智花殺害・一華
「彼はルイ。私のパートナー。それより一誠ってなによ?あなたそんな名前使っていたの?」
半笑いでルイに尋ねる。
「ハハハ。歩いてるときに目についたホストクラブの看板からもらったんだ」
ルイは、悪びれることなく答える。
「えっ?えっ?ど、どういうこと?」
智花は、一華とルイを交互に見る。その顔には、理解不能な事態への恐怖が刻まれていた。
「アハハハハ……アッハハハ」
もうだめ。堪えきれずに笑い出した。
智花は、呆気にとられたように私を見つめる。
続いてルイも笑い出した。
二人の笑い声に包まれた智花の顔には、不安と恐怖がはっきりと見て取れた。
その様が、余計に笑わせる。
「アハハ……フフッ……もう智花ったらそんな顔しないでよ。笑いが止まらないじゃない」
「どうしたの一華?どういうことなの?」
引き攣り気味の智花の顔を見て、また笑いだしそうになったが、必死に堪えると居住まいを正した。
「じゃあ教えてあげる」
私は掌を拝むように顔の前で合わせると、智花への「最後の講義」を始めた。
「ルイは私の指示であなたと男女の仲になったの」
「なにそれ?」
智花の顔から、急速に血の気が引いていく。
「私が日本へ帰るよりずっと先にルイを日本へ行かせた。何度もね。そしてあなたと関係を持ったという報告を受けてから、知り合いに二人で会っているところ、ホテルから出てくるところを写真に撮らせたの」
「じ、じゃあ、近所にばらまかれた私の不倫写真って……」
「その人から私に届いたものをルイにばらまかせたわ」
「そういうこと。ごめんね智花さん」
ルイが、笑顔で智花に謝罪する。
智花は、混乱しているのか、泣いているのか笑っているのか判別できない顔になっていた。
「わからない……なんでよ?なんで?」
「あっ。ちなみに同窓会の日に智花さんのバッグに薬物仕込んだのも俺だよ。スープに入れたものと同じやつをね」
ルイは、笑みを絶やさない。
「智花を犯人扱いした動画を作成して公開したのも私たち。不倫暴露と犯人扱いで精神的に追い詰めて、家にいれなくなるようにする必要があったの」
「ふ、ふざけないでよ!だったら今日までなんで私を匿っていたの?なんで助けたの?」
智花は、怒りと絶望に声を震わせる。
「あなたが実家にも帰れずに、ルイに助けを求めたという連絡を受けて、私から由利に電話をさせたの。私に連絡すれば悪いようにならないってね」
「由利?由利もグルだったの?どうして私にそんなこと」
「決まってるじゃない。あなたには私のお母さんの苦しみを味わって欲しかったから。あなた達がネットに、お母さんがあの男、義理の父親を殺したと書き込んだおかげでお母さんは精神的に追い詰められた。なんの証拠もないのに殺人をやったと大勢の人間から指さされてね」
「わ、私をどうするつもりなの?警察に突き出すの?だったらあんた達が同窓会での薬物事件の犯人だと言うわよ!」
智花は、語気を強めた
「警察?なんの話をしているの?」
「さ、さっき言ったじゃない。私が大きな犯罪の容疑者になっているって」
「あれね。あんなの嘘よ。もっと言えば、最初からね。警察はあなたを逮捕しようなんてしていなかった」
「じゃあ、じゃあなんで私を?」
「殺すためよ」
その一言が、智花の顔から一気に血の気を引かせた。
その顔は、恐怖と絶望に染まり、まるで死人のようだった。
「う、嘘でしょう?あんなに優しくしてくれたじゃない?どうして?」
智花は、掠れた声で問いかける。
「そういう顔を見たかったの。だから優しくして信用させた」
冷酷に言い放った。
智花は、席を立って逃げようとしたが、バランスを崩して床に倒れこんだ。
「あ、あれ?脚に力が入らない……どうなってるの?」
智花は、自分の体に何が起きているのか理解できない。
「薬が効いてきたの。グラスに仕込んでおいたのよ。あらかじめ少量の薬を少量の水と一緒にグラスの底に凍らせておく。すぐにワインを注げば気がつかれない。現にあなたも気がつかなかったでしょう?」
一華は、淡々と説明する。
「ど、どうして私だけ?あなたをいじめていたのは由利も茉莉も紅音も同じじゃない……どうして私だけを?」
「勘違いしないでね。由利は私に謝罪してきた。お母さんの件には関わっていない。だから許したの」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
智花は、床に這いつくばり、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら謝罪の言葉を繰り返す。
「ククク……ずっと私と一緒にいて、ようやく今になって謝罪したね」
肩を揺らして嘲笑った。
「それにあなただけじゃないから。茉莉と紅音ならあなたより前からこの家にいるわ。福山先生も。しかも目の前に。さっきからずっとそこにいるわよ」
「はあ?」
手をついて体を起こし、リビングを見回す智花。
「ど、どこに?」
智花の視線は、恐怖に歪みながらも、必死に「それ」を探す。
「鈍いわねえ。そこよ」
作成中の「蜘蛛の糸」を指差した。智
花の目が見開かれ、その作品に釘付けになる。
それは、おぞましいほどに人間の骨を砕いて粘土と混じり合った、巨大な彫刻だった。
「あの子たちの肉や内臓は庭にいる犬の餌にした。髪の毛は焼いて、骨は細かく砕いてから粘土に混ぜて作品にしたの。無価値なあの子たちを価値のある作品に生まれ変わらせてあげたってこと」
事実が智花の耳に突き刺さる。
「ひっ……ひっひっ……」
智花は、言葉にならない悲鳴を上げ、顔を引き攣らせて声を上ずらせるだけだ。
「でもあなたは私の作品にしてあげない。あなたにはそんな価値も資格もない」
「い、いや、いや……」
智花は、全身で拒絶する。
「内臓は掻き出して犬の餌。それから死体は辱めて晒してやる」
一華の冷酷な宣告に、智花はようやくあらん限りの声を出して叫びだした。
泣きわめくような声は、リビングにかかっている音楽が聞こえなくなるほどの音量だ。
次は千尋だ。愛しい千尋。
私はあなたの幸せを何もかも滅ぼすために帰ってきたの。
あなたの「庭」を、私の「宮殿」で塗り潰すために。




