追跡2・一華
「津島由利さんと、橋本千尋さんです」
「津島さんは幹事でしたね」
「はい。同窓会の通知をホームページのメールでもらって、連絡を取り合いました。帰国してから同窓会前に何度か」
「その間に橋本千尋さんとは?」
「会っていません」
「橋本さんは、あなたにとって非常に親しい方だったはず。真っ先に会ってもおかしくないと思うのですが」
「ただのタイミングです。忙しかったのと、同窓会が近いなら、その日に会った方がサプライズ的で面白いかなって。おかしいですか?」
「いいえ」
小野寺は目を細めて首を振った。
「そういえば、津島さんは高橋さんと当時同じグループでしたね。どういう交流を?」
「交流はありません。通知をもらったことで、会場の件や一部料理を提供したいと私から申し出て、事務的なやり取りをしただけです」
「今回の会場は、小川さんが費用を出されたとか。どうしてそこまで?」
「私の原点の時代でしたから。あの時期だからこそ、『蜘蛛の糸』ができた。他の人にはどうでもよくても、私には大事なんです」
「聞きにくいのですが、高橋さんたちに恨みのような感情はなかったんですか?」
「当時はともかく、今はありません。私は成功しました。十数年前のことに囚われているなんて、馬鹿馬鹿しい」
「そうですか」
小野寺は一瞬目を伏せ、それ以上は深追いせず、あとは仲間がいくつか確認をして、聞き取りは終わった。
二人が帰ることになり、小野寺は立ち上がると、カップを片付けるルイをちらりと見てから部屋を出た。
玄関を出ると、小野寺が不意に振り返る。
「あのう、一ついいでしょうか?」
「なにか?」
「昔、あなたが転校した際、どうして橋本さんには連絡を取らなかったんでしょう?」
「今回のことに関係あります?」
「いえ。個人的な疑問でして」
「さあ。昔の私が何を思って行動していたのか、今では分かりません」
「そうですか」
「ごめんなさい。あまりお役に立てなくて」
私が笑うと、小野寺も笑いながら顔の前で手を振った。
「転校後のあなたは、別人のように社交的で快活で、クラスの中心だったとか。そのことを橋本さんに話したら、喜んでおられましたよ」
「千尋が。そうですか」
あの男は、あれからずっと私のことを考えていたらしい。それは、おそらく、あの事件で私から「なにか」を感じ取ったからだろう。
「では、お忙しいところありがとうございました。ご主人にも、そのようにお伝えください」
「主人? 私は独身ですけど」
「ああ、これは失礼。さっきの男性がてっきりご主人かと」
「彼は私のパートナーです」
「パートナー?」
「恋人のようなものですね」
「はあ、そうですか。どうも私は古い人間で、最近の言葉には疎くて」
「私もです」
恥ずかしそうに笑う小野寺に同意しながら、私は続けた。
「こういう説があるんです。人間の脳は石器時代から進化していないって。それ以降の環境には、本来適応できていない。だから法律にも適応できない。犯罪者が後を絶たないのも、そのせいなんですって。ですから新しい言葉についていけなくても、普通なんですよ」
「ほう。それは面白い話ですね」
「私もそう思います」
微笑んで視線を交わす。
「最後に一つだけいいですか?」
「どうぞ」
「お母さんが亡くなったあと、警察が勧めたセラピーは受けずに外のセラピーを受けたと聞きました。どなたを選ばれたんです?」
どうしてそこが気になるのか、私には分からない。
「今回の事件と関係が?」
「いえ。個人的な興味です」
「千尋です。千尋に話を聞いてもらいました。専門家って、どうしても身構えてしまうので。親しい友人の方が、いろいろ話しやすいと思って」
「そうですか。ありがとうございました」
二人の刑事は一礼し、去っていった。
なるほど。小野寺は、昔から今に至るまで、私に疑念を抱き続けている。
過去が、なめくじのように這い寄ってきたわけだ。
去っていく背中を見ながら、自然と笑みが漏れた。




