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Sランク冒険者が闇バイト無双  作者: ヒナツキスバル
第一章 池袋に堕ちた冒険者
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7/28

本当にこの世界には存在しないのだな

 買取店を出たあと、ソウシはそのままレンを池袋駅東口前のドン・キホーテへ連れていった。


換金に成功したことで、当面の生活に使える現金はできた。なら次に必要なのは、この世界で生活するための最低限の持ち物だ。


派手な看板を見上げ、レンが足を止める。

「ここは……あの英雄の名前を冠した商店か」

「ドンキね」


入口を指す。

「さっきのお金で、当面必要な着替えとか揃えるから」

「この国に合った装備を誂えるのだな。心得た」

「……まあ、そんな感じ」


二人は店内へ入った。


     ◇


 入った瞬間だった。


「う……」

隣から苦しげな声がした。

レンが額へ手を当てている。


「どうしたの?」

「うう……なんだ、ここは……」


棚を埋め尽くす無数の商品。

色も、大きさも、字体も違う値札。

棚から飛び出すように掲げられた説明書き。

特売!!

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人気商品♡


視線を少し動かすだけで、新しい言葉が次々と目へ入ってくる。

さらに頭上からは店内放送。

どこからか流れる音楽。

売り場のあちこちから響く電子音。

そして、商品や広告の隙間からこちらを見ている、面妖な鳥の絵。


レンは眉間を押さえたまま、その場に立ち尽くしていた。

「翻訳魔法が……処理できる情報量を超えているようだ……」

「え?」

「うう…放送もだ。意味のある言葉が、あまりにも多く一度に入ってくる」


昨日、池袋の繁華街を歩いたときにも頭痛はあった。

だが、ここはそれ以上だった。

目を向ける先々に文字がある。


耳へ入ってくる音にも言葉が混ざる。

翻訳魔法は、それらを律儀に意味ある情報へ置き換え続けているらしい。


レンは大きく息を吐いた。

「ソウシ、すまんが一旦、術を切らせてもらう」

「うん」

「必要なら声をかけてくれ」

「ふーん」


ソウシは深刻には受け取らなかった。

「まあ、静かにしてくれるなら、その方がいいよ」


レンが少しだけ微妙な顔をした気がしたが、翻訳魔法を解除する。

耳元へ手を添えた、その直後。

レンの表情からわずかに力が抜けた。


店内は相変わらず騒がしい。

音楽も、放送も、電子音も消えていない。

それでもレンにとっては、そのすべてから〝意味〟が消えた。

何方向からも同時に語りかけられていたような圧迫感がなくなり、ようやく呼吸がしやすくなったらしい。


ソウシはそんなレンを横目に、自分の仕事を始めた。

「えーっと……まず、金入れるものがないな」

財布を一つ手に取り、買い物カゴへ入れる。

「財布、と」


レンは黙ってその様子を見る。

言葉が通じないので、説明しても仕方がない。

ソウシはそのまま売り場を進んだ。

「下着、靴下、タオル……」

カゴへ放り込む。

「Tシャツとパンツ、ベルト、パーカー、小さめのバッグ……」


黒や濃いグレー。

派手な色は避ける。

合わせ方を考える必要もなく、本人も目立ちにくい。

選んでいるうち、自然とソウシ自身の服に近い色ばかりになっていた。


ふと、シャンプーやボディソープが並ぶ棚の前で足が止まる。

「この間の魔法あるから、シャンプーとかボディソープはいらないのか……」


昨夜、レンが使った清浄魔法を思い出す。

身体も髪も、服も装備も、まとめて綺麗になっていた。


隣の棚を見る。

「歯ブラシとかは……いるのかな」

清浄魔法で口の中までどうにかなるのかは知らない。聞こうにも今は翻訳魔法を切っている。

「まあ、とりあえず買っとくか」

歯ブラシと歯磨き粉もカゴへ入れた。


意味が分からないままこちらを見ているレンへ、ソウシは歯ブラシを持ってみせる。

歯を磨く仕草。

レンが「ああ」とでも言いたげに頷いた。


服なら、自分の胸へ当てる。

ベルトなら腰を指す。

靴下なら足元。

バッグなら肩へ掛ける仕草。


レンは首を傾げることもあったが、ソウシの動きをよく観察し、だいたいの用途は理解しているようだった。


下着や衣服については、レンの身体へ商品を当てながらサイズを確認する。

言葉は通じない。

それでも買い物は意外なほど進んだ。


魔王と戦ったという冒険者へ、ジェスチャーでパンツや歯ブラシの用途を説明している。

冷静に考えると相当に奇妙な光景だったが、ソウシにはもう突っ込む余力もなかった。


「あ」

ふとレンの足元を見て、ソウシは思い出した。

「靴もだ」


朝から貸しているソウシの靴は、レンには少し窮屈そうだった。

さすがにこれをずっと履かせるわけにはいかない。

靴売り場へ移動し、ソウシは棚を眺めた。


そこで、紐のないスリッポンタイプのスニーカーを手に取る。

靴紐の結び方から教えるのは面倒だった。

これなら履くだけでいい。

レンへ差し出す。


しかし。

「…………」

レンは受け取った靴を、なんとも言えない顔で見つめた。

「何。気に入らない?」


レンが耳元へ手を添える。

再び翻訳魔法がつながった。

「そうではないのだが……」

レンはスニーカーを裏返し、靴底を指で押した。


「ソウシ。今借りている靴もそうだが、このように薄く軽い靴では、岩場や荒野を歩くには不安がある」

「……岩場?」

「地面に鋭いものがあれば、踏み抜く可能性もある」


レンは本気だった。

「幾分、心許ない」

そして周囲の棚を見回す。

「底の厚い、革製のブーツはないのか?」

「池袋で何を踏み抜くつもりなんだよ……」


「大丈夫だって」

ソウシはため息交じりに言った。

「この国じゃ、舗装されてない荒野なんて、よっぽどの物好きじゃなきゃ行かないから」

「しかし――」


「厚くて重い靴も、ないことはないよ」

ソウシは面倒になって先回りした。

「本当に必要になったら、その時買えばいいじゃん」


「む……」

レンは手の中のスニーカーをもう一度見た。

軽い。

柔らかい。

防具として見れば、どうにも頼りない。


「そうか」

完全に納得したわけではなさそうだが、ひとまず受け入れた。

ソウシはスニーカーをカゴへ入れる。

ようやく一通り揃った。


「あとは会計だから、翻訳アプリ……」

口に出してから、一瞬止まる。

「じゃなくて、翻訳魔法つけたままにしといて」


「承知した」


           ◇


二人は一階のレジへ向かった。

その途中。ソウシの視界へ、スマートフォン関連商品の売り場が入った。


ケース。充電器。ケーブル。

そして、その中に並ぶプリペイドのSIMカード。


ソウシの足が止まる。

「……そうだ」

家の物入れに、前に使っていたスマートフォンが残っていたはずだ。

機種変更してから、使わずに放置している。

レンには身分証明書がない。

だが、これを使えば――。


「これがあれば……」

一つ手に取り、そのまま買い物カゴへ放り込んだ。

レンが横から覗き込む。

「ソウシ、それはなんだ?」

「あとで説明するから。とりあえず買っといて」

「……?」


レンには、また用途不明の物が一つ増えた。

そのまま二人は会計の列へ並んだ。

ソウシはカゴの中を見る。

とりあえず、最低限必要そうな物は揃った。


――でも。

胸の奥で、また何かがじくじくと疼き始める。

これだけ揃えたところで。

こいつは、このあと一人で池袋で生きていけるのか?


ソウシは前に並ぶ客の背中を見ながら、考えた。

だって。

今からする会計だって、一人じゃできない。

物の買い方も分からない。

紙幣の種類も分からない。

地図もまともに使えない。

スマートフォンも、まだ持っていない。

この国の常識なんて、ほとんど何も知らない。

――中途半端に手を貸すくらいなら。

――最初から、何もしなければ良かったんじゃないか。

公園で声をかけなければ。コンビニへ連れていかなければ。

家へ入れなければ。

自分が助けなければ、もっときちんとした人間がレンを見つけたかもしれない。

もっと余裕があって。もっと頭が良くて。

もっとちゃんと、こういう人間を助けられる誰かが。

自分なんかより、ずっと――。


「お次のお客様、どうぞー」


「……あ、はい!」

突然呼ばれ、ソウシは我に返った。

慌ててレジへ進む。

レンも後ろからついてくる。


カゴを置くと、店員が商品を一つずつ取り出した。

ピッ。

ピッ。

ピッ。

小さな音とともに、商品が次々と処理されていく。


レンはその手元を、ひどく真剣な顔で見つめていた。

「あのバーコードで商品を識別してんの」

ソウシが小声で説明する。

「読み取ると、登録されてる値段が出る」

「ふむ……」


レンは読み取り機と画面を交互に見る。

「俺の知る言葉では、うまく訳せない仕組みのようだ」

「まあ、そうだろうね」

「本当に魔法ではないのか……?」

「魔法言うなって!」


思わず声を抑えて注意する。

さっき買取店で約束したばかりだ。

レンは「そうだった」とでも言いたげに口を閉じた。


やがて会計金額が表示される。

「ほら。ここに金額出るから、その分のお金出して」

「うむ。これだな」

レンは頷き、換金した紙幣の入った封筒を取り出した。

そして、そのまま全部出そうとする。


「ちょ、待って待って!」

「?」

「全財産出さなくていいから」


ソウシは表示された金額を指さし、次に紙幣を見る。


「まだどの札出せばいいか分かんなかったら、店員さんに聞けばいいよ」

「店員へ?」

「金額見せて、これで足りますかって」

レンは少し考え、頷いた。

「なるほど」

教えられた通り、必要な紙幣だけを取り出す。


店員へ差し出す。金を渡し。

商品を受け取る。

たったそれだけのことだった。


それでもレンにとっては、この世界で初めて、自分で得た金を使って自分の生活用品を買った瞬間だった。


           ◇


 買い物を終えた二人は、東池袋のアパートへ戻った。


荷物を下ろすと、レンはさっそく購入した服へ着替える。

黒のフルジップパーカー。

濃いグレーのTシャツ。

黒のジーンズ。

ソウシは全身を見て、軽く頷いた。


「サイズ、ちょうど良さそうだね」

自分が選んだせいで、色合いも雰囲気も自分の服装にかなり近い。

もっと違うものを選べばよかったかとも思ったが、着てみればそれほど悪くなかった。

レンは細身ではあるが、服の上からでも分かる程度には身体が鍛えられている。姿勢もいい。


余計な装飾のないシンプルな服装が、かえって本人の顔立ちや体格を引き立てていた。


レンは腕を曲げる。肩を回す。

身体を軽く捻り、動きを確認する。

「随分、軽いな」

「そりゃ服だからね」


「肩当ても、胸当てもないのか」

「だから、誰も襲ってこないから大丈夫だって」

「冒険者稼業でやっていく以上、危険は避けられるものではない」

レンは真剣だった。


「今は手持ちが足りぬが、いずれこの世界に合ったものを揃えるとしよう」

「あぁ……はいはい」

ソウシは適当に流した。


そんなことより。

ソウシの頭は、買ってきたプリペイドSIMと、物入れの奥で眠っているはずの古いスマートフォンへ移っていた。


           ◇


 ドン・キホーテから戻ると、ソウシは机の脇に置かれた物入れを探り始めた。


使っていないケーブル。

古い説明書。何に使っていたのか忘れた小物。

それらをかき分け、奥へ手を伸ばす。


「……あった」

引っ張り出したのは、一台の少し型の古いスマートフォンだった。

傷はある。使用感もある。

だが、使えないわけではない。

充電ケーブルを探し出し、端末へ差し込む。


続けて、先ほど購入したプリペイドSIMの説明書きを開いた。

細かい文字を追いながら、開通のための作業を始める。

レンは隣からその様子を眺めていた。


「ソウシ。それは?」

「これ?」

ソウシは古いスマートフォンを軽く持ち上げる。

「機種変する前に使ってたスマホ」

「以前のものか」

「そう。今日買ったSIMカード入れれば使えるようになるから、これ使えば」


レンが目を見開いた。

「その道具を?」

「ああ」

「俺が?」

「そうだけど」


先ほどソウシは、スマートフォンがこの国では生活に欠かせないと説明したばかりだ。

レンからすれば、そんな重要な道具を渡されるとは思っていなかったのだろう。


「今からざっくりだけど、使い方教えるから」

レンは少しの間、古い端末を見つめたあと、真面目に頷いた。


           ◇


 一通り開通作業を済ませる。

ソウシは充電ケーブルを指した。

「まず、これは電気で動いてて、充電が必要だから、こうやって充電する」

「電気……充電……?」

レンが眉を寄せる。

「翻訳不能だ」

「うーん……」


ソウシは頭を掻いた。

日本で暮らしていれば、電気というものをわざわざ説明する機会などない。

存在して当たり前すぎて、何から説明すればいいのか分からなかった。


少し考える。

「例えばさ、魔力は使ってるうちになくなるだろ?」

「ああ」

「このスマホが動くために必要な力が、電力」

ソウシは壁のコンセントへ視線を移し、そこから伸びるケーブルを指で辿った。

「それが、この壁の穴から、この線を通じて補充されるってこと」

最後にスマートフォンを指す。

「それが充電」


レンはコンセントとケーブル、スマートフォンを順番に見た。

「なるほど……」

少し考えたあと、納得したように頷く。

「魔力を補充するようなものか」

「まあ、そんな感じでいいよ」

専門的には何か違うのだろうが、理解できればいい。


ソウシはコンセントを指す。

「この穴は色んなところにあるけど、使っていいところとダメなところがあるから注意ね」

「補充できる場所でありながら、使用できぬ場合もあるのか」

「人ん家とか店のを勝手に使うなってこと」

「ああ、なるほど」


ソウシは端末をレンへ手渡す。

「で、ここのボタンを長押ししてみて」

本体の右側を指す。

レンは端末を両手で持った。

剣を握っていた手には、古い傷や硬くなった皮膚が残っている。

だが指の動きは慎重で、細かな操作を怖がっているというより、壊さないよう丁寧に扱っているようだった。


「……こうか?」

電源ボタンを押し込む。

数秒。画面が明るくなる。

ブッ、と端末が短く震えた。

「おっ!」

レンの身体がわずかに跳ねた。


魔王と戦ったという男が、手の中の小さな機械の振動に驚いている。

画面へ浮かび上がった文字や図形を、レンは目を見開いて眺めた。

「動いたぞ」

「……はは」

ソウシは思わず小さく笑った。

「原始人相手にしてる気分だ……」


「何か言ったか?」

「……何でもないよ」


           ◇


 その後。

ソウシは基本的な操作を一つずつ教えていった。

「一回軽く触るのがタップ」

レンが触れる。

「こうか」

「そう。で、指を滑らせるのがスワイプ」


画面が動く。

最初のうちは、レンも慎重だった。

必要以上にそっと画面を触ったり、指を離すタイミングを確かめたりしていた。

だが、一度やり方を見せれば、すぐに同じ動きを再現した。


文字入力も同じだった。

どこを触れば何が起きるのか。

操作と結果の関係が分かれば、次からは迷わない。

――思ってたより、全然覚えるの早いな。

ソウシは少し意外に思った。

異世界から来たから何も分からないだけで、頭が悪いわけではない。

むしろ覚えはかなりいい。


剣や魔法を扱う人間だからなのか、手先も器用だった。

これなら、つきっきりで何日も教える必要はなさそうだ。

その事実に、ソウシは内心少しだけ安心した。


「これは地図」

地図を画面へ表示する。

レンの目が、これまでよりわずかに鋭くなった。

「地図?」

「ここに『池袋駅』って入力してみて」

「こうか?」

「そう」


レンが覚えたばかりの操作で文字を入力する。

検索。画面が切り替わった。

現在地を示す印。

そして、そこから池袋駅まで続く道筋。

レンが画面へ顔を近づける。


「……これは」

「ここが今いる場所」

ソウシは画面を指した。

「で、こっちが池袋駅」

もう一方を指す。


「ここから池袋駅までの道が表示されてる」

レンは無言でルートを目で追った。


「この国には住所とか番地っていうのがあって、正式な住所を入れれば、かなり正確に指定した場所まで辿り着ける」

「そこまで細かく指定できるのか」

「うん。もちろん、『池袋駅』みたいなざっくりした名前でもいける」


レンは再び画面へ視線を落とした。

「現在地まで把握した上で、目的地への道を即座に示すのか……」

感心したように呟く。

「随分と優秀な地図だな」

「まあ、これさえあれば道に迷うことはかなり減るよ」

レンの反応は、電源を入れたときよりも明らかに大きかった。

冒険者にとって、地図は単なる便利な道具ではないのだろう。


現在地。目的地。そこへ至る道。

それを正確に知れることが、どれほど価値のあるものなのか。

レンの食い入るような目を見ていると、ソウシにもなんとなく分かった。


これなら、自分がいちいち駅まで案内しなくても済む。

ソウシにとってもありがたい機能だった。


「次は検索ね」

検索画面を開く。

「ここに、調べたいワードを入力する」

「調べたいものを?」

「そう」

ソウシは画面を指す。


「知りたいことがあったら、とりあえずここで探せば色々出てくるから」

「なるほど。やってみよう」

レンは頷いた。


覚えたばかりの操作で、ゆっくりと言葉を入力していく。

ソウシは何を書くのだろうと、何気なく画面を見ていた。


そして、表示された文字に、息を止めた。


『アルディア王国』


「…………あ」


レンが顔を上げる。

「これでよいのだな?」

ソウシは一瞬、返事ができなかった。

レンの顔を見る。

そこに強い期待が浮かんでいるわけではない。


ただ、「知りたいものを調べられる」と教わったから、自分が最も知りたいものを入力した。それだけなのだろう。

だからこそ、止められなかった。


「……うん」

レンが検索する。

画面が切り替わる。

二人とも黙って、その結果を見る。


似た名前。同じ名前。だが、違う。

表示されるのは、レンが知る国ではなかった。


小説。創作物。架空の世界。

そこに登場する、実在しない王国。


レンは指を動かさなかった。

画面をスクロールすることもなく、ただ最初に表示された検索結果を静かに見つめている。


ソウシは何も言えなかった。

これなら世界中の情報を探せる。

ほんの少し前、自分はそんなつもりで検索機能を教えた。

だが、その〝世界中〟のどこにも、レンが帰りたい場所はない。


昨日からレンは何度も言っていた。

異世界から来た。仲間を残してきた。

アルディア王国へ帰らなければならない。

ソウシも、それが嘘ではないのだと認め始めていた。


それでも。

スマートフォンの画面に何も出ないという、あまりにも無機質な形で事実を突きつけられると、その意味が急に重くなった。


レンはしばらく何も言わなかった。


やがて。


「……そうか」

小さく呟く。

声は、先ほどまでより少し低かった。

「本当に、この世界には存在しないのだな」


ソウシは口を開いた。


「……そうだね」


それ以上、二人とも何も言わなかった。

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