ゲーム説明Ⅱ
役職:想像者
クリア条件:自分以外のプレイヤー全員のスキルを知る
スキル:自分の考えた3つの能力を使用できる能力
これがツバメに与えられた役職、クリア条件、スキルだ。
(すぐにでも色々と試したい……けれどまずは)
ツバメはカードから目を離し、クロードと向き合う。
「いくつか質問をさせてもらう」
「構わんよ。だが、最初に言っておくがクリア条件の内容、スキルの内容についての質問には応じられない。それはお前が向こうに行った時にでも色々と試して自分で理解するといい」
なるほど、いきなり答えは教えてもらえないということか。
クリア条件もそうだが、このスキル――
自分の考えた3つの能力を使用できる能力
これについては謎が多すぎる。
言葉通りに捉えるならば、このスキル。チートの類に入るほどに強力なものだ。
単純に自分の思うままに能力を想像できる上に、その枠が3つもあるのだ。
だが、推測の域は出ないがこれだけでスキルについてわかることがいくつかある。
まず、このスキルは自由に能力を変更できるものではないということ。
もし自由に変更できるのならば、最初から3つも枠を用意する必要がない。1つで十分だ。
それから枠が複数あることから、使える能力の枠を増やすといった類の能力も設定できない可能性が高い。
つまり純粋に3つ。それも一度こちらが決めた能力はその後二度と変更できない可能性が極めて高い。
あとは能力を設定できる自由度だが、それについてもある程度の推測はできる。
まずこれをゲームと称している以上、そのゲームバランスを崩壊させるような能力は設定できないだろう。
わかりやすい例が、クリア条件。
ツバメの条件『自分以外のプレイヤー全員のスキルを知る』
これを満たすのは簡単だ。自分のスキルを「自分以外のプレイヤーのスキルを知る」能力にしてしまえばいい。
ただそれではあまりにもゲームとして成り立っていない。クソゲーもいいとこだ。
つまりゲームのクリアに直接関わるような能力は恐らく設定できないだろう。
スキルはあくまで"武器"。その域を逸脱しない範囲での設定しかできないだろう。
だが、それよりもスキルについて気になることがあった。
(このスキルが、他のプレイヤーに与えられたものを含めても強い部類に入るのかどうかだ)
もしこのスキルがゲームを行う上で強力なものに分類されるなら、特に問題はない。
だが、この滑稽にも思えるほどに強力なスキル以上に強いスキルが存在するのであれば、設定する能力は慎重に選ばなければならない。
それに、転移する異世界の環境もスキル設定の大きなファクターとなる。
この場で設定する能力を決めるのは、早計もいいところだ。
「わかった。じゃあそれ以外に質問をさせてもらう」
聞きたいことはいくつかあるが、まずは――
「これから行く異世界は、どんなところだ?」
「――また漠然とした質問だな」
何も情報がないのだから、しょうがない。
「だがそれについては、ハルマも言っていただろう? 行ってからのお楽しみだと」
「つまり、教えてくれないってことか」
「ああ。異世界について説明するのは禁止されていてな」
なるほど。そういうことか。
全てはゲームが始まってから、自分で理解しろということか。
おそらく、この質問の時間でできるのは、ゲームのルールに関する質問のみだ。
ゲームの有利不利に関わってくる肝心の内容については伏せられているのだろう。
だったら……
「――スキルやクリア条件が他のプレイヤーと重複することはあるのか?」
「それはない。与えられる役職は唯一無二のものだと思えばいい」
つまり、同じような条件のプレイヤーは存在しないということか。
「このゲームで最大で勝利できる人数は、何人だ?」
「答えられない」
これはわかっていた。さっきハルマも言っていたことだ。
「なら聞き方を変えるよ。このゲームのクリア条件には、他者と協力しないと達成不可能なものは含まれているのか?」
「――そう解釈できる条件も、いくつかあるだろう」
なるほど。あくまで濁す言い方をするってことか。
だが、この言い方をするってことはプレイヤー同士で協力する場面が存在する可能性は高いだろう。
それに、勝利できるプレイヤーの人数の上限――
ツバメのクリア条件『自分以外のプレイヤー全員のスキルを知る』
この条件は、積極的にプレイヤーに関わる必要が出てくる。
つまり、クリア条件にはプレイヤーが絡むような条件が少なからず存在してるということだ。
その中には、協力が必要なもの。もしかしたら、妨害するような条件も可能性としてあるだろう。
最悪の場合――
「――このゲームにおいて、命を奪うような行為は許されているのか?」
「自由にしろ。そう言われたはずだ」
やはり。
最悪の場合も想定すれば、クリア条件にはプレイヤーの命を奪わなければ達成できないようなものも含まれている可能性もある。
そうなってくると、ツバメのクリア条件『自分以外のプレイヤー全員のスキルを知る』も難易度が俄然高いものになってくる。
他者との接触に、かなりのリスクが存在することになるからだ。
――結局、ゲームの核心に触れられそうな情報は得られなかったな。
だが推測できるだけの情報は多少は得られた。危機感を得るという意味でも重要だろう。
それにハルマが言っていた。クリア条件とスキルは比例関係にある、と。
つまりクリア条件とスキルは、全プレイヤーが同じ難易度、同じ強さということはないはずだ。
クリア条件が容易なプレイヤーもいれば、難易度が極端に高いプレイヤーもいる。
できればクリア条件が容易なプレイヤーと協力関係を築き、その本人からスキルを教えてもらうという方がリスクがなくて良い。
(僕のクリア条件より簡単なプレイヤーがいなければ、それもご破算だけどね)
だが、それはほぼないだろう。何せこれだけ強力なスキルだ。
協力できそうなプレイヤーは必ずいる。そう信じよう。
それにまだ未知の可能性ではあるが、協力できるのはプレイヤーだけではない。
異世界に住む人達とも良い関係を築ければ、それだけ頼もしい存在になってくれるはずだ。
後は――
「――最後に、もしこのゲームに敗北したらプレイヤーはどうなる?」
「……その答えも、お前なら大体想像がついているんじゃないのか?」
「転生ができずに魂が消滅するってとこか」
その答えにクロードは薄く笑う。どうやら肯定しているようだ。
何せこのゲームでは、クリア条件の未達成と死が同列の敗北条件に設定されている。
死以上のペナルティで、先ほどの転生の話を踏まえればなんとなく想像はついた。
「つまり俺達にはもう、現世に生き返るかこのまま転生できずに消滅するか、二つの道しか残されてないってことだな」
「そうなるな。俄然やる気が出るだろう?」
そうは言われても、正直ピンとこないというのが本音だ。
どうせもう神谷 燕という存在は死んでしまい、いなくなっているのだ。
それはいくら転生をしようが、変わらない。
神谷 燕という存在である僕にとっては、転生によって魂が生まれ変わろうとゲームに負けて消滅しようとさほど違いはないように思えた。
だが、いざ言葉にしてみると多少の恐怖はある。
魂が消滅する。
僕という存在の根源が消えてなくなる。
二度と現世に生を受けることなく、本当の意味での永遠の眠り。
それは死と同じほどに未知で、恐ろしいものにも感じた。
「――簡単に負けるつもりはない。勝つつもりでやるさ」
「そうしてくれ。お前が勝てば、俺も晴れて上級神に昇格できる」
クロードは再び懐に手をいれ、何かを取り出した。
「質問がないなら、これを渡しておこう」
「これは?」
手渡されたのは、一台のスマートフォンだった。
普段使っているものと同じ機種で、本体への傷の入り方や付いているカバーも見覚えのあるものだった。
というか、ツバメ本人が持っていたスマホだった。
「僕のスマホ――」
「今回のゲームにおいてそれは重宝するだろう。使い方については説明できないが、転移するまで時間がある、操作に慣れておけ」
「――これは僕以外のプレイヤーにも配られているのか?」
「ああ、端末の形は違うがな」
つまり生前持っていた携帯をそのまま持ってきたということか。
それはありがたい。だが、慣れておけっていうのはどういうことだ?
これは元々僕のものなのに……
そんな疑問を抱きながら、ツバメは手馴れた手つきでスマホを操作し始めた。
◆
数十分操作して、クロードの言っていた言葉の意味を理解した。
「……これ、僕のスマホじゃないじゃん」
いや、形や外見こそはツバメの使っていたものそのものだ。
だが、中身が全くの別物になっていた。
まず、パスコードがなくなっていた。
ホームボタンを押せばすぐにホームのメニュー画面に飛ぶようになっている。
これでは他人がこのスマホを拾った時に簡単に操作できてしまう。
そして、そのメニュー画面にも大きな変化があった。
入っていたであろうアプリケーションが極端に減っていた。
というかほとんど消されていた。
ハマっていたゲームも消されてしまい、苦労して育てていた愛用のキャラに対して思いを馳せる。
(いや、僕死んでるからあんまし関係ないんだけどね……)
消されたアプリの代わりに入っていたのは、いくつかの見慣れないアプリだった。
いくつかあるが、順に説明していこう。
まずは、受信専用メール。
これは送信機能のないメールボックスのようなものだ。
ここには恐らく、ゲームについての進捗やお知らせのようなものが神から届くようになっているのだろう。ちなみに現在はメールは一通もない。
次に、残り制限時間というアイコン。
これをタップすると、ゲーム終了までの残りの時間が表示される。
なるほど。確かにこれがなければ長期的な戦略は立てられない。非常に助かる。
次に、残り人数というアイコン。
これをタップすると、画面に大きく10人と表示される。
見ての通りだろう。これは残りのプレイヤーの人数を表しているのだ。
次に、プレイヤーというアイコン。
タップして表示されるのは、名簿のようなリストだった。
プレイヤー一覧
想像者 神谷 燕
捜索者 南條 薫
守護者 大鳥 真冬
魔術師 谷川 秀樹
異常者 ベルガモット・スターク
聖職者 安城 妃波
殺戮者 一ノ瀬 誠
支援者 市橋 陽平
情報屋 黒木 信子
復讐者 榊原 乙音
このゲームに参加しているプレイヤーの名前と役職だろう。
これは中々にいい情報だ。
特に、この役職。
これだけで、その人がどのようなクリア条件、スキルを持っているか印象でわかる。
あくまで印象なので詳細まではイメージに頼るしかないが、危険か否か。協力できるか否か、という判断材料に一役買ってくれそうだ。
殺戮者、異常者なんて役職のプレイヤーは警戒するに越したことはないだろう。
逆に守護者なんて頼もしそうだ。魔術師や支援者、情報屋なんかも協力できたらしていきたい。
名前が載っているのありがたい。これで役職と性別を結びつけることができる。
ベルガモット、という名前から性別まで判断することまではできないが、他は日本人だ。恐らく大丈夫だろう。
薫、という名前が少し怪しいが。
後二つアイコンがある。恐らくこの二つは僕のスマホにしかないものだ。
一つはクリア条件、と書かれたアイコン。
これをタップすると、僕以外のプレイヤーの役職、名前、そして文字入力のフォームがある。
そこに触れると、「スキルの内容を入力してください」とアラートが表示された後にキーパッドが出てくる。
おそらくこれは、僕のクリア条件に関わってくるものだ。
知り得た他のプレイヤーのスキルの内容をここに入力する。
そして全員分を入力し終えた時に、僕は晴れてクリア条件を満たすことができるのだろう。
もう一つは、スキルと書かれたアイコン。
これに関しては少し複雑なので、また今度説明しよう。考えることも多い。
それよりも――
「そろそろ時間だ――」
クロードがそう告げる。
どうやらスマホをいじっている間に、転移の時間がやってきたようだ。
転移、すなわちゲームが始まる。
ツバメは立ち上がり、またもいつの間にか用意されていた扉の前に立つ。
「この扉の先が異世界だ。向こうの世界に足を踏み入れた瞬間にゲームが始まる」
「ああ、わかったよ」
ツバメは呼吸を整えて、その大きな扉を向き合う。
今持っているのは神からもらったスキル、スマホ、そして自分の身一つだ。
これで異世界を生き抜き、クリア条件を満たしていかなければならない。
――なんて面白そうなゲームだろうか。
自分の命が関わっているとはいえ、沸き立つ興奮を抑えることができそうにない。
「――いい面構えだな」
「そう?」
「まるで買ったばかりのゲームを手にして、待ちきれないとばかりにそわそわする子供のようだ」
そう言われると、少し恥ずかしいものがある。
「だが、お前はそれでいいのかもしれんな。精々、我々神に踊らされんようゲームを楽しんでみることだ」
「言われなくても」
神のお膳立てなんて知ったことじゃない。
僕は僕なりに、この世界を生き抜いてみせる。
そう息巻いて、ツバメは異世界へと旅立った。
――ゲームスタート




