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現代ダンジョン短編集〜制度化されたダンジョンに潜って死んだり、おかしくなったりする話〜  作者: 無屁吉
回らなかった動画と、回りすぎた動画。

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3/9

第三話(終)

 ■


 第三階層は、想像していた以上にあっさりと通過できた。

 コボルトの群れも、オークも余裕――とまではいかなかったが、それでも怪我らしい怪我もせず戦えた。


「なんだ、やっぱやれんじゃん。俺」


 思い切って新調したブロードソード。その切れ味も一助にあるだろう。しかし、自分の実力が自分で考えていた以上のところにあったことに笑みが止まらない。


 ――もう俺は、初心者なんかじゃない。


 そして第四階層に足を踏み入れた瞬間。


 ――肌が粟立ち、背筋が凍った。


 空気が違った。これまでの第三階層とはまるで別物だった。

 同時に、なぜ第四階層からの動画の再生数が良いのかも理解した。

 帰るべきだ。理性がそう言う。しかし、


「ここまで来て、イモ引けるかよ」


 己を鼓舞するように無理やり口の端を上げる。ウェアラブルカメラの電源を入れ、ホルダーから取り外すとそのレンズを己に向けた。


「どもどもどもぉー、おはこんばんちは! カッチャンちゃんねるの克也です! 今日はなんと、第四階層に来ちゃってます!」


 克也はカメラを第四階層の風景へと向け直すと、ぐるりと周りを撮る。

 

「と、言っても見えるのは石の壁と床で、これまでと変わり映えしないんですけどね。まあ、ここが第四階層という証明はモンスターと遭遇してからってことで」


 克也はそう言って、ウェアラブルカメラを胸につけ直す。電源を消そうかと一瞬迷うが、やめた。第四階層で咄嗟に電源の管理までできる自信はなかった。


「それでは、ちょっと歩いてみたいと思います」


 少し進むと、階段が近いからか他の探索者たちの姿がチラホラと見える。

 彼らは新顔の克也を一瞥するが、すぐに興味をなくしていた。それが少し克也の癇に障った。


 ――いいさ、見てろよ。今に俺が有名になったら無視なんてできなくなるさ。


 第四階層はこれまでの階層と違い、照明の数が少なかった。動画での事前調査で克也はそれを知っていたのでヘッドランプを持参していた。スイッチを入れ、LEDの明かりが前方を照らした。

 階段からしばらく歩くと、暗闇の中から一体のモンスターが姿を現した。

 ヘッドランプの光に浮かび上がるそれはオーガ()と呼ばれる化物。オークよりも一回り以上大きい赤銅色の体躯に、見るからに膂力の有り余る筋肉。たった一体といえど、これまで出会ったどんなモンスターよりも圧力があった。


「……さあ、皆さん。第四階層の代名詞、オーガのご登場です」


 ブロードソードを抜き、チラリとウェアラブルカメラの位置を確かめる。問題はない。

 

「ちょっと、しゃべれないか――もっ!?」


 オーガは一息に間合いを詰めてきた。大振りなモーションで拳を克也にたたきつけようとする。しかし、その動きははっきりと見て取れた。


「予習済みぃ!」


 横に飛び退きながら、伸ばされた腕に刃を振るう。――浅い。しかし、確かに傷はついた。

 その事実に「やれる」と自信が生まれる。

 

「次はこっちから!」


 ブロードソードを脇構えにし、間合いに入った瞬間に踏み込む。石畳を蹴りつける音が響くと同時に、カウンターの拳が克也の頭を狙う。

 それを首を傾けるだけでかわし、そのまま胴体を逆袈裟に斬り裂いた。硬い。ゴブリンやオークとは肉質が違った。


「だけど、まだまだぁっ!」


 振り抜いた遠心力を利用し、その勢いをもう一度たたきつける。再びの逆袈裟。その剣跡は寸分違わぬとはいかなかったが、先の傷に近いところをなぞっていた。

 オーガがわずかによろめく。しかし、その下半身が踏み込む動作をしたのが見え、克也は大きく跳んで間合いを取った。一瞬遅れて大木のような脚が空間を削った。当たれば即死。

 冷や汗が全身から噴き出る。だが、それ以上にアドレナリンが脳内を駆け巡っていた。

 オーガは、明らかに深手を負っていた。胸に刻まれた二条の傷からは血がとめどなく溢れ、床に落ちたものから光の粒子となって消えた。

 ――ここで決めるチャンスだと思った。


「オラ、掛かってこいよ、木偶の坊」


 ブロードソードを肩に担ぎ、片手で手招きする。オーガは激昂したのか咆哮を上げるとこれまで以上の速度で――しかし、ただ一直線に克也へと突っ込んで来た。

 同時に克也も踏み込む。出来る、と直感した。


「うっしゃあ!」


 暴風と見まごうばかりの拳の乱打を、身のこなし一つで避け続ける。頬をかすめただけで肉がえぐり飛んだが、痛みは無い。

 そして、その一瞬。


「ここだ!」


 克也のブロードソードがオーガの右腕を斬り落とした。激痛に仰け反るオーガに、


「とどめ、死ねえっ!」


 振り下ろした刃が、オーガの左肩から右腰にかけて閃いた。

 噴出音。オーガの鼓動に合わせてか、血が断続的に噴き出す。

 そして、ゆっくりと、オーガはその身を冷たい床に預けることになった。


 ■


「っしゃあ!」


 倒れたオーガの姿を見て克也は無意識にガッツポーズを取っていた。

 会心の一撃だった。これまでどの敵に浴びせてきた攻撃よりも、間違いなく人生最高の一撃だった。

 完全勝利。胸中にその四文字が去来し、その余韻に陶酔する。


「いやあー、こんなん万バズ間違いなしだろ! やっぱ俺才能あるんじゃん」


 そして、はたと思い出す。まだオーガの体はそこにある。なら、今のうちにだ。

 克也はウェアラブルカメラを取り外す。動作しているのを見て安堵する。そして、克也は倒れたオーガと自分がきちんと画角に収まるように、くるりと、()()()()()


「皆さん! 見てもらえましたか!? 第四階層のオーガもほら、この通り。ちょっぴりほっぺた傷ついちゃいましたけど、ほぼ無傷の勝利です!」


 カメラに向かったまま、視界の端に見えるオーガの()()を手で指し示したとき、一瞬、違和感を感じた。

 その違和感がなんなのか、それはすぐに気づく。

 死体? なんでまだ消えて――。

 あ、やべ。

 でもこの画角、ちょっと良くない?

 そこまで考えた瞬間、眼前の地面に大きな人影が落ちる。次いで、激しい衝撃とともに克也の意識は暗転し、二度と浮かび上がることはなかった。


 ■


 ■


 ■


 ――【閲覧注意】4階層でイキった初心者の末路がヤバすぎるwww【カッチャンちゃんねる】


 そんなふうに銘打たれた動画がアップされると、それはまたたく間にバズった。

 第四階層で回収されたというウェアラブルカメラに保存されていた動画が第三者の手によって投稿されたのだ。

 カッチャンちゃんねるの克也という名の探索者はオーガの耐久力を侮り、消滅を確認することなくカメラを回して、死んだ。

 そのあまりに滑稽な死に様に悪趣味な探索者界隈で大受けし、動画も消されては復活するを繰り返していた。

 動画についたコメントもその死に様や無謀な挑戦を嘲笑うものがほとんどだった。

 ただその中のいくつかに、


「いい動きしてんじゃん、もったいない」


 などと、彼を認めるものがあったのはもはや皮肉でしかなかった。


 了

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あと感想なんかもお気軽に。絡まれるの好きです(´・ω・`)

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