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現代ダンジョン短編集〜制度化されたダンジョンに潜って死んだり、おかしくなったりする話〜  作者: 無屁吉
スライム一匹三百円――三十分の延長料金

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8/9

スライム一匹三百円――三十分の延長料金 第一話

 金が必要だった。だから武雄たけおとおるはダンジョンに潜った。



 ■



 武雄は四十絡みの、どこにでもいる冴えない男だった。今の会社に落ち着くまで転職を繰り返していた平社員で、家庭も持っていない。


 趣味らしい趣味もなく、月イチの風俗通いが息抜きの中年だ。

 


 そんな武雄が、恋をした。

 


 相手は二十四だというソープ嬢で、月乃つきのという源氏名の女だった。


 人好きのする笑い顔が印象的で、初めて武雄と会ったのは彼が金をケチってフリーで入った時だ。


 フリー指名の、それも六十分という単価の低い客。しかも、お世辞にもいい男などと呼べない薄毛の中年腹だ。だというのに月乃は嫌な顔一つせず、


「はじめましてー、月乃って言います」


 と笑顔のまま接客をこなした。


 キスをして、武雄自身を口に含み、最後は月乃の中で果てさせる。


 六十分という限られた時間の、決まりきった流れで、そこに他の嬢との大きな差はない。だが、武雄は彼女の笑顔がなんとなく忘れられず、その次の月も彼女を指名した。


 そして、六十分という時間が次第次第と延びていき、今では百二十分にまでなり、その頃にようやく武雄は月乃に好意を寄せていることを自覚した。


 正直、武雄の安月給では苦しい出費だった。しかし、彼女に会う時間を短くはできない。いや、それどころかもっと長く、もっと多い回数、月乃と過ごしたい。



 だから、武雄はダンジョンに潜ることにした。それが一番手っ取り早く、金になると思ったからだ。

 


 ■



 ダンジョンは保険も効かない。


 日曜の早朝から武雄は愛想のよくない受付にマイナンバーカードを提示し、その入り口をくぐった。



 壁に取り付けられた簡易照明に無機質な岩壁が照らされている。


 周りには自撮り棒でスマホを掲げながら一人で喋り倒している若者や、数人で固まって行動しているいくつかの集団、そして武雄のようにうだつの上がらない中高年がチラホラと居た。


 武雄は事前に調べていた通り、第一階層の奥へと向かう。第二階層への階段からも離れ、まるで人気がなくなったそこは、取り付けられた照明の数も少なくなり、ひんやりとした空気が漂っていた。


 薄暗い通路の奥からべちゃりと、粘着質な音がした。スライムである。


 動画サイトで倒し方は何度も見た。武雄は速まる動悸を抑えようとしながら、なるべく音を立てないようにスライムへと近づき、掲げた鈍器メイスを振り下ろした。


 中古で五千円の重みが、スライムを押しつぶす。真ん中からやや左にかけて不均衡に潰れたそれは、キラキラと輝いたかと思えば粒子になって消えた。骸の代わりに残されたのは小さな青い欠片。魔石などと俗に呼ばれる魔力リソースだった。


 武雄はそれを拾い上げると背負っていたリュックに入れる。


 スライムの魔石、一つ平均三百円。十匹倒せば三千円。百匹倒せば三万円。それだけ倒せば指名料込みの六十分コースでお釣りが来る。


「また来てくれたのね。会えるの楽しみにしてたんだからっ!」


 そう言ってほほ笑む月乃が脳裏に浮かんだ。こんな自分の再訪を心待ちにしてくれる、一回り以上も年下の女。


 不思議と活力が湧き、武雄はそのまま通路の奥へと進んだ。


 石床を踏む音が狭い壁に反響する。やがてその音に釣られたスライムがやってきて、先と同じように屠る。それを何度も鈍器を振り下ろすことを繰り返した。その度に肩が軋み、鈍い痛みが走るが、月乃に会うためと意識して無視をした。


 動画でも音を立ててスライムをおびき寄せ、静かに倒すという方法を定番だと言っていた。簡単に倒せる上に群れることは少ない、らしい。その点も武雄が獲物とするのに都合がよかった。


 鈍器と同じく、中古で買ったキャッチャーのようなプロテクターが重荷に感じて来た頃、武雄はおよそ三十個ほどの魔石をリュックの中に入れていた。


 怪我らしきものは何も負っていない。怪我をするわけにもいかなかった。怪我をすればかかる医療費は十割。健康保険さえ使えない。すべては自己責任だ。


 気がつけば肩で息をしている。年を取ったと否応無しに突きつけられる気分だった。


 武雄は脂が混じった汗を袖で拭うと、安売りのミネラルウォーターを喉奥に流し込む。そして再び歩みを進めた。


 ――この日、武雄が得たものは三十分の延長料金だった。



 ■



 充足していた。初めて取った百五十分という時間。一度果てて回復を待つまでの時間、武雄は如何に自分がダンジョンで苦労し、この追加の三十分という時間を勝ち取ったのかを雄弁に語った。


「お兄さん、すごいのね。こんなお腹なのに、ダンジョンに潜っているなんて」


 ベッドの中で月乃が武雄の弛んだ腹肉をつまんで屈託なく笑った。


 いい気になった武雄は月乃の身体を弄りながらも、次はもっと稼いでくる。もっと長い時間、もっとたくさんの回数会いに来るのだと嘯いてみせた。


 それを月乃は笑みをたたえたまま、話をさえぎることなく相槌を打って聞いていた。


 結局この後、武雄は最後まで回復することはなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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