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現代ダンジョン短編集〜制度化されたダンジョンに潜って死んだり、おかしくなったりする話〜  作者: 無屁吉
ストレス解消にダンジョンに潜って、魔石銃を撃っていたら、リボ払いが止まらなくなった件

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ストレス解消にダンジョンに潜って、魔石銃を撃っていたら、リボ払いが止まらなくなった件 第一話

 ストレス解消がしたかった。だから、柳井やない一乃いちのはダンジョンに潜った。


 ■


 魔石銃の銃爪ひきがねを引く。引く。引く――。

 透明樹脂の円筒マガジンにセットされた魔石が塵になる。それが一乃には、なんとなくシュレッダーに飲み込まれていく書類と重なって見えた。

 銃口から放たれた三条の光弾がスライムを殴打し、踊らせる。

 べちゃりと、床に落ちたスライムは間もなくその身を光の粒子に変え、その場に魔石を残した。


 一乃はその様を見て、身体を小さく震わせた。頬は上気し、半開きにした口からは熱を帯びた吐息が漏れる。


「ああ、スッキリするぅ……」


 誰に聞かせるでもない呟きは、ダンジョンの石壁に反響し、すぐに消えた。


 ■


 柳井一乃は社会人三年目の会社員である。

 花のキャンパスライフを謳歌したツケが就活に回り、第一志望とはかけ離れた条件の企業へ、滑り込むように入社した。

 一年目は周りも新入社員だからと優しくしてくれていた。

 そのことに気がついたのは、自分の肩書から「新人」の二文字が外れてからで、ささいな書類ミスでも「まだこんな初歩的なことも覚えていないのか」と課長から叱責される。


 内心で「相手先の名前、ちょっと誤字っただけじゃん」と舌を出しながらも、


「申し訳ありません」「以後気をつけます」「ご指導ありがとうございます」


 言い慣れた謝罪を口にする。

 すぐ横では今年入ってきた新人女性社員に「ここはこうすればいいんだよ」鼻の下を伸ばしながら先輩が指導している。

 一乃は誰にも見つからないようにため息をつき、自分のデスクに戻った。

 乱雑に積み重なった未処理の書類、埃の被ったカプセルトイ、戻し忘れていた備品庫の鍵。そのすべてが薄暗く見える。


 ――ストレスが、たまって仕方なかった。


 ■


 きっかけは、休みの日に見た一本のショート動画だった。


「ストレス解消のため、ダンジョンに潜ってみた」


 別に大してストレスを溜め込んでもいないような青年が、バール片手にスライムを殴り倒すだけのもの。

 いいねもコメントもついていない。ただ、その時の一乃は「こういうのもあるのか」と、妙に感心して、その日のうちにダンジョンに赴いた。


 ダンジョンの管理は市区町村に移ったのは一昔前で、今では成人とマイナンバーカードで入場できる。

 昨日見た動画ではしつこいくらいに「ダンジョンで負った怪我は自己責任」「保険も効かない」と言っていたのをなんとなく思い出した。


 一乃はあまり愛想の良くない受付にマイナンバーカードを提示する。

 カードを読み取った画面に、通行の許可と、無申告で二十四時間以上戻ってこない場合は行方不明と処理される旨が表示される。

 物騒な注意書きだと思いながら、一乃はダンジョンの門をくぐった。

 先程までの明るい近代的な室内が、ひんやりした空気の漂う石造りへと変わった。

 思わず「ほえー」だなんて、間抜けな声が出る。

 周りには動画配信をしている青年や、学生と思われる集団、どういう経緯でそうなったかわからない中年男性と童顔の女といった面々がいた。

 ダンジョンは危険を伴うものの、若者を中心とした一部の層に人気がある。

 なるほど、と思った。確かにダンジョン配信は人気のコンテンツだし、一乃もよく見ている。

 中高年の姿を見かけるのは、いわゆる貧困層の副業や失業者の受け皿として、最近新規参入が増加傾向にあるとニュースでやっていた。

 いろんな人が来てるんだなと感心しつつ、一乃はレンタルしたバールを握りしめ、動画で予習した場所へ向かう。

 石壁に備え付けられていた灯りが少しずつ減ってきた頃、べちゃべちゃと粘着質な音を立てながら、一匹のスライムがやってきた。

 スライムは初心者にはうってつけのモンスターである――と、動画で言っていた。

 一乃は恐る恐るバールを両手で握って近づく。なるべく音を立てないよう慎重に、とこれも動画にあった。

 風切り音。次いで、硬めのバランスボールを叩いたような感触が、痺れとともにやってきた。


「あっ、つっ!」


 取り落としたバールが石畳の上で、甲高い音を立てて跳ねる。

 背中に冷たい汗が噴き出す。思い出すのは動画の注意点。


 ――スライムにつかまれたら肉を溶かされるので、気をつけましょう。


 とっさにその場を離れようとして、そこでようやく、スライムが光の粒子を放って消えたことに気づいた。


「お、おう?」


 その場に残された青い魔石。買取窓口に持っていけば一つ三百円程度にはなるというそれを拾い上げ、まじまじと見る。

 

 ――私がモンスターを倒した。


 実感すると、気持ちがスッと軽くなった。なるほど、これは確かにストレス解消になるかもしれない。


「よおし」


 いい気になった一乃はバールを回収し、その後は先ほどの反省を生かしながら、武器を取り落とすことなく順調にスライムを倒して回った。


「これ、楽しい!」


 生き物を一方的に殺して回る。

 相手がモンスターとはいえ、そんな非倫理的な行動をすることに、一乃は暗い喜びを覚えていた。


 ■

 

 会社でのストレスをダンジョンで晴らす。これが休日の習慣になった頃、一乃には一つ悩みができた。


「腕が痛い……」


 筋肉痛である。元々本格的なスポーツの経験があるわけでもない。結果、ストレス解消の行為で本業に支障をきたし、課長からの叱責が増えストレスが溜まる――という悪循環になっていた。

 とは言え、今の一乃にはダンジョンを手放すつもりは毛頭ない。

 何かいいアイデアはないかとスマホで調べると、


「お、これいいんじゃない?」


 一つの製品を見つけた。

 魔石銃。正式名称は別にあるらしいが、俗にそう呼ばれている。

 魔石のエネルギーを変換し、光弾として撃ち出す武器だ。

 飛び道具であれば、腕が痛くなることはない。良いものを見つけた。そう思ったのも束の間、その金額を見て「げ」と顔を歪める。

 諸経費抜きでざっくり百万。中古自動車だって買える値段。

 しかも面倒なのが、魔石銃の所持・使用には資格が必要で、試験もある。保管にも専用の金庫が必要で、公安委員会への届け出も必須ときた。

 一乃は少し考えて、試験対策の参考書をショッピングサイトのカートに入れた。


 ■


 ストレス解消のためにストレスの溜まる試験勉強をし、結果発表までの期間は不安からくる胃痛と戦いながらも、なんとか資格を手に入れることができた。

 そもそも、魔石銃の試験に「ダンジョン制度の歴史」問題があるのが納得できない。何の関係があるというのか。

 免状の取得時の講習では、昨今の魔石銃犯罪の事例の解説があったが、ただ眠たいだけの時間だった。


 しかし、その苦労を差っ引いても、今回の成果はあった、と一乃は思う。

 部屋では、大きくは無いが、重く、分厚い金庫がその存在感を顕にしている。

 ダイヤルを回し、扉を開けた。わずかに軋んだ音を立てたそこから、一乃は魔石銃を取り出した。

 どこか拳銃の上に透明な円筒状のカプセルがついた玩具めいたフォルムのそれは、見た目以上にずしりとしていた。


「三年ローンの君、頑張って一緒にモンスターいっぱいやっつけてね!」


 銃の先端にキス。一乃は次のダンジョン探索が楽しみで楽しみで、もうどうしようもなかった。


 ■


 魔石銃はスライム魔石一つで、三発程度の弾を撃つことができる。

 一発の威力は一乃がバールで殴るか、それより少し弱い程度と、それほど強くはない。

 その威力の低さに加えて、稼ぎの源である魔石を消費するとあっては稼ぎを目的とする探索者からの人気は低かった。


「たーのしいーっ!」


 だが、そんな事情は一乃には関係ない。試験期間に溜め込んでいた魔石を湯水のように消費し、一匹のスライムに光弾の雨を降らせる。

 狙いもまともに定めていない銃撃は、半分以上石畳の床に吸い込まれたが、残りはスライムをこれでもかと空中で踊らせた。

 スライムは床に落ちるより早く、その身を魔石に変える。

 一乃は労るように銃身を撫でると、魔石を拾って魔石銃の円筒マガジンに入れた。更にショルダーバックからも魔石を取り出して補充する。


「うーん、ストックの魔石はこれで最後か」


 最初は丁寧に三発ずつ撃ち、収支がトントンになるようにし、それで満足もできていた。

 しかし、試しに乱射を試みてからは、すっかりその無駄な消費の虜になっている。


「補充しなきゃなんないかあ……」


 面倒くさいなあ、と呟きながら腰にくくりつけていたバールに持ち替える。

 かつては楽しかった殴殺も、今ではすっかりただの作業になっていた。


 ――あー、ストレス溜まる。

お読みいただきありがとうございます。

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