8月31日 洋太郎と島
暑い!!昼間の部屋はサウナより暑い。
「洋太郎君は今日のお祭りには行くの?」
電話越しに由美の声がノイズと一緒に聞こえる。電波がそんなによくないのだろう。さすがは島だ。携帯電話はあるけど電波は悪い。
「あー・・・悪い今日路上ライブ見に行くんだ。」
「そっか。私も今日は予定入ってたから、日和ちゃんの家に宿題取りに行くの。」
「同じ学校なんだから明日もって来てもらえばよくね?」
僕は単なる疑問を投げ掛けた。答えに興味はあまりなかったけれど。
「なんかね宿題見せて欲しいんだって。生物1の植物の観察日記。」
「それじゃ日記じゃない。」
僕は突っ込みながら笑った。由美も、そうだねと後につづいて笑ってくれた。ブツッ・・・電話は一方的に切られ後に残ったのはセミの鳴き声だけだった。僕は時計の針を見て静止した。針が動かない。僕は今タイムスリップしているのか?だがしかしセミは元気に鳴いているし、引き出しの中を見ても押し入れを見てもタヌキみたいな猫型の青いロボットはどこにもいない。もし時代を無視してどこにでも行けるのなら僕はどこに行くのだろう。僕は両親に捨てられた。
いつもどおり家に帰ると一枚の紙が机においてあった。そこには電話番号と島に住んでいるおじさんの名前が書いてあった。十歳になる自分でもわかった。父さんと義理の母は帰ってこない。これから会うこともない。
母さんなんで死んだんですか?
僕はどうすればいいですか?
「洋太郎!!お前今日コンサートじゃないのか?」
おじさんの声が脳にキーンとこだまして消えていった。僕は知らないうちに眠っていたらしい。父さんがいなくなったおかげで僕はここにいる。中学二年の頃に一度島を出て父さんを捜しに行ったことがある。結局みつけることはできなかったけど。
おじさんは僕を自分の子供のように可愛がってくれる。母さんの兄貴なだけある。それとも漁師のもつ人情ってやつか?どっちでもいい。
この島に来て驚いたことは駅が三つしかないこと。電車は一台しかなく毎日十本しか出ないこと。中心部の駅の周りにしかお店がほとんどないこと。そして小学校は二つ中学、高校は一つしかないこと。僕のいた小学校は六人しか先生がいなかった。
田舎なんだ。少年の僕にとって神秘的な世界がこの島だった。
「洋太郎!!なにボーっとしてんだ!!コンサート遅れるぞ!!」
「おじさん大丈夫だよ。時間決まってないし。」
「今7時だからな!!今日ワシはゲンさんと飲み行くから飯は「シゲねぇ」の店で食べてこい!!」
はっきりとしたおじさんの声がセミの声をかき消した。そして僕を現実に戻した。ライブは7時半からだ。自転車で中心部までには一時間以上はかかる。そして電車はあと五分で出てしまう。まずい!!寝すぎた。僕は焦りながら自転車にまたがった。
僕の家は東の港にあって魚臭い。
由美の家は西の浜辺の近くの旅館。
日和の家は中心部より西側にある地獄坂のてっぺんにある花屋。
そして病院と学校は西駅、東駅、中央駅の三つで最もデカい駅・・・つまり中央駅の近くにある。路上ライブは基本中央駅でしているみたいでよく行く。
東駅に着くと駅長のゲンさんが僕に声をかけてくれた。
「間に合ったねぇ。乗るかい?」
「はいっ!!遅くなりました。」
すでに時間は7時20分になろうとしていた。ゲンさんは僕のためによく電車点検を長くしてくださる。すごく嬉しい。電車の中に人はいなかった。
「今日夏祭だかんねー。北にある神社わかんだろ?あそこにみんな行ってんから今日は暇じゃのー。」
「おじさんが飲みに行こうって言ってましたよ。」
「ほんじゃ「ヨッちゃん」と祭嵐隊でも組もうかね」
祭嵐隊とは射的、金魚すくい等々たくさんのゲームを一回で全てクリアする集団のことで、この島の子供達の中では伝説として崇められている。
ヨッちゃん、ゲンさん、シゲねぇ、あけみ、の4人組で島の屋台からは恐れられている。ヨッちゃんとはおじさんのことである。おじさん達スゲー。
僕は自転車と一緒に電車に乗りこんだ。10分もあれば中央駅に着くだろう。僕ははるか遠くに見える暗い海に目をやった。日和。お前はまたちゃんと僕の前に現れてくれるのか?こんなに町は・・・島は穏やかなのに本当は病気なんてお前の冗談じゃないのか?そうであってほしい。僕は海に映る星達にがらじゃないが祈った。




