スキルの正しい使い方Ⅰ
「着きました! ここが私の暮らすホーミン村です」
移動を始めてから1時間と少し。
ようやく森を抜けたツバメとハルはその近隣に位置する村にたどり着いた。
「のどかな場所だなぁ」
「はい。とってもゆったりしてて、私もここの空気が大好きなんです」
ツバメから見た村の印象としては、開拓の真っ最中といった様子のまだまだ新しい村だった。
途中の畑では忙しなく土を掘り起こす農家の人達がたくさんいたし、村の住居のある場所もそこまで家屋が並んでいるというわけではない。
だが、ツバメは嫌ではなかった。
むしろ人が多いところが嫌で引きこもっていたツバメにとっては、これくらいの人口密度がちょうどよかったのかもしれない。
「とりあえず、私の家に案内しますね」
「うん、ありがとう」
ハルに連れられるがままに、村の中を移動していく。
すれ違う村人達は必ずハルに挨拶をし、それにハルも笑顔で応えていった。
「おお、ハルちゃん。森から帰ってきたのかい?」
「はい! ココの実を取りに行っていたのと、久々に湖で泳ぎたくなって」
「今は気持ちのいい季節だからねえ――ん?」
ハルと立ち話をしていた農夫が僕の存在に気づく。
「ハルちゃん。この若いのは誰だい?」
「あ、この人はツバメさん。旅人さんです」
「ああ、旅のお方かい」
そう言うと農夫のおじさんはニカっと笑い、ツバメの手を取りギュッと握る。
まさに働いている男の手だった。ツバメの綺麗な手よりも何倍も年季が入っている。
「何もない村だが、ゆっくりしていってくれ」
「あ、はい……」
ツバメもぎこちなく笑って返す。
勢いに押されてどもってしまったが、ちゃんと挨拶出来たと思う。
「すごく、ウェルカムって感じだったね」
「ここの人達はみんな旅人さんが好きなんです。いつも面白い旅のお話を聞かせてくれますし、珍しいものをいっぱい持ってますから」
そういう点ではあまり期待してほしくないなぁ。
そう内心ぼやきながら、ツバメは再び歩き出したハルについていく。
「――あ、ハルねえちゃんだー!」
今度は3人組の幼い子供達がハルに駆け寄ってきた。
よく見ると、どの子も獣の耳が付いている。
頬や手には泥がついており、手の甲でその泥を拭い落とそうとしている。
「あらみんな。ちゃんとお母さんお父さんのお手伝いはしてきた?」
「うん、さっきおわったとこ!」
「そう、えらいえらい」
ハルは一番近くにいた子供の目線までしゃがみこみ、頭を撫でる。
「えへへ~」
「あ、ずるい! ぼくもなでて!」
「わたしも! がんばっておてつだいしたよ!」
「はいはい、順番ね」
嬉しそうに頭を撫でられる子供達に、その子供達以上に嬉しそうな笑顔で子供達を撫でるハル。
その光景は、ツバメが今まで見たことのないほどに微笑ましいものだった。
「ありがとー!」と言い残し子供達は元気に走り去っていく。
「大人気だね」
「いえ、そんな……」
そう言うハルも満更でもなさそうにはにかんでる。
「あの子達も獣人?」
「はい、この村は人間と獣人が半分ずつくらいの割合で住んでいます」
「そうなんだ……たしか獣人にも色んな種類がいるんだよね?」
「ええ。猫だったり犬だったり兎だったり……さっきのあの子達はみんな犬の獣人です」
「確かに。人懐っこそうだったな」
猫の獣人なら素っ気ない態度とかを取ったりするのだろか。気になる。
「そう言えば、ハルはなんの獣人なんだ?」
「――私は、狐です」
そう恥ずかしそうに言うハルの耳に目がいった。
――狐耳。悪くない。いや、むしろいい。
まじまじと見つめるツバメの視線に耐えられなかったのか、ハルの狐耳はくるりと丸まる。
「そ、そんなに見ないでください……恥ずかしいです」
「あ、ご、ごめん!」
どうやらこの世界では、獣人の耳を必要以上に凝視しないほうがいいらしい。
◆
そんなこんなで移動していたらいつの間にかハルの家に着いていた。
ハルの家は村内でも少し外れの方あるようだ。
家はごく一般的な家屋で、木の板に木の床でできた文字通りの木の家だった。
リビングらしき広さの部屋に通され、椅子に座って休むように促される。
家に着くと、ハルは「ゆっくりしててください」と言い残し、森で採取していたであろうココの実という木の実の入った袋を持ってどこかへ行ってしまった。
恐らく、あの木の実を誰かに届けに行ったのだろう。
それにしても、もう少し警戒してもいいようなものだが。
普通自分の家に見ず知らずの他人を放置してどこかに行ってしまうなんて考えられない。
「――けど、好都合だ」
ツバメは懐からスマホを取り出し、スキルのアイコンをタップする。
・能力1(自由度 小)
・能力2(自由度 中)
・能力3(自由度 大)
先ほど森の川沿いでも表示させた、能力の設定画面だ。
この自由度について、いくつか検証していく必要がある。
さっき試しに入力してみた結果をまとめると。
・無理難題、もしくは異常なまでにチートな能力は設定できない。
・炎の魔法が使える、といった魔法行使の能力であれば自由度 小でも設定できる。
こういった結果になる。
ここから、少しずつ能力のパターンを増やしていってこのスキルで設定できる能力の範囲を見極めよう。
「まずは……」
炎の魔法、ここからアプローチをかけていこう。
ツバメはスマホを軽快に操作する。
・能力1(自由度 小)
『全ての魔法が使える能力』
これならどうだ? 明らかに炎の魔法のみ使える能力よりも強力なものだ。
OKボタンを押してみる。しかし――
スマホには制限外というアラートが表示された。
「ダメか……」
続いて自由度 中。
だがこのスロットにも設定はできなかった。
最後に自由度 大。
このスロットにも設定することはできなかった。
「全ての魔法なんて漠然すぎるのがダメなのか……?」
いや、そう言ってしまえば炎の魔法なんて書き方もかなり曖昧だ。
炎のどのような魔法なのかすらはっきりしていない。
「悩んでてもしょうがないか、次」
ツバメは続いて思いついた能力を入力した。
・能力1(自由度 小)
『イメージした武器や道具を作り出せる能力』
これならどうだ、とOKボタンを押す。
すると、今度は設定可能というアラートが表示された。
「――どういうことだ?」
想像した武器や道具を作り出せる能力。
これも相当なチート能力のはずだ。剣や槍、鎖、ハンマーなど武器などいくらでも思いつく。
更には銃のような現代の武器。戦車や戦闘機まで作り出せるとなればかなり強い。
兵器というレベルにまで上げればそれこそ核兵器だって――
「……設定してみるか?」
好奇心に駆られて確定のボタンを押しそうになるが、止めた。
まだ検証は終わっていない。満足いくまで試してそれでも他に候補がなければこの能力に設定すればいい。
とりあえずキャンセルを押し、続いての能力を入力する。
・能力1(自由度 小)
『身体能力を強化する能力』
OKボタンを押してみる。
すると今度は制限外というアラートが表示された。
自由度 中、自由度 大で試してみても同じ結果だった。
「――ますますわからん」
身体能力の強化、これも代表的な能力の一つだろう。
強化される範囲に大小はあれど、これもそこまでチート級の能力かと言われるとそう言うわけでもないはずだ。
なのに、設定ができない。
「全然ダメじゃん、このスキル……」
最初見たときはこれほど強いスキルを手に入れて勝手に異世界で無双できるものだとばかり思っていた。
多少の制限があるのは覚悟していたら、それにしても多すぎる。
それに不明な点も多い。
だが、ここで嫌になったとスマホを放り投げるわけにもいかない。
「まだまだ試してみないと――」
◆
あれから、様々な能力を試してみた。
空を飛ぶ能力。毒を自在に操る能力。テレパシーを使える能力。体を癒す能力。他人を支配できる能力。イケメンになれる能力。料理上手になれる能力。等等等……
様々な能力を試した結果、ひとつの結果が得られた。
この自由度という制限。まるで意味を成していない。
ここまで試した能力全てにおいて、結果は二通りしかなかった。
全ての自由度で設定できる。
全ての自由度で設定できない。
である。
つまり設定できるものはできる。できないものはできない。白か黒か。1か0か。そういった結果だった。
「一体なんなんだよ、この自由度って……」
ツバメでスマホをテーブルに放り出し、頭を抱える。
色々と試したが、そろそろ限界だ。
いくら検証しても、これ以上スキルについてわかることはなさそうだ。
――まだ、見落としていることがなければの話だが。
「――そろそろ、何か一つくらいは設定しときたいなぁ」
そんな甘い誘惑にも駆られてしまう。
いや、よく考えろ。確かに設定できる能力は3つまでだが、3つもあるという見方もできるのではないか?
自由度がどういった意味をもった要素なのかは未だにわかってないが、自由度 小のスロットを埋めるくらいであれば、今後にそう影響はないだろう。
まだ、上位互換である自由度 中と大が残っているのだから。
「…………」
思い切って設定してみようか、とツバメは顔をあげ、スマホを取ろうとした――
「――ただいま~」
突然、玄関の扉が開く。
ツバメはその音にビクリと体を震わせ、急いでスマホを手に取りポケットにしまった。
「お、おかえり。ハル」
「遅くなってすみませんツバメさん。今からご飯にしますね」
ほっとしたような、暖かな笑顔。
ツバメは焦りも少々に、ハルに言った。
「なんか、嬉しそうだな。何かあったのか?」
ツバメがそう問いかけると、ハルは少しキョトンとしたあとに自分で気づいたかのようにハッと表情を変える。
「――きっと、おかえりってツバメさんに言ってもらえたからだと思います」
「あ、」
そう言うハルはとても安心したように笑っていた。
その笑顔を見て、ツバメもつい微笑んでしまう。
「……そうか。それはよかった」
「はい!」
ハルは元気よく返事をすると、小走りで台所へと駆けていった。




