プロローグⅡ
クロードに案内されて潜った扉の先は、またしても先ほど似たような場所だった。
真っ暗な空間に、スポットライトが当たる無機質な空間。
ただ先ほど違うのは、そこにいるのがツバメとクロードだけではないという点だ。
周囲を見渡すとそこには、様々な人影があった。
老若男女出揃っているといった感じで、人数を十数人はいるだろう。
「……この人たちは?」
「ツバメと同じく、非業の死を遂げてここに呼び出された者達だ」
なるほど、僕は同じ立場の人たちということか。
確かに、よく見てみると二人一組で固まっているのがわかる。
つまり片方は現世で非業の死とやらを遂げてここにきた人間で、もう片方はクロードのような神様ということになる。
少しずつ状況が掴めてきた。
「恐らく我々を含めてここにいるのは20人ほどだろう」
それが多いのか少ないのかはわからないが、ともかくこの人数で試験とやらを行うのだろう。
ツバメは自分たち以外の人達の様子を見てみようと、周囲を見渡した。
正直、スポットライトらしき光が弱くて距離の遠いところにいる人まではよく見えなかったが、ギリギリ顔が見えるくらいの距離にいる女の子を発見した。
「…………」
小さな女の子だった。
見た目は12か13歳くらいに見える。
紫色のふわふわとした髪型で、人当たりが柔らかそうな印象を受けた。
ただ、その表情には怯えの色が見えた。
「そりゃあそうだよなぁ……」
ツバメ本人ですら今は冷静であるかのように振舞ってはいるが、内心では今から何が起こるのか気が気ではない。
それがあんな小さな女の子であれば尚更。
いや、ここにいる全員が恐怖を感じていてもおかしくはないだろう。
話しかけてみようか……
どうしようか迷っている、その時だった。
「はぁ~~い皆さん、おっはようございまぁーーす!!」
溌剌とした大きな女性の声が空間に響き渡った。
声のした方を見ると、そこにはピエロのような格好をした女性が立っていた。
その背後には、スラっとしたスタイルの少々お堅い印象を受ける美人さんが控えている。
ピエロのような格好をした女性は手に持っているステッキをくるくると回しながらこちらを見渡していた。
「あの人は?」
「上級の神、ハルマだ。後ろにいるのが側近のヴェザリウス」
クロードは相変わらず淡々とそう告げた。
「今回の試験の監督者みたいなものだ。見た目はふざけた奴だが、存外切れる。気をつけろ」
「なるほど、ね」
緊張感のあるこの場を一気にぶち壊すかのようなテンションで現れたハルマはステッキをストンと地につけ、ニコニコと笑みを振りまいている。
だが、あの笑みがどうも作り物臭く感じてしまうのは自分だけなのだろうか。
「やあやあ下界で悲惨な死に方しちゃった皆さんご機嫌麗しゅう。私の名前はハルマ。この度の昇級試験の監督を務めさせていっただきまーす! 今から君たちに何をしてもらうのか説明するからよーっく聞いててね!」
どうやらこれからのことについて説明してくれるらしい。
ということは、この場は試験についての説明会というわけか。
「まず、君たちの状況については付いてる神から説明があったと思うんだけど、もう一度言うね。君たちには私たちの用意した試験を受けてもらいます。まあ試験って言ってもゲームみたいなものだから気楽に受けてもらっていいよ」
ゲーム、ときたか。
どうやら筆記試験とかの類ではないらしい。スポーツの試合や実技に近い意味合いだろうか?
「で、試験……ってなんか堅苦しい言い方だよね。もうゲームでいいや。で、今からゲームの説明をするんだけど、そもそも君たちにとって、この状況ってすっごく理不尽だと思うんだ」
ピンと立てた人差し指を口元に当てながらハルマは続ける。
「いきなり死んで、こんなところに呼び出されて、挙句の果てには試験を受けろだなんて、まあ理不尽だし、めんどくさいよね? 一体何様のつもりだって感じ。私達はまあ神様なんだけどね! だ、か、ら~、このゲームをするに当たってのご褒美について先に説明しちゃうね」
ご褒美? ゲームに勝った際の報酬というわけか。
確かにそれは気になる。いくら神にとはいえ、いい様に使われるのは御免だ。
「このゲームに勝利したプレイヤーはなんと! 現世にて生き返らせてあげちゃいます~!」
「なっ!?」
生き返る、だって!?
つまりそれは、転生とかで人生を新しくリセットという話ではない。
文字通りの、人生のやり直しだ。
「あ、そんなことできるのか? って顔だね~。私達は神様だよ。そんなことほっほいのほ~いでできちゃうよ。まあこんなこと普通はしないんだけどね」
ハルマの言葉に、ここに集められた現世の人達もざわめく。
横にいる神たちはこのことを知っていたのか、身動きひとつ取る様子はないが。
「まあそんな感じ! だからめんどくさいって思わずに皆さん気張ってゲームに参加してくださいね~!」
確かに、ゲームに勝利した褒美として現世での蘇りは俺達にとってはかなり魅力的だ。
なぜなら、ここにいる人達は皆、望まぬ死を迎えてきた者達ばかりなのだから。
現世に強い未練を残している人にとっては、俄然やる気が出る話だろう。
だが――
「それじゃあ、次にゲームの説明を――」
「待った」
ハルマを声を遮るように、男性の声が上がった。
綺麗な声だった。
ここからでは声の主の顔は見えないが、右手を上げてハルマに質問をしようとしている。
「――何かな?」
「ゲームに勝利した場合の特典については理解した。それだけ聞けばこちら側にはかなりメリットのある話だ。だが、ゲームに敗北した場合はどうなる? それについての説明を求める」
それは、ツバメも気になっていたことだ。
ゲームをする以上、その結果は勝利と敗北、もしくは引き分けのような形になるのが普通だ。
勝利した場合のメリットのみを説明されたが、それ以外の場合、つまり敗北した場合のデメリットについてはなんの説明もなされていない。
まるで機械のように質問するその男を、ハルマは静かに見つめていた。
いつの間にかハルマの溌剌とした笑顔は、消えていた。
その代わりそこにあったのは、サディスティックな笑み。
「――ゲームに敗北した場合、については、この場では説明しないよ。騒がれるの面倒だし」
「それは、騒ぎたくなるような目に遭う、と解釈してもいいのか?」
「そう取ってもらってもいいよ。あと、この場では説明したくないだけ。そんなに知りたかったら、後で横に居る担当の神にでも聞くといいよ」
「教えてくれるのか?」
「その神の機嫌さえ良ければね」
「わかった。あと、もう一つ質問だ。このゲームにおける勝者は、一人か?」
「そんなことないよ。このゲームの勝者は複数人現れる場合もある。逆に言えば、一人も勝者が出ない場合もあるけどね」
「ゲームの参加者、つまりプレイヤーが全員勝利するケースもあるのか?」
「…………」
ツバメは見逃さなかった。
その質問を受けた時のハルマの笑みに、より残忍さを増したことに。
「――それは、ゲームが始まってからのお楽しみだよ」
「……大体理解した。以上だ」
それきり、男は黙りこんだ。
今のやり取りで場のざわめきがより大きなものへと変わる。
「はいは~い静かにして~! さっきは答えちゃったけど、もう説明の途中に質問とか挟むのはナシだよ! あと騒ぐのもNG! 私、話の腰を折られるのが大っ嫌いだから。もし騒いだり説明の邪魔とかしたら――」
ハルマはステッキを前に突き出し、満面の笑みで告げた。
「――魂、消し飛ばしちゃうぞ☆」
神がそれを言うと、中々に洒落になってないな。
だが、今のやりとりでゲームを取り巻く大体の様相は掴めた。
僕達は選ばれたのだ。
神達のゲームに。
そして勝てば、甦れる。
負ければ、ロクな目に遭わないだろう。
なるほど。なるほど。なるほど。
面白い。
やってやろうじゃないか。そのゲームとやらを。
ツバメは意を決し、誰も気づかないところで不敵に笑った。




