8月31日 日和と勘違い
私はユミに電話した。正確にいうと今日十回目になる電話をしている。お昼のご飯がソーメンだったらきっとユミのノートに醤油をかけていただろう。ソーメンは醤油で食べるものだと思う。私は味オンチではない。
「はい・・・もしもし。」
「ユミ!!なんで電話にでないの!!」
「電池切れちゃって」
私はユミの話を聞くことなく要件を伝えた。
『歩けないから迎えに行けない。』
それだけ言うとユミは少し考えて小さくわかったと言った。ケータイの時間は1時23分。ユミは2時に来る。私はユミが来るまで暇をつぶさなければならない。私は作詞をするために車椅子を動かして机と向き合った。ギターを手に取る。足が使えないと移動はこんなにも大変なのかと、実感した。
母が言うに両足首が折れているらしい。原因はわからない。ただ痛みはまったくないからよかった。しかし昔から注射と薬が苦手だった私にとって痛み止め薬を飲むことは、苦痛以外のなにものでもなかった。母に痛くないからと訴えたが医者が、あのハゲが言っていたからと、私の意見は無効審査となった。
大人は嫌いだ!!ギターを弾きながら想いを叫んでいるとピックにヒビが入った。車椅子の手を乗せるところが邪魔で上手く弾けない。イヤになる。しょうがないからまた机と向き合う。詩は魂から書くといいってストリートミュージシャンの人に教えてもらった。
どんなに逃げても今は終わる
明日になってしまったらおしまい
セミは一瞬の一生を歌って終わるのに
僕は長い今日にうんざりして終わる
だるいからもう寝たいんだ
たとえナニを失ったとしても
どうせ明日はくるんだ
「ごめんくださーい。」
優しいゆっくりとした声がした。顔を見なくても誰だかがわかる。きっと母が私の部屋まで彼女をつれて来るだろう。ユミのお土産はいつもおいしいチョコレートケーキである。ユミが家に来ることは、私にとってはおいしいケーキがくることと同じなのかもしれない。いや同じだ。ユミには絶対に教えられない秘密である。
「日和ちゃんこんにちは。」
そういって笑顔でユミは私の部屋に入ってきた。
「やぁチョコレートケーキ君。」
ふざけて言った言葉にユミは首をかしげた。ちょっとちょっと・・・可愛いじゃん!!もし私が男なら絶対にユミに惚れていたと思う。しかしユミにはヨウという冴えない彼氏がいるのだ。
二人が付き合い始めて何年が過ぎただろう?わからない。私達三人はいつも一緒だったから、とくに何かきっかけがあったわけではなく気が付いたら二人は他人から付き合っていると思われるようになっていた。
ちなみに私はヨウの男友達、ユミのお兄さんという勝手なイメージがついていた。私は女の子だ。だから私達は何か特別な記念日なんてものはあまりもっていなかった。楽しいからいいんだけど。
「ユミは初めヨウのことどう思った?」
「・・・頭から血を出しながらお花の冠を作る人。」
まんまじゃないか。そうじゃなくてもっと性格的な方と付け加えると今度は
「赤!!」
と、天然をおおいに見せてくれた。ユミ的にはオーラを言いたかったらしい。ユミ・・・そのオーラの色も血の色だぞ。心の言葉は相手に聞こえないからいいと思う。
もし聞こえるようなら発狂していたことにちがいない。いろいろと考えることを我慢しなきゃいけなさそうだし。私は陰口とかそういう、たぐいのものは嫌いだ。グダグダと話をしていると5時になっていた。
「はっ!!日記!!」
ユミと顔をあわせる。ユミもあわてて猫が表紙の日記帳をだした。突っ込まないぞ。私は誓った。しかしその誓いは崩れることになる。
しばらく日記を必死に写しているとノートの上に落書きがあった。もの凄く綺麗なお姫様が眼を瞑っている。次のページには反対方向を向いたヨウがかかれていた。何がしたいのかが私には理解できた。私はこの二ページだけをもって電球のほうに掲げた。二つの絵は透けてその唇を重ねていた。
「ぷっ!!ふふ、あはははは。ロマンチストか!!」
私の大爆笑と、ビリッという音と同時にユミは立ち上がり私の手からノートを奪いとった。その顔はさくらんぼみたいに赤く染まっていた。私は追い討ちをかける。
「この男の子はヨウだよね?このお姫様は誰?ユミ?」
ユミは下を向きながら首を横にふって言った。追い討ちは見事に失敗した。このお姫様はユミ自身だと確信していたからちょっと残念だった。
「日和ちゃん。」
私はその答えに目が点になった。なんで私?私こんなに可愛くないよ。お姫様みたいに綺麗じゃないよ。
「私?ヨウと私がモデル?」
ユミは顔を縦にふった。冗談きつい。
「だって洋太郎君、なんか私に隠し事してるんだもん。多分日和ちゃんのことだと思う。」
ユミのカンはよく当たる。しかし何をヨウは隠しているだろうか。私には見当もつかなかった。ユミは勘違いをしている。ユミの出した答えは間違っている。
私とヨウは付き合ってなんかいない。
「今電話してあげる。」
私は真実を求めるためにヨウに電話してみた。
「私とヨウは付き合ってないからね。ユミは安心しなさい。」
ユミは静かにうなずいた。ユミは頭のいい子だから私が何をしようとしているのかを言わずとも理解した。ヨウは電話にでない。あの馬鹿は何をしているんだ?20分の呼び出しにヨウがでることはなかった。
「日和ちゃんもういいよ。日和ちゃんの行動には誠意を感じたから日和ちゃんの言葉を信じる。私もごめんね。」
ユミが謝る必要はない。そう思ったが言葉にならなかった。私は諦めてケータイを机においた。
「今日路上ライブあるって言ってたからそっちに行ってるのかも。」
ユミは路上ライブについてはあまり詳しくはない。今はまだ6時半過ぎだからライブは始まっていないだろう。しかし私の脳裏にはアイデアが浮かんだ。
「ユミ!!一緒に路上ライブを見に行こう。」
私はユミに笑いかけた。ユミの意見については全面的に無視の方向で。つまり私の意見は決定される運命なのである。適当にカッコイイことを並べるとユミはしぶしぶ了解した。私達は外に出た。ユミに車椅子をおしてもらいながら私達は中央駅へ向う。ケータイは7時前を示している。30分後には駅に確実についている。そこでヨウに誤解を直接断ち切ってもらえばいい。
道は誰もいなくて凄く雰囲気が違っていた。月の光は私達を包むように見守っている。街灯が足元を照らしてくれる。ギブスに包まれた足首に感じていた違和感はスネのところに移動していた。別になんともない。
ただむずむずとした違和感は私の作曲活動を邪魔してくるのであった。




