遺された作品
滝川が行き詰まりを感じて数日後。厭戦気分が漂い始めていた捜査本部に、一報がもたらされた。
――失踪していた高橋智花が、遺体で発見された。
神奈川県の山中。キャンプに来ていた大学生グループが、斜面を下りた川原でそれを見つけた。全裸の女性が、血塗れで木から逆さに吊るされている。その足元にはおぞましい血だまりができていた。
それは、異様でありながら、どこか「作品」と呼びたくなるほど構図が整っていた。
滝川は殺人事件の現場を数多く見てきたが、こんな遺体はなかった。
首には幅五センチ、深さ十センチの刺傷があり、大量出血による失血死が直接の死因と断定された。それ自体は、これまでも見てきた類のものだ。
だが遺体を覆う血液は、高橋智花自身のものではなく、人間ではない動物の血液だと判明した。吊るされた遺体の下に広がる血だまりも同様。犯人は、遺体を吊るした後、わざわざ血をかけている。
さらに異様なのは、腹部の縦長の縫合痕だった。死後に切開し、縫合された跡。その傷を開いてみると、内臓がそっくり抜き取られていた。
代わりに入れられていたのは、ビニールに包まれた一本の包丁。
鑑定の結果、その包丁と首の刺傷が一致し、刃に付着していた血液は高橋智花のものだった。
この包丁が凶器であることは間違いない。そして、その柄からは、行方不明の福山一成の指紋が検出された。
さらに、遺体からはサクシニルコニンという神経筋遮断薬が検出された。
運動麻痺を人為的に起こすための薬物で、声帯を麻痺させ、自発呼吸を抑制し、骨格筋を弛緩させる。
つまり――被害者は意識があるまま、内臓を摘出されたということになる。
声を上げることも、体を動かすこともできない状態で。自分の体が切り刻まれるのを、ただ見せつけられたのだ。
それは、一華が智花に宣告した「辱めて晒してやる」という言葉が、おぞましくも「芸術的」な形で具現化したかのような光景だった。




