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Sランク冒険者が闇バイト無双  作者: ヒナツキスバル
第四章 本部案件
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一人来てねぇし

 その日の晩。


六畳一間のアパートで、ソウシは机に向かっていた。

夕食を終え、参考書とノートを広げて勉強へ戻ったところだった。

その背後で、衣擦れの音がする。


「…レン、何してんの」

振り返ると、レンが立ち上がっていた。


ハンガーに掛けてあった上着を羽織り、傍らのバッグへ手を伸ばしている。


ソウシの嫌な予感が当たった。

「まさか…行くつもりじゃないよな」


レンの動きが止まる。

ゆっくり振り返った顔に、迷っている様子はなかった。

「本部とやらが、何をしようとしているのかを確認する必要がある。犯罪ならば止める」


それだけ言って、レンは玄関へ向かう。

「いやいやいや、待って? 止める、じゃないよ!」


ソウシは椅子から身を乗り出した。

「その犯罪の一味として呼ばれてる可能性が高いって言ってるんだよ! もし警察が来たら、止めようとしてたなんて言い訳通用しないぞ?」


レンは足を止めた。


「…巻き込まれる可能性がある者がいる以上、見過ごすことはできない」


「だから、なんで見ず知らずのそいつらをお前が助けなきゃいけないんだよ!」

バン、と机を叩いた。

普段なら、こんなふうに誰かへ声を荒らげることなどほとんどない。

けれど今は、どうしても止めたかった。


「お前はここでは勇者じゃないんだぞ! そんな理由で行くなよ…!」


レンは振り返らなかった。

しばらく黙っていたあと、静かな声が返ってくる。


「ソウシ…わかってくれ」


「………」


「力を持つ者は、他が為にその力を使わねばならない。それが出来なければ意味がない」


ソウシは何も言えなくなった。

レンが人を助けるのは、勇者だったからではない。


勇者という肩書きを失ったからといって、その生き方まで捨てられるわけではない。


自分には力がある。

その力で防げる危険がある。

それを知りながら、自分だけ安全な場所にいることをレンは選べないのだ。


「待てよ! レン! 話を…」


ドアが静かに閉じた。

六畳間に、急に静寂が戻ってくる。


「………」


ソウシはその場に立ち尽くした。


流しには、夕食の食器が残っている。


部屋の隅には、レンの寝袋と衣類。


机の端には、何度も自分の名前と住所を書いた文字練習のノート。


いつの間にか、レンがこの部屋にいることが当たり前になっていた。


その本人だけがいなくなった六畳間は、妙に広く感じた。


「……なんでだよ」


ソウシは机へ戻り、両手で頭を抱えた。


          ◇


「あーー…もう………」


 ソウシは頭を抱えたまま、ぐるぐると考えていた。


もう知らない。

自分は止めた。

行くなとも言った。


「知らないよ…もう、知らないからな…」


言い聞かせるように呟き、机へ向き直った。

ノートをめくる。


「…………」


数秒後。

ソウシの手が止まった。


「あ」

思い出した。

もし警察が来たら、どう対応するのかをレンに教えていない。


「………」

池袋人材サービスでの出来事が脳裏に蘇る。

机を片手で持ち上げ、ソファやキャビネットまで積み上げ、あっという間に巨大なバリケードを築いたレン。

あれを警察相手にやったらどうなる。


「ダメだろ…!」


ただでさえ犯罪現場にいるだけで疑われる可能性がある。

そこでレンが警察を敵と判断し、あの怪力を見せでもしたら、それだけで取り返しがつかなくなる。


警察が来たら武器を捨てる。

抵抗しない。

言われた通りにする。

それだけ。

それだけ教えれば帰る。


「それだけだからな…!」


ソウシは上着を引っ掴み、部屋を飛び出した。


         ◇


一方その頃。


「……ここか」


レンがスマートフォンの地図を確認しながら辿り着いたのは、東池袋の路地裏にあるコインパーキングだった。


夜の駐車場に、一台の黒いワンボックスカーが停まっている。


その脇に、帽子を目深に被った若い男が立っていた。

顔の下半分はマスクで隠れている。


レンの姿を見つけると、片手を上げた。


「レンくん?」

「ああ」

「じゃあ、これ持って後ろに乗って」


男が差し出してきたものを、レンは受け取った。

一つは、頭全体を覆うようなフルフェイスヘルメット。

もう一つは、細長い金属製の道具だった。


レンはそれを眺める。

「この丸いものは何だ? 荷運びに必要なものか?」

「ついたら説明するっす。とりあえず乗って」


「………」

レンはまだ腑に落ちない様子だったが、車へ向かおうとした。


そのとき。


遠くから、激しい足音が近づいてきた。


「レン!!」


聞き覚えのある声に、レンが振り返る。


「……ソウシ?」


「ハァ、ハァ、ちょっと…待っ……」


全力で走ってきたソウシは、そのままレンの腕へ手を掛けた。

肩が大きく上下している。


「…何故ここに?」


「ハァ……ひとつ…言い忘れ……警察っ…」


どうにか言葉を続けようとする。


その横で、本部担当者が「あー」と声を上げた。


車内を覗き込む。


「ちょうど一人来てねぇし。いいや。お前乗れよ」


「………は?」


ソウシが顔を上げる。

次の瞬間、フルフェイスヘルメットとロープを腕へ押しつけられた。


「いやいやいや! 俺違います! ちょっとこいつに話が…」


「待て、この者は…」

レンも口を挟む。


だが男は気にした様子もなかった。

「知り合いなんすよね? だったらちょうどいいじゃん」

「いや、ちょうどよくないって!」


ソウシが抗議する間もなく、二人はそのままワンボックスカーの後部座席へ押し込まれた。

「ちょ、待っ……!」


ピッ。

軽い電子音が鳴る。


ソウシはすぐにドアへ手を掛けた。

「………は? 開かない!」

何度引いても、ドアは動かない。


直後、エンジンがかかった。


「待って待って! 俺、乗るなんてひと言もーーー!」


ソウシの叫びを置き去りにするように、黒いワンボックスカーは夜の東池袋を走り出した。

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