親睦
不思議な出会いを経て無事村へ帰ることができてしばらく。
あの時は命の危機を脱し、村の皆へもなんとか立ち入り禁止の森へ入ったと思われないよう誤魔化すことができ、おおよそ理想的な展開に終わった。
お袋には若干疑われた気がするが……見たわけでもないのに疑ったところで時間の無駄だからだろう。追及はされなかった。
しかし、時間が経ってみるとあの子との出会いは嘘だったんじゃないかと思えてくる。
あれは現実である。それを確かめたい思いで、俺はあれから犬を連れて、度々神殿を訪れるようになっていた。
「…………」
側にいる彼女は、無言で林檎を頬張っている。
リツコ。一度は彼女が村に伝わる神の使いなんじゃないかと思ったが、どこからどう見ても彼女は人間だ。
とはいえ彼女の存在について他人に聞くことなんてできる筈もない。かといって本人が話してくれるわけもなく、どうしてもモヤモヤする。
「…………?」
怪訝な様子が顔にでていたのか、リツコが不安そうに顔を覗き込んでくる。結局彼女はなにかの名前以外を発言することはない。
前回来た時には、試しに彼女に言葉を教えてみたのだが、駄目だった。なんというか、意識的に覚えるのを避けているような…………そんな反応だったから、俺ももう諦めている。
「ん…………」
「えっ?あ、ありがとな」
考え事をしていたら、リツコが食べかけの林檎を差し出してきた。この村の特産品ではあるのだが、村人がありつけることは滅多にない。
会話はできないとはいえ、だんだん行動の意図はわかるようになってきた。ありがたく受け取りひと齧り。そして残りを犬に分ける。
こんな良いものを犬野郎と分けるのは勿体ない思いもあるが、さっきからリツコが犬の方を向いているから仕方がない。どうも犬が好きらしい。
「あっ!ちょっチョメ!これ以上は駄目だ!種まで食おうとすんじゃないこの馬鹿犬!」
芯まで噛み千切ろうとしていたのを咄嗟に引き剥がす。犬野郎の食い意地は今に始まったことじゃないが、全く油断も隙もあったものじゃない。
「………………ふふっ」
じゃれる俺達を見て、リツコは初めての笑みを見せた────────
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刺すような夏の陽射しを背に受けて、ようやく目的の村へとやって来ました。
もう少し楽な手段で辿り着きたかったものですが、私の使命は情報収集。村人に怪しまれないためには、正面から入り込む他ありません。
早速村人らしき方を見つけました。日傘を畳み、第一村人へと滞在交渉を図ります。
「あのー……すみません、しばらくこの村に滞在させていただきたいのですが…………」
「えっ?あんた誰だ?この村に宿とかないんだが」
「えーっと、旅人?です。謝礼は存分に出させていただくので」
流石に歓迎されていませんが、この反応は予想済み。用意はあります。
「謝礼ねえ。どんぐらい出せるんだ?」
「大体これくらいです」
当然の質問に対し、耳打ちして返答します。目を丸くして一瞬後退りする村の方。彼らからすれば破格の金額です。鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはこの事なのでしょう。
「わ、わかった、すぐに村長に掛け合う!……絶対納得させっから!」
そう言って村の奥へ駆けていかれました。ひとまず、第一段階はクリアしたと思って良いでしょう。
勝負はここからです。かねてよりこの地で何が行われていたか……一切合切解き明かしませんと。




