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Sランク冒険者が闇バイト無双  作者: ヒナツキスバル
第二章 この国の冒険者ギルド
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12/28

名前かいたっすよ?

 南池袋公園近くのコンビニ。




店内の奥、従業員用のバックヤードでは、売り場とは少し違う静けさが漂っていた。


バイトを終えたソウシは、なぜかまだ控室の机に座っている。


目の前に広げられているのは、自分の受験勉強用の教材ではない。




高校二年生の数学プリントだった。




その隣では、同じくバイトを終えたミキちゃんが椅子に腰かけたまま、身体ごと左右へくるくると回っている。




「……でね」


ソウシはシャーペンの先で、プリントの途中式を指した。


「ここは、さっき説明したのと同じだから」


「うんうん」


「三木さん、聞いてる?」


「聞いてりゅ~♪」


「…………」




くる。


くる。




ミキちゃんはまだ回っている。


ソウシは無言で彼女を見たあと、自分の手元へ目を落とした。




途中式、計算、答え。


プリントの大半が、自分の筆跡で埋まっている。


「……結局俺が解いてんじゃん!」


「あははっ!」


楽しそうに笑うミキちゃんを前に、ソウシは頭を抱えた。




          ◇




そもそもの始まりは、つい先ほど。


バイトを終え、ソウシが帰り支度を始めようとした時だった。




「パイセーン!」


やけに弾んだ声に振り返る。


ミキちゃんが一枚のプリントをヒラヒラさせながら近づいてきた。


「これ、明日提出のやーつ!」


「…………」




嫌な予感しかしない。


差し出されたプリントを見る。


ほぼ白紙だった。


「……あのねえ、三木さん」


「そういうのは自分でやらないと、あとで苦労するよ」


ソウシは少しだけ先輩らしく言い聞かせる。


そして、一拍置いて付け加えた。


「俺みたいに」




「自分で書いたっすよ?」


ミキちゃんはキョトンとした顔で言う。


「お?」


ソウシはプリントへ目を落とした。


まさか、珍しく自力で少しは進めてきたのか。


「珍し――」


「ほら!」


ミキちゃんが得意げに指を差す。




プリントの一番上、そこにはしっかりと


『三木まりな』


と書かれていた。




「お名前書いたっす!」


「…………」


「……珍しくなかったあああ!」


期待した自分が馬鹿だった。




「名前は宿題やったうちに入らないから!」


「えー。でも提出する人わかんなくなっちゃうじゃないすか」


「そこじゃない!」




そんなやり取りの末、ソウシは最終的に


――答えを教えるんじゃない、解き方を教えるだけ。


という建前で、机に座っていた。




そして現在。


解き方を教えるどころか、ほとんど自分で問題を解いている。


「パイセン、次これ~」


「だから、まず自分で考えて」


「考えてるっすよ~」


「椅子回りながら?」


「回った方が頭回るんで」


「絶対嘘だろ」




ミキちゃんは悪びれもせず笑った。


こうして宿題を手伝わされるのは、今回が初めてというわけでもない。




ソウシが文句を言う。


ミキちゃんが適当に聞き流す。


最終的には、なんだかんだで問題が解ける。


いつものことだった。




その時




ブブッ


机の上に伏せて置かれていたスマートフォンが短く振動した。




「あ」


ミキちゃんが先に気づき、指を差す。


「パイセン、スマホブルってる」


「ん?」




ソウシはシャーペンを置き、スマートフォンへ手を伸ばした。


画面を見る。


「…………」


一瞬、表情から力が抜けた。




――池袋人材サービス。


先ほど、南池袋公園でヒロナリと交換した連絡先からだった。


『明日14:00』


『こちらの事務所までお願いします』


続けて住所と位置情報が送られている。




ソウシは地図を開いた。


大通り沿いではあるが、入居している会社名を見ても、いまひとつ何をしている建物なのか分からない。どう見ても、立派なオフィスビルという雰囲気ではなかった。




「…………」


やっぱり、ちょっと怪しい。


そう思う。


思うけれど。


明日は登録するだけだ。


仕事を受けると決めたわけではない。




その考えに留めて、スマートフォンを伏せようとした時。




ミキちゃんが、こちらを見てニヤリとした。


「パイセン、彼女すか?」


「違うよ……ハァ……」


「ちょっ、あははは!」


あまりに現実的なため息混じりの否定に、ミキちゃんが吹き出した。




「マジなテンションで否定するのやめれます? かわいそすぎるんだけど」


「誰が」


「彼女」


「だから彼女じゃないって」


「つまんな~い」


「何を期待してんの」




ソウシはスマートフォンを再び伏せた。


ヒロナリの件について考えるのも、今は面倒だった。




「ほら。宿題戻るよ」


「は~い」


ミキちゃんは気のない返事をしながら、自分のスマートフォンを触り始める。


どう見ても宿題へ戻る人間の動きではない。


そして案の定、




「あ!」


「今度は何」


「そういえばぁ」


ミキちゃんが画面をこちらへ向けた。




「パイセンがこの間拾った、顔面つよつよ勇者くん?」


「…………」


「めっちゃバズってたっすね!」


「……まだ?」


「え、待って!」


ミキちゃんは楽しそうに画面をスクロールしていく。


「すご!フォロワー五千人超えてるし!」


「えぇぇ……」


ソウシは思わず頭を抱えた。


「また増えてんの……?」




バイトへ来る前に見た時点でも、すでにかなり増えていた。


それが数時間の間に、さらに膨れ上がっている。




画面には、鎧姿で池袋を歩くレン。


本人による削除依頼。


至近距離から撮影された無表情の自撮り。


よく分からない誓いのような文章。


知らない間に、どんどんSNS上の存在感だけが強くなっている。




「顔やっば」


ミキちゃんが素直に呟いた。


「ウチもフォローしちゃお」


「ダメ」


「えぇ~?」




「……いいから」


ソウシは誤魔化すように数学プリントへ視線を戻した。




「三木さん」


「はいはい」


「ここポイントだから聞いて」


「はぁ~い」




 絶対に聞いていない返事だった。


「……で、この式をこうして――」


「でも」


「何」


「パイセン頭イイから、ほんと助かるっす」


「……」 




ソウシのシャーペンが止まった。


「頭良かったら浪人してないから」


「え?」


「何」




ミキちゃんは本気で分からないという顔をした。


「じゃあ、なんで数式解けるっすか?」


「高二の問題だからだよ!」


「あはははははは!」


「ちょ、声!」




店内まで聞こえるのではないかと思うほど、ミキちゃんは大笑いした。




「なにそれ! パイセン自分で自分刺してるじゃないすか!」


「三木さんが刺してんだよ!」


「ウケる~!」




ソウシはため息をつきながら、再びプリントへ向かった。





     ◇





しばらくして、数学プリントは、ほぼすべて埋まった。


誰が解いたのか、そこは考えないことにした。




「やったぁ~♪」


ミキちゃんが完成したプリントをヒラヒラさせる。


「これで提出できる~」


「……三木さんの宿題なんだからね」


「わかってるっすよ」




ミキちゃんはご機嫌なまま帰り支度を始めた。


バッグへプリントをしまい、スマートフォンを入れ、出口へ向かう。




その途中で、ふと振り返った。


「パイセンって」


「ん?」


「なんだかんだ頼んだら、やってくれますよね♪」


「…………」




ソウシは深いため息をついた。




「はぁ……それ褒めてないよね」


「めっちゃ褒めてるっすよ♡」


「はいはい」


「じゃ、おつかれっした~!」




「お疲れ」




元気のいい声を残して、ミキちゃんはバックヤードを出ていった。




ドアが閉まる。


急に静かになる。




「…………」


ソウシは一人、机に残された。


頼まれると断れない。


それは、まあ否定しない。




ただ、ことミキちゃんの宿題に関しては。


それだけではなかった。


バイトが終わったあと、こうして二人で机へ座って


くだらない話をして


文句を言いながら問題を解いて、笑われて。




そんな時間を、ほんの少しだけ嬉しいと思っている。




――なんてことは。


絶対に、認めたくない。




「…………はぁ」


また大きなため息が出た。


ソウシは机の上を片づける。


シャーペンをしまい、スマートフォンをポケットへ入れ、荷物を持った。




「帰って、あーにゃんの配信見よう……」




結局、ソウシはいつもの場所へ逃げることにした。



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