第二十一話
ふと、目が覚める。ぐっすり寝ていたのか、随分とすっきりした目覚めだった。
いつもの天蓋が見えて、けれど、いつもと違って妙な照らされ方をしていた。窓の外からの光でも無い、間接的で暗いとも取れるシャンデリアのそれでも無い。オレンジの柔らかな、けれどゆらゆらと踊る光は、壁に掛かった燭台の炎だ。
今何時だろう。絵を朧に照らすその光しか、部屋に無いようだ。
身動きを取ろうとして。
「……え?」
「――ユリ、起きたの!?」
重い腕に声を洩らすと、耳元で大きな声がして眉が寄った。どうにも、ミーナがベッドに潜り込んでいた様だ。起き上がって私を見つめるその顔は、不安定な光に照らされているからか、何だか必死に見える。
「ん、……一緒に、寝てたんだっけ」
記憶を辿れど、そもそもいつ寝始めたのかも分からない。っていうか、寝ていたのならどうして灯りが灯っているのだろう。いや、眠りを妨げる物ではないけれど。
私の問い掛けにミーナは一度目を見開いて、それからそっと悲しそうに微笑んだ。
そうして、ぎゅ、と私を抱き締める。
「うん、一緒に寝てた。 ……今日はもう遅いから、また寝よ、ユリ」
優しい、優しい声に、気恥ずかしい程の抱擁。戸惑って、彼女をそっと離しながら返す。
「…………ミーナ? 私、眠くないんだけど」
僅かに抵抗する彼女の手を離して、身を起こすと。
レヴィラトが、ソファに座ってこちらへ微笑み掛けていた。
「…………あれ? なんで、レヴィラト様が」
本当に、今は何時なのだろう? 彼の前には本が置いてあるから、壁の燭台はきっとその為だったのだろうな。
銀髪を炎の色に染めながら、レヴィラトは柔らかに微笑んだ。
「今日はずっとここに居ますから、ゆっくりお休みくださって良いですよ」
「………あ、あ、え?」
な、何だこのいきなりの展開は!? 一瞬スチルかと思うくらい綺麗な微笑みだったぞ!? そんなもの私に向けないでくれ、びっくりするだろ!
一気に体温が上がって、それと同時に目が覚めてくる。
どうにも、暗い部屋と静けさから言って、普段ならとうに眠りについている時間の様だ。ミーナもレヴィラトも寝ていなかったようだけど、それはどうしてなのだろうか。
寝る前に、何が有ったっけ?
どう頭を捻っても、いつベッドに入ったのかが分からない。仕方ないから最近の出来事を思い出すことにした。
えっと……まず、グレイスとフィルシが良い仲だと分かって、それでミーナを疑ってて。考え込んでいるのを体調が悪いんだと勘違いされてしまって、一日を部屋で過ごすことになって。それで、………林檎を貰ったり、して、考え込んでいたんだけど…………そのまま、寝た、のか………?
じゃあミーナは体調の悪い私を心配して添い寝してるのだろうか? レヴィラトは、今日は文字を教えられなかったから、ここで暇を持て余している、とか? ……いや、暇を持て余すって表現はちょっと失礼か。まぁともかくも、そうだとするなら何故彼は未だにここにいるのだろう? 或いは、私が時間を読み違えただけで、今はまだいつも文字を練習してるくらいの時間なのだろうか?
よくは分からないが……そこまで寝たのなら、この冴えた頭も納得だ。正直眠り過ぎて頭が痛いくらいだと思うけれど、今のところそんなことはなく、朝目覚めたような心地だし。この暗い中にすっきり目覚めるとは、生活リズムが崩れていた前世の長期休暇を思い出すな。
「……ユリ、眠ろ?」
「あ、あはは…………」
今まで起きていたのだろうか、とろんとした目になってこちらを見てくるミーナに、乾いた笑いを洩らす。いや、私ね、今までぐっすり寝てたんだ、分かるでしょ? 完全に目が冴えてしまってるんだよね。けれど彼女は恐らく私の為に起きていたのだろうから、どうにも、困った物だ。
私の腕を掴んで、ゆっくり私を寝かせようとしてくる。ちょっと待て待て、強引だな。
「あ、あの……レヴィラト様、今日は寝てしまってて、すいませんでした」
一先ず謝ると、レヴィラトはにっこりと綺麗に微笑む。
「いえ、構いませんよ。こちらこそ申し訳ありません、毎日続けるのは良くなかったですね。 疲れが溜まっていたんでしょうね」
「い、いえそんな! ただその、今日は考えごとで、夜寝れなかったというか……」
今現在私の手を引いて甘えてきているこいつ、こいつのせいで寝れなかったんですよ。いやまぁ、自業自得と言えない事もないけれど。
しかし、彼女のことであれ程悩んでいた筈なのに……ぐっすりと寝たからか、それとも今はそういう気分なのか、彼女の顔を見ても、綺麗な肌を見ても、安らかな心地にしかならない。そう、彼女が、一緒に寝てくれて、安心感があるように感じるくらい。
……まぁ、そういう意味では疲れてたんだろう。村での日々から急にこんな毎日に変わって、戸惑わない訳がない。色んなことで悩んで、色々考えて。
ん、そう思うと、もう寝てしまった方が良い気がしてきた。何しろ、いつもあれこれ考えて眠りに就く物だから、こんなに穏やかに眠るチャンスなんて、中々ないのだ。寝過ぎることだってたまには良いだろう。
「ほら、ユリ、寝よ?」
く、と引っ張られたタイミングで、大人しくベッドに倒れ込んでやる。すぐに腕に絡み付いてくるミーナが、けれどほっとする体温で、温かくて。
布団も柔らかいし、明るさも心地良いし、この様子だと、こんなに目が冴えていてもあっという間に寝てしまうかもな。
それも良いだろう、と布団を被りながら、そう思った。
こんなに穏やかに寝たら、きっと、目覚めは素晴らしいだろうから。




