ぶ。

「運搬護衛業務か」


レンは画面を見つめる。


冒険者として、荷を運ぶ仕事など何度も経験している。

商人の荷馬車、薬品、武具、貴重品。

危険な土地を通る場合には、その護衛も兼ねる。


それと大きく違うようには思えない。

報酬だけを異常に強調しているわけでもない。


仕事内容も書かれている。

なら、ソウシが警告していた。

何をするか分からない危険な仕事とは違うのではないか。


「これなら……」

レンの目が、わずかに明るくなる。

「俺にもできるかもしれんな」



           ◇



 レンは、先ほど見つけたDMをもう一度開いた。


『ホワイト案件!荷物を受け取って運搬。

身分証明不要。即日現金払い。』


「……これは、やはり運搬業務だな」


募集元を見る。

『池袋人材サービス』


「池袋人材サービスか……」


レンは少し考え、自分からメッセージを送った。


『募集を拝見した。

仕事の内容について詳しく聞きたい』


送信。

少し待つ。


数分も経たないうちに、返信が届いた。


『応募ありがとうございます!

今って池袋います?』


「……」


現在地。

レンは周囲を見る。


ここは。

先ほど確認した。


「サンシャインシティ……という場所だったな」

入力しようとする。


『サンシャイン――』

そこで、指が止まった。

ソウシの声が鮮明に蘇る。

『知らない人と連絡取る時は、本名とか、今いる場所とかを簡単に教えない』


「……そうだったな」

レンは入力しかけた文字を消した。


そして、

『池袋周辺に居る』


送信。


すぐに返事が来た。


『お、近いっすね。

今日って動けたりします?』


「すぐ……」

レンは少しだけ戸惑った。

思っていたより話が早い。

だが。


自分には、今日の予定などない。

むしろ、今晩の寝床すら決まっていない。

仕事を得るために動いているのだ。

早く依頼を受けられるなら、それに越したことはない。


『問題ない。

依頼内容によってはすぐに動ける』


送信。


『年齢いくつです?』


レンはすぐに答えた。


『二十二だ』


『体力仕事大丈夫?

荷物持ったりするけど』


「体力……」


その程度なら、問題になるはずもない。


『問題ない。

長距離の運搬、護衛の経験もある』


送る。


『護衛?(笑)』


「……?」


レンは画面を見つめた。


「何か、おかしなことを言っただろうか……」


長距離運搬には護衛が伴う。

当然の話だと思うのだが。


『まぁ、体力あるのは全然OKっす』


「なるほど」

どうやら、最低限仕事に必要な能力を確認されているらしい。


冒険者ギルドでも、依頼によっては、経験や適性を確認されることがある。それと同じなのだろう。


さらに通知が来た。


『身分証はないってことで合ってます?』


「……」


レンの指が止まった。


身分証明。

昨日から、何度も自分の行動を阻んできたもの。

最初は、爵位や家名を示す証明のようなものかと思っていた。

だが、どうやら違う。

この国では、個人が誰であるのか、それを公の機関が認めた物によって証明することをひどく重視するらしい。

何故そこまで必要なのか。

その制度までは、まだ理解できていない。

だが、持っていないものは、持っていない。


レンは正直に答えた。

『この国の身分証明は所持していない』


送信。

すると、間を置かず。


『了解!

それでも大丈夫です!』


「……!」


レンは小さく息を吐いた。

大丈夫。

その言葉に、思っていた以上に安堵した。


これまで。何かをしようとするたび、身分証がないことで拒まれてきた。

だが、この仕事ではそれがなくてもいい。


「ならば……あとは依頼内容だな」


レンは文字を打つ。


『して、仕事の内容を確認したい』


返信。


『仕事自体は難しくないっす。

荷物受け取って

指定の場所まで運ぶだけ』


「やはり、運搬業務か……」


想像していた通りだ。


『時間守れる?

あと仕事中は担当とすぐ連絡取れて、

指示守れる人がいいんだけど』


レンは即座に返した。


『依頼を受けた以上、

契約と指示には従う』


送信。

少しして

『めっちゃ真面目じゃん(笑)』


「……?」

まただ。レンは眉を寄せた。

「当たり前のことを言っているだけだが……」


正式に依頼を受けた以上、契約内容を守る。

依頼主の指示に従う。

冒険者として当然の職業倫理だ。なぜ笑われるのか。相変わらず分からない。


『細かい仕事内容は

事務所に来てもらった時説明します』


「……」


レンは、一度画面を見る手を止めた。


詳細は事務所へ来てから。

その言葉だけなら、別に珍しいことではない。

冒険者ギルドでも公開できる情報に限りがある依頼、依頼者本人から詳細を聞かなければならない仕事、守秘性の高い任務。

そうしたものは存在した。


だが。

『内容のよくわからない高額の仕事に応募したりもダメ』

ソウシの声が、また頭をよぎった。


「……」

レンは少し考える。

すぐに了承はしなかった。

「確認しておくべきだな」


『ひとつ、確認したい』


レンは考え。

最も重要なことを聞いた。


『運搬する荷物は、

法に触れるものではないだろうな?』


そして。

待つ。


「……」


今まで、ほとんど間を置かず返事が来ていた。

だが、今回は少しだけ時間が空いた。

レンは画面を見つめる。

やがて。


通知。

『違法な仕事とかじゃ

全然ないです(笑)』

『普通の荷物です』

『最初は説明聞いて、

無理そうならその時言ってくれてもいいんで』


「……なるほど」


レンは一つずつ整理した。

仕事は、荷物を受け取り、運ぶ。

荷物は法に触れるものではない。

まず説明を聞く。

条件が合わなければ辞退することもできる。


ならば、少なくとも何をするかも分からず、いきなり危険な仕事へ放り込まれるわけではない。


ソウシが注意していたものとは、違うのだろう。

レンはそう判断した。


『承知した。話を聞こう』


送信。

すぐに返信がきた。

『了解っす!』

『じゃあこれから事務所来れる?』


「……」


レンは、その文字を静かに見つめた。


自分で仕事を探した。

自分から問い合わせた。

経験を伝えた。条件を確認した。

身分証がないことも伝えた。

仕事の内容を聞いた。

違法ではないかも確認した。


その上で、依頼主から。

直接話を聞くところまで進んだ。


レンは椅子の上で背筋を伸ばした。

肩を一度、ゆっくり回す。

任務へ向かう前と同じように。


胸の奥へ、わずかな手応えが生まれていた。

この国へ来てから何も分からなかった。

何をするにも誰かの助けを借りた。

だが、これは違う。

自分で探し、自分で話し、自分で得た。


この国で、初めて。

自分の力で得た依頼だった。


この国で、初めて。

自分の力で得た依頼だった。

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