ゲーム説明Ⅰ
「さてさて、じゃあこれからお待ちかね。ゲームの内容について説明するよ!」
ハルマの威勢の良い掛け声と共に、ついにゲームの説明が始まった。
「と言っても、複雑なルールはほとんどないから安心していいよ! 本当に簡単だから説明も数分で終わっちゃうし、ただ一度しか言わないからよ~く聞いててね」
コンコンとステッキで地面を叩く音がが響く。
ツバメは姿勢を正し、ハルマの説明に耳を傾けた。
「みんなは"異世界転移"という言葉を知っているかな?」
突然の異世界、という言葉には流石に面食らった。
異世界転移、か。
マンガやアニメとかで最近よく聞く言葉だ。
自分の暮らしていた世界とは別の世界に飛ばされる。
別の世界では今までにないような文化や歴史、魔法のようなファンタジー要素。
そんな世界で生きていくことを強いられるような物語が一般的だろうか?
「今から1時間後に君たちプレイヤーを別の世界、すなわち異世界へ転移させます。そこが今回のゲームの舞台だよ。どんな世界かは行ってからのお楽しみ。ただ君たちが今まで住んできた世界とは全く異なる世界ってことだけは伝えておくね」
全く異なる世界。
夢が膨らむ話だ。一体どんな世界なのだろうか。
「君たちにはそこで1年間生活してもらうよ。そこでは何をしても自由! 異世界の人達と仲良く暮らすのも良し。自分の欲望に忠実に振る舞うのも良し。世界の支配者になっちゃうのもいいかもね!」
世界の支配者――ゾッとする話だな。
冗談で言っているのかわからないが、言葉通りに意味を捉えれば僕達プレイヤーにはそれを可能にする何かが与えられる、と考えられる。
異世界に飛ばされる前に、神と名乗る者からチートのような異能力を与えられる。これもよくある話だ。
「ただ、そこでスローライフを送るってのもつまらないから、私達神様から君たちにとある"役職"を与えます」
――役職?
剣士とか鍛冶師とか僧侶とか、そういったRPGによくある類のものか?
「役職を持つことで果たす役割は2つだけ。これがこのゲームの大きなキモになってくるからよく聞いてね」
ハルマは2本の指を立てて見せた。そして人差し指を折る。
「まず一つが、"クリア条件"」
――クリア条件? なるほど、ゲームらしい単語だ。
「役職ごとには"クリア条件"が一つ与えられる。この"クリア条件"を異世界に滞在する1年の間に満たすことが、君たちがゲームをする上で行う最も重要な目的だ」
最も重要な目的と言う以上、このクリア条件がこのゲームの勝敗に直接関わってくるのは間違いないだろう。
クリア条件を満たせればゲームクリア。満たせなければゲームオーバー。といった具合に。
「クリア条件には、様々なものがあるよ! 例えば特定の物を手に入れる。特定の行動をする。特定の相手を倒す、といった感じでね。もちろん、与えられるクリア条件は全部1年以内に満たせるようなものばかりだから、そこは安心していいよ」
そう聞くと、複雑そうな条件はあまりなさそうだ。
だが、1年も猶予があるのだ。そう安々とクリアできる条件が与えられると楽観できそうにはない。
「――次に二つ目。"スキル"だ」
ハルマは中指を折る。
「役職を持っているプレイヤーにはとある"スキル"が付与される。これに関してはあまり詳しい説明はできないんだけど、まあ君たちが異世界で生き抜くため、ゲームで勝つための"武器"だと捉えてもらっていいよ」
――スキル。やっぱりきたか。
異世界に渡る以上、何もない状態では文字通り何もできることはないだろう。
ゲームを進めていく上で、この"スキル"というものはかなり重要な要素になってくるはずだ。
「ちなみに"クリア条件"の難易度と"スキル"の強さ、これは比例関係にあるからここから色々と考察していくのも面白いかもね」
つまり、クリア条件が難しければ難しいほど、与えられるスキルも強力なものになっていくということだ。他のプレイヤーのスキルがわかれば、それはクリア条件を推測する情報になり得る。
「クリア条件とスキルについては、この後配布される役職と当時に伝えるからそこから色々と作戦を立てるといいよ。まあ――」
ハルマの口元が、意味深に歪む。
「――最初はそんなことする暇はないと思うけどね」
異世界、クリア条件、スキル。
僕達プレイヤーがすべきことが見えてきた。
異世界で1年間とにかく生き抜く。それと同時にスキルを駆使してクリア条件を満たしていく。
これだけだろう。
「じゃあこのゲームにおける勝利条件、敗北条件について説明するよ。もう察しはついてると思うけど、このゲームの勝利条件は『ゲーム終了時にクリア条件を満たして状態で生存している』ことだ。クリア条件を満たしたからといって、すぐに勝利が確定するわけじゃないから気をつけてね」
なるほど。つまりクリア条件を満たした状態で1年間を生き抜く必要があるわけだ。満たしたからといって油断はできない。
「で、敗北条件だけどこれも単純。『ゲーム終了時にクリア条件を満たしていない状態で生存していること』もしくは――」
ニヤリとハルマの口角が釣り上がり、続けた。
「――死ぬってこと、くらいかな」
――死。
単純な話だ。死ねばゲームも終わり。ゲームオーバー。
クリア条件を満たせていなくても同じくゲームオーバー。
たとえクリア条件を満たせたとしても、死んでしまえば同じくゲームオーバー。
「ゲームに関しての説明はこれくらいかな……細かいルールはいくつかあるけど、あとは君たちに付いている神に適宜質問してってよ」
そう言うとハルマは踵を返し、ステッキを振り上げて肩に乗せる。
去り際に、淡々とハルマは告げた。
「それでは皆さん、楽しいゲームになることを期待してるよ」
そう言い残し、ハルマはこの空間から姿を消した。
側近としてついていた美女もいつの間にか消えている。
「…………」
ツバメはこの説明において、様々なことを考察していった。
予想されるゲームの流れ。バランス。求められるもの。
だが、いずれにしても情報が足りなすぎる。
特に欲しいのは異世界の情報だ。
一体どのような大系の世界なのか。衣食住についてや文化、自衛手段。特に知りたいのは、命の価値だ。
人の命が守られて当然の世界なのか、はたまた命が消費されていくのが当たり前の世界なのか――
「――行くぞ」
頭を悩ませているツバメをよそに、クロードは静かに告げた。
「あ、ああ」
いつの間にかクロードによって用意されたであろう扉が目の前にあった。
案内されるままについて行き、先ほどの説明がなされた空間とは別の空間へと移動した。
きっと他のプレイヤーも神の案内のもと別の空間に案内されているだろう。
ツバメが空間に移動してきたのを確認すると、クロードは指を鳴らし扉を消す。
――今ここには、ツバメとクロードの二人きりだ。
「――ゲームの内容は理解はできたか?」
「まあね。そこまで難しいルールじゃなかったし」
「聡明だな」
「――ゲームが好きってだけの、ただの引きこもりだよ」
ツバメは、ゲームと名のつくものに目がなかった。
チェスのようなボードゲームはもちろん、TVゲーム、ネットゲーム、なんでも手を出した。
その趣味が祟って、外にも出ずに家に引きこもってばかりの毎日だったが――
「別にこれくらい、誰でも理解できるルールだろ」
「その割には、聞きたいことが山ほどあるといった顔だがな」
「ああ、いくつか質問させてもらうぞ」
聞きたいこと、知りたいこと、このゲームを勝つ上で重要な情報。
それらをできるだけ引き出したかった。
しかしクロードはそれを一旦制した。
「質問は受け付けよう。だが、その前にこちらの仕事をさせてくれ」
クロードは懐から一通の封筒らしきものを取り出した。
純白の綺麗な封筒だった。赤いシールで封がされている。
「まずはこれを開けてくれ」
ツバメは手渡される封筒を静かに受け取る。
「これは?」
「お前の役職、クリア条件、そしてスキルだ」
ドクン、と心臓が高鳴るのを確かに感じた。
説明されてからずっと気にはなっていたのだ。
僕に与えられるクリア条件、スキル。確かにこれがなければ作戦の立て用もない。
それに、実はワクワクもしている。
スキル、なんて非現実的な響き。それが手に入るのだ。ワクワクしないわけがない。
ツバメは自分に落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと丁寧に封筒を開けた。
そこには、一枚のカードが入っていた。
両面とも白地の無機質なカード。
だが、片方には文章が綴られていた。
神谷 燕 様
役職:想像者
クリア条件:自分以外のプレイヤー全員のスキルを知る
スキル:自分の考えた3つの能力を使用できる能力
「……なるほどね、これは」
面白い。
考えようによっては、かなり面白いスキルだ。試したいことが無限に湧いてくる。
そして、この"クリア条件"――
「――クロード。僕は貧乏くじを引いたかな?」
「とても、そうは見えん顔をしているがな」
そうだ。僕は今とてもワクワクしていた。
このゲームをプレイすることに。
このゲームを攻略することに。
未だに経験したことのない興奮、快感、達成感。
ずっと求めていたそれが、目の前にあるような気がしていた。




