第二話
■
動画は、伸びなかった。
「なんでだよっ!」
録画データを何度も見直し、編集にも力を入れた。サムネイルだって目立つようにした。動画の内容だって悪くないはずだ。それなのに、再生数は回らない。
いや、正確に言えばこれまで克也が投稿したものよりははるかに数字は良い。
再生数280、コメント数2。
しかしそれで頭打ち。何度更新ボタンを押しても数字は動かなかった。
コメントも腹立たしい。
「ゴブリン相手にイキってダサ」
「第二階層だろ? 安全地帯みたいなもんじゃん」
何が安全地帯だ。何がイキってダサいだ。お前たちに何がわかる。
人間同士の喧嘩だって四対一をやり遂げる奴がどれだけいる。
「俺は命をかけてるよ!」
思わず叫ぶ。
だが、それで再生数は伸びなかった。
■
「ありあとござっしたあー」
深夜、叔父のコンビニでレジを打っていると、前の客と入れ替わりに佐伯が入ってきた。
「よお」
「ああ、い、いらっしゃいませ。佐伯さん」
スカジャンの女――佐伯は左手を軽く上げ、「39番」とたばこの番号を告げた。今日も佐伯からはアルコールの臭いが漂っていた。
「相変わらず、ダンジョン行ってんのか?」
「え、ええ」
「今、何階層だ?」
年齢確認のディスプレイにタッチしながら佐伯が尋ねてきた。
「えっと、第二っす」
「なんだ、まだそんなところかよ。初心者エリアじゃねえか、おままごとでもしてんのか?」
客とはいえ――それも、片腕を失った女に、自分のしていることをままごと扱いされ、思わず眉間にしわを寄せてしまった。しかし、佐伯はそれに気づいているのかいないのか、言葉を続ける。
「配信もやってんだろ? 視聴者ってのは命がけの、生きるか死ぬかを観たいんだ。安全なところでやってるチャンバラごっこなんか誰も興味ねえよ」
そう言って、佐伯はレジに置かれたタバコを手に取る。伸びて根元がむき出しになったネイルが、やけに目についた。
そして佐伯は、来た時と同じように手を挙げて自動ドアへと向かう。
「まあ、やるかやんねえかはお前次第だけどよ」
事故ったって保険も効かねえしな! とゲラゲラ笑いながら自分の右肩を叩きながら去っていった。
克也は何も言えなかった。ただ、佐伯の言葉だけが胸の中で何度も反響していた。
■
克也は第三階層の動画を見漁っていた。
第三階層ではコボルトやオークが主に現れる。
コボルトは一体ならゴブリンよりも弱い。しかし、ゴブリンよりも多く群れて行動する傾向がある。
オークはわかりやすくゴブリンよりも体格が良く、強い個体だ。
それを見て克也は、
――勝てる。そう確信した。
ゴブリン四体を倒した時の自分なら、コボルトも、オークも倒せる自信があった。あの動きができるなら第三階層でだって戦える。
だが、そう思っていても克也は第三階層に挑むのを悩んでいた。それは難易度ではなく、第三階層を扱う動画の再生数が原因だった。
どれも、良くて数千。その多くが三桁台だった。例外と言えばキャラクター売りをしている配信者の動画くらい。克也にもその方向性は無理だという自覚はあった。
「お前、もう少しシフト増やさないか?」
帰りがけ、叔父から言われた言葉がよみがえる。
「ダンジョン配信なんて危ないことやめて、堅実にやったらどうだ?」
克也はその言葉に「はい」と「いいえ」とも返さなかった。ただ、握りしめた手のひらが痛かったのを覚えている。
「やめられるかよ……まだ何にもなっちゃいないんだ」
第四階層の動画を検索する。第三階層ではダメだ。あそこでは自分は何者にもなれないと確信する。
「あ」
佐伯の動画が、目についた。
佐伯は第四階層を中心に活動していたらしく、検索結果に多く表示されていた。そのどれもが五桁の再生数を安定してたたき出している。
そのうちの一本がやけに多く回っていた。それは、佐伯が右腕を失った時の戦闘だった。
克也はその動画を再生した。佐伯の言う通り、それはまさに命がけだった。いくつものアクシデントが重なり、その全てを経験と機転で乗り越え続け、それでも越えられない一線に右腕を失い撤退する。
見応えがあった。見ているだけで血湧き肉躍る。なるほど、ここで戦うのなら確かに多くの注目を集めることができるだろう。
しかし、第四階層は明らかに自分の実力以上の場所だった。
――やるかやんねえかはお前次第だけどよ。
脳裏によぎる佐伯の言葉。同時に、机のうえに置きっぱなしになっているシフト表が目に入る。週三回の夜勤。時給千数百円の安い労働。
第二階層での全能感が蘇る。
「あんだけできるんだ。第四だって、一体ぐらいならやれるさ。そうすりゃコンビニのバイトなんて……」
克也は第四階層に挑む決意を固めた。
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