刑事たち
連続失踪事件の捜査本部は、目白警察署に置かれていた。
福山教諭の失踪届をきっかけに設置され、その後すぐに小橋愛の失踪届も続いたが、一ヶ月経っても手がかりはない。
失踪者に共通するのは、「十数年前に同じ中学校に在籍していた」という一点だけ。
卒業後の進路はバラバラで、現在の生活圏にも重なりはない。
高橋智花、小田茉莉、田島紅音の三人は一時期交流があったものの、それも自然消滅している。
福山と小橋愛に至っては、彼女たち三人との接点すら見当たらない。
同じ中学出身者がこれほど連続して行方不明になるのは異常だ。
しかし具体的な進展はなく、「事件性すら怪しいのではないか」という空気が本部を覆い始めていた。
滝川も、この捜査に加わっていたが、他の捜査員同様、決定的な情報にはまだ当たっていない。この日も佐山を連れて関係者を回ったが、収穫はなかった。
「一休みするか」
滝川は、小さな公園を指さした。自販機で缶コーヒーを買い、錆びついたベンチに並んで腰を下ろす。
「滝川さん。これ、本当に事件でしょうか?」
佐山がプルタブを引きながら問う。
「俺は事件だと考えている。それも、第三者が関与しているものだと」
「なぜです?」
「五人目の失踪者、小橋愛の件だ。通院した形跡もないのに、会社に“療養のため退職する”とメールを送っている。第三者が介入した痕跡と考えるのが自然だ」
「でも、他の四人にはそういう痕跡はありませんよ」
「だから引っかかる。今まで犯人は一切証拠を残さなかったが、小橋愛のときだけ“会社へのメール”という痕跡を残した。わざわざ失踪届の提出を遅らせる必要が、なぜこの一件だけあったのか?」
佐山は腕を組んだ。
「会社から身元保証人の親に連絡を入れさせないため……失踪の発覚を遅らせるため、とか?」
「最も素直な推理はそれだ。だが、失踪届が遅れるメリットは本当にそれだけか?」
滝川はコーヒーを一口飲み、思考を巡らせる。もし犯人が会社にメールを送ったのだとして、その真の目的は何か。本当に“時間稼ぎ”だけなのか。
逆に考えれば、他の四人は、いつ失踪届が出されても構わなかった。だが、小橋愛だけは「何か」を偽装する必要があった――。
「滝川さん。もしかしたら小橋愛の件は、他の四人とは無関係なんじゃないですか?考えれば考えるほど、そう思えてくるんですよ」
佐山の言葉に、滝川は空を見上げた。
「いや。むしろ逆だ。犯人は、他の失踪と小橋愛の失踪を“無関係”と思わせるために、わざと第三者の介入を匂わせたんだ。全部が同一犯による誘拐・監禁・殺人だと仮定した場合、だがな」
「……現に、本部は“無関係説”の方に傾いていますよね」
「このままじゃ、本部は縮小、いずれ解散だろうな」
事件性はあると感じていながら、それを裏付けるものは何一つない。滝川は大きく息を吐いた。
「管理官にだけは進言しておく」
「でも、そうなると小川一華はやっぱり犯人ではなくなりますね。どう考えても、あのアリバイのままでは二人を誘拐するのは無理があります」
滝川は肯定も否定もしなかった。もし全てが同一犯によるものなら、出入国記録が証明する通り、小川一華には「物理的に不可能」という強力な盾がある。




