共鳴・千尋
果歩と最後に連絡を取ったのはいつだっただろう。
愛が行方不明になってからしばらくは頻繁に取り合っていたが、その後も先週までは以前のようにLINEを送りあっていた。
見てみると一週間前が最後だった。
果歩はこのときまでは確かに生きていたのだと思う。
その日の昼。
明さんは、仕事中にも関わらず私を励ますようなメッセージをLINEで送ってきた。
果歩と愛のニュースを見たのだろう。
明さんには仕事に集中して欲しいので、自分は大丈夫だから心配しないでと返しておいた。
送信した後で、あんな返しで良かったのかとしばし考えた。
スマホを開いて二人との写真を見る。
二人とは中学のバスケ部で一緒だった。
それからの付き合いで、ご両親とも親しい。
こんな亡くなり方をしては、果歩と愛の遺体はしばらく警察の方だろう。葬儀はその後。ご両親の悲痛は察するに余りある。
私もニュースで二人の遺体が発見されたと聞いたときは、驚き、しばらくテレビ画面を眺めるしかなかった。
そして番組は遺体の状況を悪趣味にも詳細に語りだした。
遺体は裸で、木の幹に二人そろってワイヤーで固定されていたという。
そして左右の腕をそれぞれ切断されていた。
切断された腕は発見されていない。
私は、現場の様子を想像してみた。
ワイヤーで固定された果歩と愛。
腕を切り落とされて、木の幹に沿うように固定されて……それはまるで一本の主茎のように……。
そこまで想像して、裸足のまま急いで庭に出た。
私のトマトたちを見る。
赤々とした実。
鮮やかな緑の主茎。脇芽を剪定した切り口。
「アハハハ……すごい!そういうことなのね!」
私は震えた。歓喜に打ち震えた。
そのまま庭に座り込んで、いつ中に戻ったのか、しばらくどうしたのか、うっとりとした輝きに充ちた、緑金の夢心地だった。
一華の「作品」が、ついに私の「庭」にまで到達したのだ。
それは、私への挑戦か、それとも……。
私は、一華の狂気と、自身の内なる衝動が、このおぞましい「作品」を通じて共鳴し合うのを感じていた。
彼女の芸術は、私の深層に眠る何かを呼び覚ます。
この世のすべての生命は、私の「庭」を構成する要素であり、私はその「庭師」として、常に美しく、健全な状態を保つ責任がある。
そして、時には「剪定」という名の「処置」も必要となる。一華は、それを私に示してくれたのだ。
なんとか自分を取り戻すと、いつもの日常生活を過ごすべく、午前中の水やりをするために庭へ出た。
茎や葉が瑞々しく輝いていた。
水をやりながら地面に目をやると、土に水が染み込んでいく。
こうして染み込んだ水をトマトの根が吸い上げるのだろう。
水滴が滴る葉や実を優しく撫でながら慈しむ。
この子たちが元気に育ってくれていると思うと、凄惨な事件を忘れて、安堵感が胸を満たした。
途中、浩平から着信がきたが出ることなく、ひたすらトマトの世話と観察をする。
雑音をシャットアウトして、こうして命を育む行為は、私にとって何事にも変え難い幸せな時間だ。
元気に育つのを確認しながら、収穫を想像していると時間が経つのも忘れてくる。
そういえば石坂さんはそろそろ収穫のころあいだ。
彼女どうしているだろう?いつもより丹念な世話と観察を終えた私は、記録を付けた後に配信サイトを開いてドラマを観ることにした。
昼食をとるのも忘れてドラマに見入っていた私の耳にアラームの音が入ってきた。
午後の水やりの時間だ。
ソファーから立つとスマホに着信が来ていたことに気がついた。
「浩平だ」スマホを見ながらつぶやく。
きっと私を気遣って連絡してきたのだろう。
ドラマに集中していて気がつかなかった。
鏡の前に行ってから浩平に電話をする。
浩平はすぐに出た。
「浩平。ごめんね。ちょっとふさぎ込んでいて気がつかなかったの」
以前話しているときに、連続失踪事件の失踪者に私の友人がいると話したことがあった。
思った通り、浩平は私を心配して連絡してきたと言った。
「うん……私は大丈夫」
浩平に答えながら、自分の表情をチェックした。こういう表情の方が良いかな?
「ありがとう。でも心配しないで」
もう少し目を伏せる。
「そうね。でも果歩と愛のご両親のことを思うと胸が張り裂けそうで」
眉根はこんな感じだったかな。いや、これは少し大げさすぎる。
「大丈夫。こっちから連絡するから……うん。ありがとう」
これなら完璧。
鏡を見て自分の表情に大いに満足した私は、浩平との電話を切ると庭へ出た。




