変わらない・千尋
夜になり明さんが帰ってくると私は笑顔で迎えさん
「おかえりなさい!」
私の笑顔を見た明さんは玄関で立ったまま、少し驚いたようだった。
「どうしたの?早く上がって」
鞄を受け取るように両手を差し出した私に明さんは鞄を渡した。
「明さん、ご飯冷めちゃうよ」
「ああ……元気、そうじゃない」靴を脱いで上がった明はネクタイを緩める。
「おかしいかな?」
「いや。千尋が元気なら嬉しいけど、無理してるんじゃないかなって」
「無理はしてないかな。昼間いろいろ考えたんだから」
そう言うと、明さんの手を引いてリビングへ行った。
食事をとりながら明さんに「今度……といっても先方が落ち着いてからだけど、果歩と愛のご両親のところに行こうと思うの。私なんかが行ったところでどうにもならないんだけど、でもなにか声をかけずにはいられなくて」と言った。
「そうだね。千尋がそうしたいならそうした方が良い。果歩さんと愛さんのご両親も、千尋が来てくれたら幾分は悲しみも和らぐと思うよ」
「明さんありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」
言いながら明さんのグラスにワインを注いだ。
「私ね、果歩と愛のことはとっても悲しいんだけど、それでも普段の日常を途切れさせたらいけないと思うの。悲しんでふさぎ込むより日々を重ねて二人を弔いたいの」
「そうだね。俺たちは生きているのだから。亡くなった人を悼むのと引きずられるのでは全く違う。後者にはなんの生産性もない。千尋は立派だよ」
「明さんがそうして理解を示してくれるからよ。人によっては私みたいな決断をしたら冷血みたいにとる人もいるだろうし」
明さんと飲みながら話している間、アルコールが入っても、表情が憂いに満ちても、私の瞳から涙が流れることはなかった。
私の中では彼女たちの死で、なにかが変わるということはなかった。




