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現代ダンジョン短編集〜制度化されたダンジョンに潜って死んだり、おかしくなったりする話〜  作者: 無屁吉
回らなかった動画と、回りすぎた動画。

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1/9

回らなかった動画と、回りすぎた動画。第一話

 インターネットの英雄になりたかった。だから、輪島わじま克也かつやはダンジョンに潜った。


 ■


 うだつの上がらない、鬱屈とした毎日。克也はコンビニの深夜バイトに勤しんでいた。

 自分の意志ではない。大学受験に失敗したあと、バイトもせずにダラダラしていたが、このコンビニを経営している叔父に捕まり、強制労働させられる羽目になった。

 

「よお、今日も湿気た顔してんな」

「ああ、佐伯さえきさん。ども、こんばんは」


 髪の長い、まるで男のような言葉遣いをするスカジャンの女――佐伯に、克也は軽く会釈した。

 佐伯の出した商品を無言のまま受け取ると、スキャナーで読み取る。

 商品に目を落としながらも、チラリと佐伯の右腕――正確には右腕があるべきところを見る。

 潰れたスカジャンの袖が、佐伯の体の動きに合わせてゆらめいていた。

 佐伯がポケットから左手で紙幣と小銭を取り出し、青いトレイに置いた。

 

「にしても、暇そうだな」

「忙しくはないですね、時間も時間だし」

「ダンジョン行ってんのか?」

「ええ、まあ……」

 

 レシートと商品を渡し、克也は曖昧に答えた。

 ダンジョンに行ってはいる。ただ、成果は出ていない。なけなしの金を費やし、初心者の配信用として勧められていたウェアラブルカメラも買ってみたが、まるで再生数も伸びない。


「最初からバズるやつなんてそうそういねえよ。地道にやることだな。そうすりゃ俺みたいに10万再生とかできるようになるかもしれんぜ」


 大口を開けながら佐伯が笑う。アルコールの臭気と化粧の香りがいやに鼻につき、ひらひら揺れる右袖と、むき出しになったなめらかな首筋に目が行った。

 克也は愛想笑いを浮かべ、去っていく佐伯を見送り、自動ドアが閉まったのを確認すると、


「んだよ、失敗したくせに偉そうに」


 そう、わざわざ声に出して毒づいて見せたのだ。


 ■


 帰り道。克也はスマホを眺めながら夜道を歩く。

 再生数3、コメント数0。

 再生数1、コメント数0。

 再生数――、

 舌打ちする。こんなんじゃ収益化なんて遠い夢だ。

 自分の動画は誰にも観られていない。対してあの佐伯はどうだ。克也は「佐伯 ダンジョン」で検索をする。表示されるのはいくつかの10万再生超えのサムネイル。

 再び舌打ちする。タップし、動画を再生する。

 まだ両腕のある佐伯が軽妙な挨拶をした。

 トレードマークのスカジャンは今のものとは違えどこの時も着ていて、蓮っ葉な印象とよくマッチしている。

 動画を作るようになってわかったが、話術や編集一つとっても自分のものとは出来が違うことを実感させられる。ビジュアルだって違う。女性のソロ探索者なんて限られている。立ち位置からしてまるで違った。

 だが、


「なんだ、コメントなんか二年前が最新じゃねえか」


 暗く笑う。

 佐伯の動画は自分のより画質がいい。それはカメラの性能の差に過ぎない。

 編集技術だってあとから追いつく。場を回す話術だって今は経験を積んでいる最中だ。


 ――俺は違う。もう、あの終わった女とは違うんだ。

 克也は画面に映る再生数を見ないようにして、スマホをポケットにねじ込んだ。


 明日はダンジョンに行こう。そう決めて、克也は帰り道を歩いて行った。


 ■


 克也は無愛想な受付にマイナンバーカードを提示し、ダンジョンの中に入る。

 第一階層はスライム程度の、単調な動きのモンスターしか出てこない。なんの撮れ高にもならない。

 石壁に取り付けられた照明を頼りに、第二階層へと進む。通り道に現れたスライムは、見栄えがするようにと買った中古のブロードソードで切って捨てた。光をまき散らし、残骸が消える。そこに残った青い魔石には目もくれず、奥へ行く。

 冷たい石畳をふむ音が、狭い通路に反響する。それがしばらく続いた時、反響音が増えた。

 ――来たか。

 克也はウェアラブルカメラのスイッチを入れる。ややもして録画状態を示す赤いランプが灯る。

 克也は足を止め、ブロードソードを鞘から引き抜いた。不釣り合いな重さに一瞬だけ腕が下がる。

 複数の足音が響く。音はだんだんと大きくなり、克也に近づいてきているのがわかった。

 ウェアラブルカメラを胸のホルダーから取り外し、自分へと向ける。


「どぉーも、おはこんばんちは! カッチャンちゃんねるの克也です!」


 声を張り上げ、ニヤリと笑う。


「今日は第二階層まで足を伸ばしてきました! ちょうど今、ゴブリンが近づいてきているようです。しかも複数! さあ、私は無事この危機を乗り越えられるでしょぉかっ!」


 まるで言い終わるのを待つかのように、壁の明かりに照らされ、四体のゴブリン(小鬼)が現れる。揃いも揃って腰蓑に棍棒と、未開の蛮族のような出で立ちをしていた。

 克也の背中にじんわりと脂汗がにじみ出る。

 ウェアラブルカメラをホルダーへ戻す。わずかな震えで少しもたついた。


「おおっとぉ……なんと現れたのは四体のゴブリンです。……マジかよ、二体までしかやったことねえぞ」


 ボソリとつぶやくが、同時に沸き立つものもあった。

 ――ピンチはチャンス。ここでカッコよく決めればバズだ。


「何事も、先手必勝っ!」



 克也は相手の出方をうかがうことなく、ゴブリンたちへと一足飛びに向かう。

 いきなり目の前にやってきた克也に虚を突かれたゴブリンは、脇構えにしたブロードソードで逆袈裟に斬られ、光の粒子となって消滅した。


「まずイチぃ!」


 克也はその場に留まること無く、体の勢いを殺し、元の場所へ飛び退いて間合いを取る。

 先程までいた場所に棍棒が振り下ろされ、石畳を打ち据えた。石に打ち負け、いくつかの木くずが宙に舞う。


「上手くいきました! 数を減らせばこっちのものです!」


 ――とはいえ、まだ自己新なんだよな。


 声にはせず、内心で呟く。

 ゴブリンたちが克也の周りにゆっくりと移動し、三方を取り囲んだ。すえた獣臭にも似た臭いが鼻腔に届く。

 克也は視線だけでウェアラブルカメラの位置を再確認し、ゴブリンたちそれぞれが映るよう体を動かした。

 その時、ちょうど視界から外れた右のゴブリンが、棍棒を振りかぶりながら走り寄ってくる。


「しゃらくせえっ!」


 身を捻ってずらし、紙一重でゴブリンの一撃をかわした。擦過音。上着が小さな悲鳴を上げる。

 ねじったその勢いそのまま、横薙ぎ一閃。克也自身驚くくらい鮮やかにそれはゴブリンの首を刎ね飛ばしていた。


「二体目ぇっ!」


 粒子化していくゴブリンを背に、残り二体と向き直る。両手で柄を握り、わずかに垂れた剣先を上げた。

 これで二体。


「結構良くないですかぁ!? 今の動き!」


 この流れは途切れさせない。

 頭に血がのぼっているのを自覚するが、恐ろしいくらいに冷静だとも思った。

 ゴブリンの動きがやけに遅く見える。

 二体同時にかかってきた。正面からくるゴブリンに対し、一歩踏み込む。克也の間合いに入った。

 克也は剣先をほんの少し持ち上げる。ゴブリンがそれに合わせて棍棒を横に大振りした。それは、克也の誘いだった。


「今っ!」


 克也はブロードソードを振りかぶりながら、ゴブリンの棍棒を跳んで避けてみせ、着地するより早くその身を真二つに割いた。

 決まった――思わず口角が上がる。

 一体になったゴブリンが間隙なく殴りかかってくる。

 そこにはもはや作戦も何もなく、やぶれかぶれになったかのような無謀なもので、


「チョロい!」


 一番あっけなく、克也の剣に突き刺されてその身を黄色い魔石に変えた。


 克也は、細く長く息を吐く。そして、ウェアラブルカメラを取り外し、自分へと向けて笑う。


「どぉーでした!? 今の戦闘、我ながら鮮やかじゃありません? 四対一でも華麗に勝利! うーん、未来のトップダンジョン配信者はやはり違う!」


 高揚感からか、自画自賛が止まらない。克也はその勢いのまま締めのあいさつをする。


「今日の動画はここまで! 高評価、チャンネル登録よーろしくぅー! また次回のカッチャンちゃんねるのでお会いしましょう。バイバイビー!」


 ウェアラブルカメラの電源を落とす。そして壁際まで移動し、もたれかかって「疲れた」とひとりごちる。

 しかし、今の戦闘は会心の出来だった。確かな手応えに、満足げにほくそ笑む。そしてふと思い出して呟く。


「あ、魔石拾わんと」


 ゴブリンの魔石は一つあたり千円になる。それが四つ。四千円は馬鹿にできない収入だった。

 ――一度バズれば、俺なら。

 それまでは目の前に落ちている魔石も拾って食いつないでいくしかなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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あと感想なんかもお気軽に。絡まれるの好きです(´・ω・`)

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